執筆者:SERENITAS | 表参道歯科アールズクリニック 院長 田中良一
東京医科歯科大学(東京科学大学)卒業
元 山王病院 歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)
「白くしてほしい」という相談は、少なくありません。
白ければ綺麗に見える。白ければ若く見える。そう考えるのは自然なことだと思います。テレビや雑誌で目にする人たちは、たしかに白い歯をしています。
ただ、白くした歯を見て、「綺麗だな」と感じることは、実は少ないのです。
以前、ある患者さんが相談に来られました。友人がセラミックで歯を白くしたのを見て、自分もやりたいと思ったそうです。
ところが、その友人に会うたびに、歯にばかり目がいく。笑顔を見ているはずなのに、歯を見てしまう。それが気になって、自分はどうすればいいか分からなくなった、と。
この話は、審美歯科の本質的な問題を突いています。
白すぎると、歯だけが顔から浮きます。均一に整いすぎると、作り物に見えます。表面だけ明るさを上げれば上げるほど、光を跳ね返す硬い質感になり、冷たい印象になる。
表面的な白さを追うほど、その人らしさから遠ざかる。これは技術の問題ではなく、目標設定の問題です。
反対に、こういう経験はないでしょうか。
誰かの口元を見て「綺麗だな」と思ったのに、何が綺麗だったのか具体的に説明できない。白かったのか、形が整っていたのか、思い出せない。ただ、笑顔が自然だった。口元に違和感がなかった。それだけです。
私はこの「それだけ」の状態を、治療のゴールだと考えています。
歯が目立たないこと。口元が主張しないこと。笑ったときに、歯ではなく表情が見えること。これが実現できたとき、治療は成功だと思います。
白さは数値で測れます。色のガイドを当てれば、誰でも比較できます。しかし、美しさは測れません。
天然の歯は、光を透過し拡散します。表面で反射するのではなく、内側に入り込んで、柔らかく戻ってくる。だから温かく見えるし、自然に見える。人工的に白くした歯は、その表面で光を跳ね返します。だから冷たく見えるし、硬く見える。「何かした」ように見える。
本当に美しい口元は、色ではなく、光の通り方と広がり方で決まります。
白さの先に、探していたものがあるのかもしれません。
