当院のサイトには、症例写真がありません。

審美歯科のサイトを探している方にとって、これは不安材料だと思います。ビフォーアフターを見て比較したい。どのくらいの変化があるのか、写真で確認したい。それは当然のことです。

それでも私が症例写真を掲載しない理由を、お話しさせてください。

一つ目の理由は、患者さんの意思です。

当院に来られる方の多くは、治療を受けたこと自体を知られたくないとお考えです。「誰にも気づかれない仕上がり」を求めて来院された方に、「写真を撮らせてください、サイトに載せたいので」とお願いすることは、その方が大切にしている価値観に反します。

私たちがそれをお願いしないのは、単なるポリシーではなく、患者さんとの信頼関係の問題です。

二つ目の理由は、写真の限界です。

口腔内写真は、ある瞬間の、ある角度の、ある照明条件での見え方を記録したものです。しかし、歯は日常の中で見えるものです。自然光の下で、蛍光灯の下で、夕方の光の中で、それぞれ違って見える。笑ったとき、話しているとき、黙っているとき、口元の印象は変わる。

写真で伝わるのは、その中の一枚だけです。

私が治療で目指しているのは、どの光の下でも、どの角度から見ても破綻しない仕上がりです。それは一枚の写真では判断できません。むしろ、写真映えする歯と、日常で自然に見える歯は、違うことのほうが多い。

写真で見せたら地味に見える。しかし、その方の日常の中では、口元のことを忘れていられる。鏡を見ても、人と話しても、歯のことが気にならない。その価値は、写真では伝わりません。

症例写真がないことで、判断材料が少ないと感じる方もいらっしゃると思います。

その代わりに私たちが提供できるのは、初診での対話です。実際にお口の中を拝見し、何が起きているのかを診断し、どういう選択肢があるのかをお伝えする。写真を見て比較するよりも、ご自身の状態について正確な情報を得ることのほうが、判断の材料としては確かだと考えています。

執筆者:SERENITAS | 表参道歯科アールズクリニック 院長 田中良一
東京医科歯科大学(東京科学大学)卒業
元 山王病院 歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)