執筆者:SERENITAS | 表参道歯科アールズクリニック 院長 田中良一
東京医科歯科大学(東京科学大学)卒業
元 山王病院 歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)
美しいとは、どのような状態を指すのでしょうか。この問いは、古代ギリシャから現代に至るまで、哲学、美学、芸術、心理学、あらゆる領域で問われ続けてきました。
答えは一つではありません。
時代によって変わり、文化によって異なり、
個人の感受性によっても揺れ動きます。
それでも、人間には文化や時代を超えて
共通して美しいと感じる要素があります。
黄金比。対称性。規則的なパターン。
これらには、文化の違いを超えて
人の心を惹きつける力が宿っています。
調和
最も古くから共有されてきた美の定義は、
調和という概念にあります。
対称性。比例。黄金比。
過不足のない整い。完成された佇まい。
13世紀の神学者トマス・アクィナスは
「美とは部分と全体の適切な関係である」と述べました。
顔の各パーツがバランスよく配置され、
歯の大きさや形状が全体と調和している状態。
それは見る人に、安心と心地よさをもたらします。
───
快
美しいと感じる瞬間には、
感覚的な快が伴います。
見た瞬間に感じる心地よさ。
これ以上手を加える必要がないと感じる完成度。
呼吸がゆるみ、心が静けさに包まれる瞬間。
そこには、痛みや不快感の不在、
つまり無意識的な安心感も含まれています。
───
感情
近現代の美学では、
「美とは心が動くこと」とも捉えられています。
美しい景色、音楽、人の笑顔に触れて
胸が震えるような感動。
19世紀の美術評論家ジョン・ラスキンは
「美とは見る者の心の中にある」と記しました。
美しさとは客観的に存在するものではなく、
それを見る人の心が創り出すものなのかもしれません。
───
静けさ
美しいものには、
「完成しているのに、主張しない」という特徴があります。
加える必要も、削る必要もない状態。
フランス語ではsobriété(抑制的な美)。
日本の美意識では「余白」「間」「静謐」。
華美ではないのに心を打つ。
シンプルなのに深みがある。
どれほど技術的に完璧であっても、
不自然に白すぎたり、整いすぎていれば、
かえって違和感を生んでしまいます。
その人の個性や年齢、顔立ちに自然に馴染む、
控えめでありながら確かな美しさ。
それが、長く残る美の形です。
───
目に見えないもの
美しさは視覚だけで完結しません。
音。香り。文章のリズム。
所作。心の在り方。
穏やかでありながら芯がある内面。
丁寧な対応。誠実さ。
見えない部分の美しさが、
結果として目に見える美しさに繋がっていきます。
───
結び
調和と感情が同時に存在し、
過不足なく、静かに心を満たす状態。
主張しすぎることなく、
しかし確かに人を惹きつける力を持ち、
「そこにあること」が自然であると感じられるもの。
それが、美しさの一つの答えかもしれません。
