美しいとは、どのような状態を指すのでしょうか。この問いは、古代ギリシャから現代に至るまで、哲学、美学、芸術、心理学、あらゆる領域で問われ続けてきました。

答えは一つではありません。

時代によって変わり、文化によって異なり、

個人の感受性によっても揺れ動きます。

それでも、人間には文化や時代を超えて

共通して美しいと感じる要素があります。

黄金比。対称性。規則的なパターン。

これらには、文化の違いを超えて

人の心を惹きつける力が宿っています。

調和

最も古くから共有されてきた美の定義は、

調和という概念にあります。

対称性。比例。黄金比。

過不足のない整い。完成された佇まい。

13世紀の神学者トマス・アクィナスは

「美とは部分と全体の適切な関係である」と述べました。

顔の各パーツがバランスよく配置され、

歯の大きさや形状が全体と調和している状態。

それは見る人に、安心と心地よさをもたらします。

───

美しいと感じる瞬間には、

感覚的な快が伴います。

見た瞬間に感じる心地よさ。

これ以上手を加える必要がないと感じる完成度。

呼吸がゆるみ、心が静けさに包まれる瞬間。

そこには、痛みや不快感の不在、

つまり無意識的な安心感も含まれています。

───

感情

近現代の美学では、

「美とは心が動くこと」とも捉えられています。

美しい景色、音楽、人の笑顔に触れて

胸が震えるような感動。

19世紀の美術評論家ジョン・ラスキンは

「美とは見る者の心の中にある」と記しました。

美しさとは客観的に存在するものではなく、

それを見る人の心が創り出すものなのかもしれません。

───

静けさ

美しいものには、

「完成しているのに、主張しない」という特徴があります。

加える必要も、削る必要もない状態。

フランス語ではsobriété(抑制的な美)。

日本の美意識では「余白」「間」「静謐」。

華美ではないのに心を打つ。

シンプルなのに深みがある。

どれほど技術的に完璧であっても、

不自然に白すぎたり、整いすぎていれば、

かえって違和感を生んでしまいます。

その人の個性や年齢、顔立ちに自然に馴染む、

控えめでありながら確かな美しさ。

それが、長く残る美の形です。

───

目に見えないもの

美しさは視覚だけで完結しません。

音。香り。文章のリズム。

所作。心の在り方。

穏やかでありながら芯がある内面。

丁寧な対応。誠実さ。

見えない部分の美しさが、

結果として目に見える美しさに繋がっていきます。

───

結び

調和と感情が同時に存在し、

過不足なく、静かに心を満たす状態。

主張しすぎることなく、

しかし確かに人を惹きつける力を持ち、

「そこにあること」が自然であると感じられるもの。

それが、美しさの一つの答えかもしれません。

執筆者:SERENITAS by 表参道歯科アールズクリニック 院長 田中良一
東京医科歯科大学(東京科学大学)卒業
元 山王病院 歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)