執筆者:SERENITAS | 表参道歯科アールズクリニック 院長 田中良一
東京医科歯科大学(東京科学大学)卒業
元 山王病院 歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)
当院の初診では、まずお話を伺い、基本的な診査とレントゲン撮影を行います。
小さな範囲の治療で済む場合は、そのまま治療計画に進みます。
ただし、広範囲の審美修復が必要な場合は、精密検査と診断に3回の来院をお願いしています。
これを聞いて、「時間がかかりすぎる」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。他の医院では、初診で検査をして、その日のうちに治療方針が決まることも珍しくないでしょう。
それでも私が精密検査を省かないのには、理由があります。
審美歯科の治療をしてきて、最も多く聞く後悔の言葉があります。
「あのとき、もう少し考えればよかった。」
歯科治療は、やり直しがききにくい。削った歯は戻りません。被せ物は外せても、元の歯はもうない。一度手をつけたら、その選択と長く付き合うことになります。
それなのに、治療の入り口では「早く決めてください」という圧力がかかりやすい。医院側のスケジュール、患者さん自身の焦り、「せっかく来たのだから」という気持ち。これらが重なると、判断が歪みます。
広範囲の修復が必要な場合、私が精密検査に進むのは、情報が足りない状態で判断すべきではないからです。
初診でお話を伺い、基本的な診査を行う。その上で必要と判断すれば、精密検査で口腔内写真・歯型・咬合記録を採取する。それらを分析してから、診断結果と選択肢をお伝えする。この過程で、患者さんの中に少しずつ判断の材料が揃っていきます。
そして、3回目が終わった後、すぐに答えを出す必要もありません。
ご自宅でゆっくり考えていただいて構いません。ご家族と相談されても、他の医院で意見を聞かれても構いません。
「早く治療を始めたい」というお気持ちは理解できます。違和感がある状態は、日々のストレスになります。
ただ、急がなければならない歯科治療は、実はそう多くありません。今日決めなければ手遅れになる、という状況は稀です。
考えたいなら、考えたほうがいい。答えが出たときにご連絡いただければ、そこから始めます。
急がないことは、消極的な姿勢ではありません。未来のあなたの選択肢を守るための、最も積極的な判断だと私は考えています。
