執筆者:表参道歯科アールズクリニック 院長 田中良一
東京医科歯科大学(東京科学大学)歯学部卒業
元 山王病院 歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)
「もっと考えればよかった」
審美歯科の後悔で、最も多い言葉かもしれません。
それは、技術が足りなかったからでも、情報がなかったからでもない場合があります。
多くは、判断を急いだことそのものが後悔の原因になっています。
判断は、なぜ急いでしまうのか
歯の見た目に関する悩みは、日常の中で何度も意識させられます。
鏡を見るたびに気になる。
人と話すときに視線が気になる。
写真に写る自分が気になる。
こうした状態が続くと、「早く何とかしたい」という感情が自然に生まれます。
判断が早まるのは、弱さではありません。
とても自然な反応です。
情報が多いほど、判断は早くなる
意外に思われるかもしれませんが、情報が多いほど、人は早く決めようとします。
比較表。
症例写真。
メリットとデメリット。
それらを見続けるうちに、「これ以上考えても同じだろう」という疲れが生まれます。
そして、考えきる前に、決めてしまう。
この状態で下した判断は、後から揺れやすくなります。
技術ではなく「速度」が問題になるとき
後悔の多くは、治療内容そのものよりも、
もう少し時間を取ればよかった
その場の空気で決めてしまった
迷っている状態で進んでしまった
こうした部分に集約されます。
つまり問題は、「何を選んだか」より「どの速度で選んだか」なのかもしれません。
急いだ判断は、正しかったかどうかが分からない
判断を急ぐと、もう一つの問題が起こります。
それは、その判断が本当に正しかったのか検証できなくなることです。
迷いが残ったまま治療が進むと、結果が良くても、心のどこかに引っかかりが残ります。
後悔とは、結果への不満というより、判断への納得不足なのかもしれません。
「決めない時間」は、無駄なのか
治療を決めない時間は、遠回りに見えることがあります。
しかし、考える時間を取った人ほど、後から迷いにくくなります。
判断を急がないことは、治療を否定することではありません。
判断の質を整えるための準備期間です。
立ち止まるという選択
審美歯科において、「今すぐ決めない」という選択はほとんど語られません。
けれど、後悔を減らすという観点では、とても重要な選択肢です。
判断を急がないことは、治療を遅らせることではありません。
自分の判断を、信じられるようになることです。
