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- 審美歯科principle – 「審美歯科」と「美容歯科」の違い
執筆者:表参道歯科アールズクリニック 院長 田中良一
東京医科歯科大学(現:東京科学大学)歯学部卒業
元 山王病院 歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)
「引き出す美しさ」と「加える美しさ」
口元の美しさを求めて歯科医院を訪れる方が増えている今、「審美歯科」と「美容歯科」という言葉を耳にする機会も多くなりました。一見すると同じように思えるこれらの言葉ですが、実はその背景にある考え方には、大きな違いが存在します。
「審美歯科は引き出す医療、美容歯科は加える医療」──このシンプルな一文の中には、美しさに対する深い哲学と、患者様お一人おひとりに向き合う姿勢の本質が込められています。
今日は、この「引き出す」という考え方が持つ意味、そして日々の診療の中でどのように実践されているのかを、お話しさせていただきます。
「引き出す」という言葉に込められた想い
「引き出す」という表現には、すでにそこに存在している何かを、丁寧に見つけ出し、磨き上げていくという意味が込められています。それは、外側から新しい何かを付け足すのではなく、内側に秘められた可能性を最大限に発揮させるということです。
まるで、原石の中に眠る美しい結晶を見出し、一つひとつの面を丁寧に磨いて宝石へと仕上げていくように、審美歯科は、あなたがもともとお持ちの美しさの種を大切に育て、花開かせていく医療なのです。
あなただけの美しさの設計図を読み解く
私たち一人ひとりの顔立ちには、それぞれ固有のバランスと調和が存在しています。骨格の形、頬の筋肉のつき方、唇の曲線、顔全体の輪郭、これらすべてが繊細に組み合わさって、その方だけが持つ個性を作り出しています。
審美歯科では、この「あなただけの美しさの設計図」を丁寧に読み解くことから治療が始まります。
どのような歯の形がお顔立ちと美しく調和するのか、どのような笑顔のラインが表情をより魅力的に引き立てるのか、そしてどのような色調が肌の色と自然に馴染むのか
これらを総合的に、そして繊細に判断していきます。
画一的な「理想の美しさ」という型にはめるのではなく、その方が本来お持ちの美的ポテンシャルを最大限に引き出していく。これが、審美歯科の基本的な姿勢であり、何よりも大切にしている考え方なのです。
時間という贅沢を味わう
「引き出す」アプローチのもう一つの大きな特徴は、時間をかけるということです。
急いで劇的な変化を求めるのではなく、じっくりと丁寧に、そして確実な美しさを築いていきます。
これは、決して効率が悪いということではありません。むしろ、長い人生という視点に立ったとき、最も賢明で、最も価値のある選択であることが多いのです。
時間をかけた審美歯科の治療はすべて、「今この瞬間だけ」ではなく「これから先もずっと」美しく健康でいていただくための、かけがえのない投資なのです。
「加える」アプローチとの本質的な違い
一方で、「加える」というアプローチは、現在の状態に理想的とされる要素を付加していく方法です。短期間で目に見える変化を生み出すことができ、明確なビフォー・アフターを実現します。
白く輝く歯、完璧に整った歯並び、雑誌やメディアで見るような美しい口元。こうした明確な美的基準に向かって、短期間で到達することを目指します。時には健康な歯であっても、より理想的な形や色にするために削って被せ物をすることもあります。
二つのアプローチの共存と選択
ここで大切なのは、どちらが優れていてどちらが劣っているという単純な優劣の問題ではない、ということです。
人生には、さまざまな局面や状況があります。大切なイベントを控えて短期間での変化を求める場面もあれば、長い人生を見据えてじっくりと取り組める時期もあるでしょう。
ただ、審美歯科が何よりも大切にしているのは、「今この瞬間の美しさ」だけでなく「10年後、20年後、さらにその先も続く美しさ」であり、「あなたらしさを決して損なわない美しさ」であり、そして何より「健康という揺るぎない土台の上に成り立つ美しさ」なのです。
日常の診療に息づく「引き出す」精神
では、この「引き出す」という考え方は、実際の診療の現場ではどのように実践されているのでしょうか。具体的な場面を通じて、お話しさせていただきます。
治療の出発点
初めてお越しいただいたとき、私たちが最も時間をかけるのは、実は治療そのものではなく、対話です。あなたが日々どのような生活を送られているのか、どんなことに価値を置いて生きていらっしゃるのか、笑顔についてどのような想いや願いを抱いているのか。これらを深く、丁寧に理解することが、「引き出す」治療の本当の出発点だからです。
たとえば、お仕事で人前に立つ機会が多く、多くの方と接する日々を過ごされている方と、静かに落ち着いた時間を過ごすことを好まれる方では、求める口元の印象も自ずと異なってくるでしょう。また、アクティブにスポーツを楽しまれる方と、読書や芸術鑑賞を趣味とされる方でも、ライフスタイルに合わせた最適な提案は変わってきます。
このような丁寧な対話を重ねることで、「あなたらしい美しさ」の輪郭が少しずつ、でも確かに見えてくるのです。
繊細な診断──何があるかを見る
診断の段階でも、「引き出す」という視点は一貫して貫かれています。
口腔内を診察するとき、私たちが注目するのは、「何が足りないか」「何が悪いか」だけではなく、「何が既にそこにあるか」「どんな良い要素が残されているか」という視点です。
健康な歯質はどれだけ残っているのか、歯茎の状態はどの程度良好なのか、噛み合わせのバランスの中で活かせる部分はどこにあるのか、自然な歯の色の中で美しいと感じられる部分はどこか。このように、既存の良い要素を丁寧に見つけ出し、それを最大限に活用する方法を考えていきます。
もし歯を削る必要がある場合でも、私たちは常に「どこまで削らずに済むか」を第一に考えます。神経を残せる可能性が少しでもあれば、それを最優先で検討します。天然の歯質を1mmでも、0.1mmでも多く残すことが、長期的な健康と美しさにつながると信じているからです。
治療計画の立案──保存的な選択を優先する
治療計画を立てる際にも、「引き出す」という精神は重要な指針となります。
複数の選択肢がある場合、私たちは常に「より保存的な方法」「より天然の状態に近い方法」を第一選択として検討します。
たとえば、歯の色が気になるというご相談の場合、いきなりセラミックで全体を覆うのではなく、まずホワイトニングで天然歯本来の白さを引き出せないかを検討します。
もちろん、ケースによっては、セラミック治療が最も適切な選択となることもあります。その場合でも、できる限り歯質を保存する形成方法を選び、歯茎の健康を守るプランを心がけ、将来的な可能性も残せるような治療計画を立てていきます。
素材選びに表れる哲学
審美歯科において、使用する素材の選択は極めて重要です。そして、ここにも「引き出す」という哲学が色濃く反映されています。
天然歯との調和を第一に
セラミックやジルコニアといった素材を選ぶとき、私たちが最も重視するのは、天然歯との自然な調和です。
どんなに美しい人工物であっても、周囲の天然歯から浮いてしまっては、かえって不自然な印象を与えてしまいます。
そのため、色の選定には特に単一の白さではなく、天然歯が本来持っているグラデーション、透明感、表面の微妙な質感の変化、これらすべてを丁寧に観察しに再現していきます。
また、照明条件によって色の見え方は大きく変わります。自然光の下、蛍光灯の下、LED照明の下。そのため、診療室の照明には太陽光に近い波長を持つ特殊な光源を設置して、自然に見える最適な色を選んでいきます。
光学特性へのこだわり
天然の歯の美しさの秘密は、実はその複雑な光学特性にあります。
歯は単に白い物体ではなく、光を内部に透過させ、散乱させ、そして柔らかく反射させることで、独特の輝きを生み出しているのです。
質の高いセラミックは、この繊細で複雑な光学特性を驚くほど忠実に再現することができます。光が内部で散乱し、柔らかな輝きを放つ様子は、まさに天然歯そのものです。
このような素材を丁寧に選び、適切に使用することで、「人工物を入れた」という印象ではなく、「もともときれいな歯を持っていた人」という自然な美しさを実現できるのです。
メインテナンスという継続的な「引き出し」
治療が終わったらそれで終わりではありません。むしろ、そこからが本当の意味での「引き出す」プロセスの始まりといえます。
定期的なプロフェッショナルケアの意味
どんなに優れた治療を行っても、日々の生活の中で少しずつ変化は起こります。
食事による着色、歯ブラシでは届きにくい部分の汚れの蓄積、微細な摩耗、歯茎のわずかな変化──これらは生きている限り避けられないものです。
定期的なメインテナンスでは、これらの小さな変化を早期に発見し、適切にケアすることで、美しさを長く保っていきます。専門的なクリーニングによって、日常のブラッシングでは取りきれない汚れを丁寧に除去し、歯本来の輝きを引き出し続けます。
これは、単なる「維持」ではなく、継続的な「引き出し」のプロセスなのです。
セルフケアの質を高める
また、ご自宅でのケアの質を高めることも、美しさを保つ上で欠かせない要素です。ブラッシングの角度、圧のかけ方、フロスの通し方──これらの小さな違いが、長い年月の中では大きな差を生み出します。
メインテナンスの際には、その方のお口の状態に合わせた具体的なアドバイスをお伝えします。歯並びの特徴、補綴物の位置、歯茎の状態、噛み合わせの癖などを考慮した、まさにオーダーメイドのケア方法をご提案させていただきます。
ライフステージに沿った美しさ
「引き出す」という考え方は、人生という長いスパンで考えたときに、その真の価値を発揮します。
変化に対応する柔軟性
20代、30代、40代、そしてその先──それぞれの年代で、求める美しさの質や、大切にしたいことは変わっていきます。
結婚、出産、キャリアの変化、ライフスタイルの変化といった人生の様々な転機によっても、優先順位や価値観は変わっていくかもしれません。
「引き出す」アプローチで築いた美しさは、こうした人生の変化にも柔軟に対応できます。基盤となる健康がしっかりと守られているため、必要に応じて新しい治療を加えることも、方向性を少し調整することも、無理なく可能なのです。
年齢を重ねることの美しさ
審美歯科が目指すのは、「年齢を感じさせない」若々しさではありません。むしろ、「年齢を重ねたからこそ」の美しさ、深みのある美しさです。
適切にケアされた歯と歯茎は、年齢を重ねても健康的な輝きを保ち続けます。そして、その健康的な口元は、その方が積み重ねてこられた人生経験や、内面の豊かさと相まって、若さとは違う、成熟した美しさを生み出します。
若さを無理に取り繕うのではなく、今のあなたが最も輝く状態を引き出す──これこそが、審美歯科が考える本当の美しさなのです。
心理的な側面への深い配慮
「引き出す」という姿勢は、技術的な側面だけでなく、心理的な側面でも大きな意味を持ちます。
自己肯定感の向上
外から何かを加えるのではなく、内側にあるものを丁寧に引き出すというプロセスは、自己肯定感の向上に深くつながります。
「自分にも美しさの可能性があった」「本来の自分を取り戻せた」という実感は、単に見た目が変わる以上の、心の深い部分での変化をもたらします。
それは、自分自身をありのままに受け入れ、大切にする気持ちを育みます。
そして、その気持ちは、自然と表情や立ち居振る舞いにも表れ、内面からの美しさとなって輝き始めるのです。
無理のない美しさがもたらす安心感
また、「引き出す」アプローチは、心理的な負担が少ないという特徴もあります。
自分とかけ離れた理想像を追い求めるのではなく、自分らしさをしっかりと保ちながら美しくなれるという安心感があります。
「こうあるべき」という外からのプレッシャーではなく、「こうありたい」という内側からの自然な願いに寄り添う──そんな治療のあり方が、長く続く心からの満足感をもたらすのです。
「引き出す」ために必要な専門性
「引き出す」という一見シンプルに聞こえる考え方ですが、実はこれを実現するためには極めて高度な専門性が必要とされます。
総合的な診断力
その方が持つ美しさの可能性を正確に見抜くには、歯科医学の幅広く深い知識と、豊富な臨床経験が求められます。
歯の形態学、色彩学、咬合学、顔面審美学、さらには心理学的な側面──これらすべてを統合して判断する必要があります。
また、お一人おひとりの顔立ち、ライフスタイル、価値観、そして人生観までを深く理解する人間力も欠かせません。
単なる技術だけでなく、感性と洞察力が求められる、極めて繊細な仕事なのです。
絶え間ない技術の研鑽
そして、見出した美しさの可能性を実際に形にするには、確かな技術が必要です。
ミクロン単位の精密な形成、繊細な色の再現、生体に調和する設計、長期的な安定性を見据えた治療計画──これらは、日々の真摯な研鑽によってのみ磨かれていきます。
審美歯科に携わる歯科医師は、常に学び続け、技術を磨き続けることで、より良い「引き出し方」を追求しています。それは、患者様お一人おひとりの人生に責任を持つという、深い覚悟でもあるのです。
まとめ
「審美歯科は引き出す医療、美容歯科は加える医療」
この言葉が示すのは、単なる治療方法やテクニックの違いではなく、患者様お一人おひとりに向き合う根本的な姿勢の違いです。
「引き出す」というアプローチは、あなたがもともとお持ちの美しさの可能性を丁寧に見つけ出し、健康という揺るぎない土台の上で、時間をかけて大切に育んでいく方法です。それは、画一的な理想を押し付けるのではなく、あなたらしさを何よりも大切にしながら、自然で調和のとれた美しさを実現していきます。
このアプローチで築かれた美しさは、表面的なものではなく、心の深い満足感と共にあります。自分を大切にする気持ち、自信を持って笑える喜び、人生の様々な変化にも柔軟に対応できる安心感、そして年齢を重ねても続く健康的な輝き──これらすべてが、「引き出す」医療がもたらす、かけがえのない贈り物なのです。
あなたの中に静かに眠る美しさの可能性を、私たちと一緒に見つけてみませんか。
一つひとつの歯に、一つひとつの笑顔に、丁寧に心を込めて向き合いながら、あなただけの美しさを引き出していく──その過程そのものが、人生の中でかけがえのない、豊かな時間となるはずです。
美しさとは、外から加えるものではなく、内側から引き出されるもの。その真実を、ぜひご一緒に確かめていただければと思います。
