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保険でできる白いかぶせ物(CAD/CAM冠)

執筆者:表参道歯科アールズクリニック 院長 田中良一
東京医科歯科大学(現:東京科学大学)歯学部卒業
元 山王病院 歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)

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歯の治療を受ける際、「できれば白い歯で治療したい」と願われる方は少なくありません。お口を開けたときに見える銀色の詰め物や被せ物に、長年コンプレックスを感じていらっしゃる方もいらっしゃるでしょう。
近年の歯科医療の進歩により、保険診療の範囲内でも白い被せ物を選択できるようになりました。それが「CAD/CAM冠(キャドキャムカン)」と呼ばれる治療法です。今日は、この治療法について、詳しくご説明させていただきます。

CAD/CAM冠とは

CAD/CAM冠という言葉を初めて耳にされる方も多いかもしれません。CAD/CAMとは、「Computer Aided Design(コンピューター支援設計)」と「Computer Aided Manufacture(コンピューター支援製造)」の頭文字を組み合わせた専門用語です。
簡単に申し上げますと、コンピューター技術を活用して、精密に設計され、製作される被せ物のことを指します。

CAD/CAM冠の製作工程

CAD/CAM冠の製作には、従来の歯科技工とは異なる先進的な工程が用いられています。
まず、歯科医師が丁寧に型取りを行い、その型から精密な模型を製作いたします。この模型を専用のスキャナーでデジタルデータとして読み取ります。そして、コンピューター上で、お一人おひとりのお口の状態に合わせた被せ物を設計していきます。
設計が完了すると、3次元の切削加工機が登場します。この機械が、歯の色に近い樹脂のブロックを、設計データに基づいて自動的に削り出していくのです。こうして、患者様のお口にぴったりと合う白い被せ物が完成します。

CAD/CAM冠で使用される素材

CAD/CAM冠に使用される材料は、治療する歯の位置によって異なります。それぞれの歯が持つ役割や、かかる力の大きさに応じて、最適な材料が選ばれています。

前歯・小臼歯に使用される材料

前歯や小臼歯(前から4番目と5番目の歯)には、硬質レジンと呼ばれる樹脂製の材料が使用されます。硬質レジンは、通常のプラスチックよりも強度を高めた歯科用の特殊な樹脂です。自然な歯の色味を再現でき、お口を開けたときの審美性を大切にされる方にとって、安心できる選択肢となります。

大臼歯に使用される材料

大臼歯(奥歯)は、食べ物を噛み砕く際に大きな力がかかる部位です。そのため、より強度が求められます。大臼歯には、硬質レジン製のものに加えて、PEEK(ピーク)と呼ばれる特殊な樹脂を使用したブロックも選択できます。

PEEKは正式には「ポリエーテルエーテルケトン」という名称の、エンジニアリングプラスチックの一種です。医療分野でも広く使用されている材料で、優れた強度と耐久性を持ち合わせています。歯科医師は、患者様の噛み合わせの状態や、歯にかかる力の大きさなどを総合的に判断し、最適な材料を選択いたします。

CAD/CAM冠のメリット

CAD/CAM冠には、患者様にとって嬉しいメリットがいくつかあります。

自然な見た目の実現

何よりも大きな魅力は、歯に近い自然な白さを持つ点です。銀色の金属の被せ物と比較すると、審美性において大きな違いがあります。会話をするとき、笑顔を見せるとき、お食事をされるとき。日常の何気ない瞬間に、お口元の美しさを気にせずに過ごしていただけることは、心の余裕にもつながるのではないでしょうか。

特に、人前でお話しする機会の多い方や、接客業に従事されている方からは、「治療後、自信を持って笑えるようになった」というお声をいただくことがあります。

金属アレルギーへの配慮

金属を使用しない治療法であることも、大きな利点です。金属アレルギーをお持ちの方、あるいはアレルギー発症のリスクを懸念されている方にとって、CAD/CAM冠は安心して選んでいただける選択肢となります。
金属アレルギーは、お口の中だけでなく、全身に症状が現れることもあり、原因の特定が難しい場合もございます。将来的な健康リスクを考慮し、金属を避けた治療を選ばれる方が増えているのは、とても自然な流れだと感じています。

経済的な負担の軽減

セラミック治療と比較すると、費用面での負担が軽減されることも見逃せないポイントです。保険診療の範囲内で白い被せ物を選択できるということは、審美性と経済性のバランスを大切にされる方にとって、現実的な選択肢となります。
美しい口元を手に入れたいという願いは、多くの方が持たれているものです。その願いを、無理のない範囲で叶えていただける可能性があることは、歯科医療の進歩がもたらした素晴らしい恩恵だと言えるでしょう。

CAD/CAM冠の注意点とデメリット

CAD/CAM冠には多くのメリットがある一方で、素材の特性上、いくつか留意していただきたい点もあります。治療を検討される際には、これらの特性についても十分にご理解いただくことが大切です。

耐久性について

CAD/CAM冠に使用されるプラスチック素材は、セラミックや金属と比較すると、徐々に摩耗していく性質があります。特に、歯ぎしりや食いしばりの習慣がおありの方の場合、被せ物にかかる力が大きくなるため、摩耗や破損のリスクが高まることがあります。
日常的に強い力が歯にかかっている可能性がある場合には、歯科医師とよくご相談いただき、ご自身のお口の状態に最も適した治療方法を選択していただくことをお勧めいたします。場合によっては、就寝時にマウスガードを使用することで、被せ物への負担を軽減することも可能です。

脱離のリスク

接着の強度という観点では、従来の金属の被せ物と比較して、外れやすい傾向があることも知っておいていただきたい点です。これは使用する接着材料の特性によるもので、定期的なメンテナンスと、適切なケアの継続が重要になります。
もし被せ物に違和感を感じられたり、緩んでいるように思われたりした際には、早めに歯科医院にご相談いただくことが大切です。

審美性の経年変化

セラミックと比較すると、色のバリエーションには限りがあります。また、時間の経過とともに、表面の艶が失われたり、わずかな変色が生じたりすることがあります。
これは樹脂という材料の特性上、避けることが難しい現象です。とはいえ、銀歯と比べれば、審美的な利点は十分に感じていただけるものと思います。より長期的な審美性を重視される場合には、自費診療でのセラミック治療という選択肢もございますので、ご希望やライフスタイルに合わせてご検討いただければと思います。

どのような方に適しているか

  • 虫歯が比較的大きく、詰め物では対応できないものの、被せ物での治療が必要な方
  • 神経を取り除く治療を受けられた後、歯を補強する必要がある方
  • 審美性を大切にしたいけれど、費用面での負担も考慮したい方
  • 金属アレルギーをお持ちの方、あるいはアレルギーのリスクを避けたい方

ただし、強い歯ぎしりや食いしばりの習慣がある方、噛む力が特に強い方の場合には、他の治療法の方が適している可能性もあります。ご自身のお口の状態や生活習慣、ご希望などを総合的に考慮し、歯科医師とじっくりご相談いただくことをお勧めいたします。

お口の健康を長期的に守るために

歯科治療を受ける際には、目の前の問題を解決するだけでなく、将来的な歯の健康を見据えて選択することが大切です。
CAD/CAM冠は保険診療で白い被せ物を選択できるという点で、多くの患者様にとって価値のある選択肢です。ただし、耐久性や審美性においては限界もあることを理解しておく必要があります。
一方で、より長期的な視点で歯の健康を考える場合、セラミックなどの自費診療による治療も検討する価値があります。セラミック治療は費用は高くなりますが、優れた適合精度、耐久性、審美性によって、長期的には歯の寿命を延ばし、再治療の回数を減らすことができる可能性があります。
どのような治療法を選択するにしても、定期的な歯科検診と日々の丁寧なケアが、お口の健康を維持する基本となります。ご自身のライフスタイル、価値観、そして歯の状態に合わせて、歯科医師とよく相談しながら最適な治療法を選択していただくことをお勧めいたします。

CAD/CAM冠についてのまとめ

CAD/CAM冠は、デジタル技術を活用して製作される保険適用の白い被せ物です。天然歯に近い自然な見た目を実現でき、金属アレルギーの心配もなく、経済的な負担も少ないというメリットがあります。
一方で、プラスチック素材であるため、セラミックと比較すると摩耗しやすく、破損のリスクがあること、接着力がやや弱く外れやすいこと、経年的に表面の艶が失われることなどの注意点もあります。特に歯ぎしりや食いしばりの癖がある方は、破損リスクについて歯科医師とよく相談することが大切です。
また、従来から使用されてきた銀歯については、金属アレルギーのリスクや適合精度の問題から、現在では推奨されなくなってきています。世界的にも歯科治療における金属の使用を避ける傾向が強まっており、日本においても治療選択の考え方が変化しつつあります。
お口の健康を長期的に守るためには、それぞれの治療法の特徴をよく理解し、ご自身の歯の状態や生活習慣、価値観に合わせて選択することが重要です。不明な点や不安なことがあれば、遠慮なく歯科医師にご相談ください。あなたの大切な歯を守り、美しい笑顔を保つために、最適な治療法を一緒に考えてまいります。