執筆者:表参道歯科アールズクリニック 院長 田中良一
東京医科歯科大学(現:東京科学大学)歯学部卒業
元 山王病院 歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)
注)本ページは、歯科治療を推奨・誘導することを目的としたものではなく、医学的情報の提供を目的としています。症状がある場合や治療を検討される場合は、必ず医療機関を受診し、医師にご相談ください。
執筆者:表参道歯科アールズクリニック 院長 田中良一
東京医科歯科大学(現:東京科学大学)歯学部卒業
元 山王病院 歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)
注)本ページは、歯科治療を推奨・誘導することを目的としたものではなく、医学的情報の提供を目的としています。症状がある場合や治療を検討される場合は、必ず医療機関を受診し、医師にご相談ください。
お口の中の銀歯が気になって、人前で思いきり笑えなかったり、会話中に視線が気になったりすることはありませんか。実は、多くの方が同じようなお悩みを抱えていらっしゃいます。
口腔内の金属は、外から見ると黒っぽく見えてしまうため、審美的な観点から気になさる方が少なくありません。セラミック治療は費用面でハードルが高いと感じていらっしゃる方も多いかもしれませんね。
でも、ご安心ください。実は、保険診療の範囲内でも銀歯を白く治療する方法が存在します。ただ、その治療法についてご存じない方が大多数なのが現状なのです。
このページでは、銀歯を白く美しくする治療法について、専門的な知識を分かりやすくお伝えしてまいります。どうぞ最後までお付き合いくださいませ。
金属の詰め物やかぶせ物は、長年にわたり歯科治療の主流として用いられてきました。しかしながら、近年の歯科医学の進歩により、金属を使用することの様々なリスクが明らかになってまいりました。
すべての金属には、程度の差はあれ、金属アレルギーを引き起こす可能性が存在します。特に、保険診療で一般的に使用されている「パラジウム合金」については、金属アレルギー検査において約半数の方に陽性反応が認められるという研究結果があります。
現在はアレルギー症状がない方でも、口腔内で長期間パラジウムと接触し続けることで、将来的にアレルギー反応が発症する可能性があることが分かっています。これは「感作」と呼ばれる現象で、徐々に体が金属に対して過敏になっていく過程なのです。
興味深いことに、海外では日本とは異なる基準が設けられています。一部の国では、パラジウムを「毒性金属」として歯科治療での使用を禁止しているところもあるのです。
ドイツやスウェーデンといった医療先進国では、特に配慮が必要な妊婦や幼児に対して、銅を含有するパラジウム合金の使用を避けるよう勧告されています。さらに欧米諸国では、口腔内のすべての金属を除去することが推奨される傾向にあり、メタルフリー治療が主流となっています。
金属アレルギーは、単に口腔内の問題にとどまりません。口腔内の金属がイオン化して溶け出すことで、全身に影響を及ぼす可能性があるのです。皮膚炎や湿疹、掌蹠膿疱症などの皮膚疾患が、実は口腔内の金属が原因であったという症例も報告されています。
一部の皮膚科専門医からは、日本における金属アレルギーの増加傾向について、銀歯を第一選択としている歯科医療保険制度に一因があるのではないかという指摘もなされています。
近年、歯科医療の世界では「ダイレクトボンディング」という治療法が注目を集めています。これは、コンポジットレジンという特殊な樹脂材料を、お口の中で直接歯に接着して形を整えていく治療法です。
「ダイレクト(direct)」は「直接」、「ボンディング(bonding)」は「接着」という意味です。つまり、歯科技工所で作製した詰め物を後から装着するのではなく、歯科医師が患者様のお口の中で直接、歯の形を作り上げていく治療法なのです。
この治療法の特徴は、その場で色調を調整しながら、周囲の天然歯と調和する自然な仕上がりを実現できる点にあります。まるで芸術作品を創り上げるように、一つひとつ丁寧に歯の形態を再現していくのです。
治療手順の例は下の動画でご覧ください。
出典:医療材料メーカー「GCヨーロッパ」Youtubeチャンネルより
歯を白く詰める治療法には、いくつかの選択肢があります。セラミックインレー(自費診療)、CAD/CAMインレー(保険診療)、そしてダイレクトボンディング(保険診療)です。
それぞれの治療法には特徴がありますが、歯を削る量、審美性、歯への優しさ、治療回数など、総合的な観点から見ると、ダイレクトボンディングには多くの利点があると考えられています。
ただし、高度な技術を要するため、すべての歯科医院で提供されているわけではないのが現状です。熟練した技術と豊富な経験が求められる、繊細な治療法なのです。
「保険診療だから耐久性に不安がある」とお感じになる方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら、ダイレクトボンディングは保険収載されている正式な治療法であり、国によって安全性と有効性が認められています。
研究データによれば、ダイレクトボンディングと金属の詰め物との間に、耐久性の差はほとんどないことが示されています。むしろ長期的な成績では、ダイレクトボンディングの方が良好な結果を示すこともあるのです。
奥歯の銀歯を取り除き、保険のダイレクトボンディングで白く治しました。
歯科治療において、詰め物をする方法は大きく分けて二つあります。一つは「直接法」、もう一つは「間接法」と呼ばれるものです。
お口の中で直接、歯科用材料を用いて歯の形を作り上げていく方法です。患者様のお口の状態を確認しながら、その場で色調や形態を調整できるのが大きな特徴です。
まず歯の型取りをして、その型をもとに歯科技工所で詰め物を作製し、後日それを歯に装着する方法です。セラミックやプラスチック系の材料で作製されます。
ダイレクトボンディングでは「コンポジットレジン」というプラスチック系の材料を使用します。一方、インレーにはセラミック(自費診療)やCAD/CAM用レジン(保険診療)などがあります。
コンポジットレジンは、多官能性メタクリレートという基材に、微細な無機質フィラーを配合した複合材料です。「ハイブリッドセラミック」「ハイブリッドレジン」などと呼ばれることもありますが、すべて同じコンポジットレジンのことを指しています。
セラミックは審美性に優れた素材ですが、歯を大きく削る必要があり、作製する歯科技工士の技術によって仕上がりに差が出ます。費用は数万円からとなり、治療回数は2回以上必要です。
強度は高いのですが、その硬さゆえに、噛み合う歯や自分の歯を傷めてしまう可能性があります。また、もし欠けてしまった場合は、すべて作り直す必要があります。
コンピューター制御で切削加工して作るプラスチックのインレーです。保険適用のため費用は抑えられますが、歯を削る量が最も多く、審美性や適合精度の面で課題があります。
割れやすく、外れやすいという欠点もあり、長期的な予後という点では不安が残ります。
歯を削る量を最小限に抑えられ、審美性にも優れています。治療は通常1回で完了し、もし欠けた場合も最小範囲の補修で対応できます。
ただし、歯科医師の高度な技術が必要で、治療時間がやや長くなる傾向があります。また、お口を開けている時間が長くなるため、患者様にも多少のご協力が必要となります。
歯を大切に、長く健康に保つという観点から見ると、歯を削る量が最小限で済むダイレクトボンディングには大きなメリットがあります。一度削ってしまった歯は二度と元には戻りません。だからこそ、できる限り自分の歯を残すことが重要なのです。
歯科医学の目覚ましい進歩により、樹脂材料の強度や接着技術が飛躍的に向上しました。現在では、コンポジットレジンを使用したダイレクトボンディングによって、銀歯を美しく白い歯に治療することが可能になっています。
かつては強度や耐久性に課題があったコンポジットレジンですが、材料科学の発展により、その性能は大きく向上しました。無機質フィラーの配合技術が進化し、従来よりも強度が高く、摩耗しにくい材料が開発されています。
さらに、歯との接着力も著しく改善されました。エナメル質や象牙質に化学的に結合する接着システムの開発により、詰め物がしっかりと歯に固定されるようになったのです。
複数の学術研究により、ダイレクトボンディングの有効性が実証されています。歯とエナメル質の接合部の物理的性質に関する研究では、適切に施されたコンポジットレジンの修復が、長期的に良好な予後を示すことが明らかになっています。
これらの科学的エビデンスに基づき、ダイレクトボンディングは保険診療として認可されているのです。
保険診療で使用できるコンポジットレジンと、自費診療で使用される材料の基本的な成分は実質的に同じです。保険適用の材料だからといって、品質が劣るわけではありません。
ただし、一部でも保険適用外の材料(特殊な着色材など)を使用すると、治療全体が自費扱いになってしまいます。保険診療では、すべて認可された材料のみを使用して治療を行います。
ダイレクトボンディングには、セラミックなど他の治療法と比較して、いくつもの優れた特徴があります
コンポジットレジンは、セラミックと比べると柔らかく、強度も若干劣ります。しかし、この「柔らかさ」が、実は大きな利点となるのです。
硬すぎる材料を歯に詰めると、噛む力や食いしばる力によって、大切なご自身の歯が割れてしまう危険性があります。実際、拡大鏡で銀歯の周囲を観察すると、多くの歯にヒビが入っているのが確認できます。
コンポジットレジンは天然歯に近い硬さを持っているため、噛み合う歯や自分の歯を傷めるリスクが少ないのです。歯と調和する硬さこそが、長期的な口腔の健康を守る鍵となります。
ダイレクトボンディングは、直接歯に接着剤を塗布し、その上にコンポジットレジンを築盛していきます。型取りをして間接的に作製したインレーと比べて、接着面積が大きく、接着力も強固です。
この強い接着力により、詰め物と歯の間に隙間ができにくく、そこから虫歯が再発する「二次カリエス」のリスクを大幅に減らすことができます。
「セラミックの方が透明感があって美しい」という意見もありますが、実は光の透過性という観点では、コンポジットレジンの方が優れているという側面があります。
コンポジットレジンは光をよく透過するため、天然歯の持つ自然な透明感や色の深みを再現しやすいのです。また、色調を患者様の歯に合わせて細かく調整できるため、周囲の歯と見分けがつかないような自然な仕上がりを実現できます。
歯を削る量が最小限で済むというのは、ダイレクトボンディングの最大の利点といえるでしょう。セラミックインレーでは、強度を確保するために一定の厚みが必要で、そのぶん歯を大きく削らなければなりません。
一方、ダイレクトボンディングでは、虫歯の部分と古い詰め物を除去するだけで、健康な歯質はほとんど削る必要がありません。歯は削れば削るほど弱くなってしまいますから、できる限り削らないことが歯の寿命を延ばすことにつながります。
通常、ダイレクトボンディングは1回の通院で治療が完了します。お忙しい日々を送られている方にとって、通院回数が少ないというのは大きなメリットではないでしょうか。
型取りをして技工所で製作する必要がないため、仮の詰め物で過ごす必要もありません。その日のうちに治療が完了し、すぐに通常の食事を楽しむことができます。
もし万が一、詰め物が欠けてしまったり、摩耗してしまった場合でも、セラミックのようにすべて作り直す必要はありません。最小限の範囲を補修するだけで、また美しい状態に戻すことができます。
この「修理のしやすさ」こそが、長期的に見て歯の寿命を守る重要なポイントなのです。大きく削って作り直すということを繰り返すと、いずれ歯がなくなってしまいます。
歯に詰める治療の場合は、セラミックよりもコンポジットレジンを使ったダイレクトボンディングの方が、
「保険の治療だから、すぐにダメになってしまうのでは」というご不安をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、科学的な研究結果は、そのような心配が不要であることを示しています。コンポジットレジンを使ったダイレクトボンディングと金属を詰める治療法(インレー)とでは耐久性に差はありません。
治療後11年の比較では、ダイレクトボンディングの方が金属インレーを上回っています。(下表)
| 良好・可 | 不可 | |
| ダイレクトボンディング | 85% | 15% |
| 金属インレー | 78% | 22% |
参考文献:Composite resin fillings and inlays. An 11-year evaluation Ulla Pallesen,Vibeke Qvist.
別の研究結果でも、経過10年の比較でダイレクトボンディングと金属インレーの成績は変わりません。
| ダイレクトボンディング | 83.0% |
| 金属インレー | 84.7% |
参考文献:2級窩洞におけるメタルインレー修復との長期予後比較(臨床経過10年) Kubo(日本歯科保存学会誌2001)
適切な技術で施されたダイレクトボンディングは、多くの症例で10年以上にわたって問題なく機能しています。定期的なメンテナンスを受けることで、さらに長期間良好な状態を維持することが可能です。
ただし、保険診療という性質上、治療後の保証制度はありません。これは保険診療全般に共通することですが、予めご理解いただければと思います。
コンポジットレジンは、確かに欠けることがあります。また、長期間使用していると、徐々に摩耗していきます。しかし、これは天然の歯も同じです。年齢とともに、歯は自然にすり減っていくものなのです。
重要なのは、もし問題が生じた場合に、どのように対処できるかということです。コンポジットレジンであれば、最小限の削り方で補修できますから、歯の寿命を大きく縮めることがありません。
「詰め物が長持ちすること」と「歯が長持ちすること」は、必ずしも同じではありません。たとえば、硬いセラミックが割れずに残っていても、その下の天然歯が割れてしまい、抜歯せざるを得なくなっては意味がないのです。
人工物をいかに長持ちさせるかではなく、ご自身の大切な天然歯をいかに長く健康に保つか。そこに焦点を当てることが、本当の意味での歯科治療の目的だと考えられています。
ダイレクトボンディングは優れた治療法ですが、すべての症例に適用できるわけではありません。いくつかの制限があることも、正直にお伝えしておく必要があります。
保険診療は「病気の治療」を目的としています。そのため、純粋に審美的な理由(見た目だけが気になる)で、問題のない銀歯を除去して白くすることは、保険診療の対象外となります。
銀歯の下に虫歯がある、詰め物と歯の間に隙間ができている、詰め物が変形しているなど、治療が必要な状態である場合に、保険診療の対象となります。
かぶせ物(クラウン)として銀歯が装着されている場合や、非常に大きな銀歯の場合、ダイレクトボンディングでは対応できないことがあります。このような場合には、CAD/CAM冠という別の保険適用の白い修復物を選択することができます。
また、銀歯を除去した後、その下に大きな虫歯が見つかった場合には、治療が複数回にわたることや、場合によってはダイレクトボンディングが適用できないこともあります。
お口の衛生状態が良くない場合や、歯周病が進行している場合には、まずそちらの治療を優先する必要があります。歯肉に炎症があると、その部分から滲み出る浸出液が接着の妨げとなり、ダイレクトボンディングの接着力が低下してしまうからです。
健康な歯肉環境を整えることが、質の高いダイレクトボンディング治療の前提条件となります。
現在矯正治療中の方(ワイヤー矯正、マウスピース矯正を問わず)や、矯正後の保定装置(リテーナー)を使用されている方は、ダイレクトボンディング治療が難しい場合があります。
矯正治療が完了し、保定期間が終了してから治療を検討されることをお勧めいたします。
噛み合わせの状態や、歯ぎしり・食いしばりの習慣がある方の場合、歯に非常に強い力がかかります。このような場合には、コンポジットレジンが耐えられず、頻繁に欠けてしまう可能性があります。
また、奥歯の治療の場合、お口を大きく開けていただく必要があるため、開口量に制限がある方は治療が困難なこともあります。
銀歯を白く美しくすることは、もはや特別なことではありません。適切な知識と技術があれば、保険診療の範囲内でも、審美性と機能性を兼ね備えた治療を受けることができます。
ダイレクトボンディングという治療法は、歯を削る量を最小限に抑えながら、自然で美しい仕上がりを実現できる優れた方法です。科学的な研究によってその有効性が実証されており、長期的にも良好な成績を示しています。
何より大切なのは、詰め物やかぶせ物を長持ちさせることではなく、ご自身の天然の歯を健康に保つことです。一度削ってしまった歯は元には戻りません。だからこそ、できる限り歯を削らない治療法を選択することが、将来の口腔の健康につながります。
金属アレルギーのリスクや審美的な懸念から、金属を使わない治療法への関心が世界的に高まっています。お口の中から金属をなくすことは、全身の健康という観点からも意義のあることなのです。
もし銀歯が気になっていらっしゃるなら、まずは一度、専門的な診察を受けてみてはいかがでしょうか。お一人おひとりのお口の状態に合わせた、最適な治療法が見つかるはずです。
美しい笑顔は、人生をより豊かにしてくれます。口元を気にすることなく、自信を持って笑えることの価値は、何物にも代えがたいものです。あなたの素敵な笑顔のために、現代の歯科医療ができることはたくさんあります。
どうぞ、お一人で悩まずに、信頼できる歯科医院にご相談ください。あなたの歯の健康と美しさを守るために、歯科医療は日々進化を続けています。