院長 田中良一

元 山王病院歯科医長
東京医科歯科大学(現 東京科学大学)歯学部卒業
三つの考え
現在に至る臨床実践、そして世界の最前線で活躍する臨床家たちからの学びを通じて、私は次の三つの認識に到達しました。当院の臨床の根本にある考えです。
未来の介入を不要にするための、現在の介入
歯科治療は、患者さんの口腔という生体への、人為的な介入です。しかし、この介入は、何のために行われるのか。もう介入しなくてもよい状態、未来における介入を不要にするための「介入」です。
短期的に見栄えを整えるだけの治療では、5年、10年、15年と経過する中で、再度の介入が必要になります。介入が新たな介入を生む循環です。当院が目指すのは、この循環の停止。10年、20年、30年と続く時間軸において、再介入を必要としない治療です。
介入によって、未来の介入を不要にする。これが、当院の最も根本的な臨床原則です。
最も精密な作為こそが、作為の痕跡を消し去る
歯科の補綴物は、明らかに「作為」の産物です。患者さんの天然歯を削り、人工物を作り、装着する。これは紛れもなく作為です。しかし、当院が目指すのは、その作為が「気づかれない」状態です。
過去の治療には、しばしば「不自然な作為」の痕跡が残ります。色の不自然さ、形態の画一さ、「治療した」という痕跡が口の中に目立つ状態です。これに対する当院の答えは、より精密で繊細な作為です。患者さん固有の色調、形態、内部構造、光学特性を、ミクロン単位で再現する作為。CAD/CAM では到達できない、熟練のセラミストの手による作為です。
最も精密な作為こそが、作為の痕跡を消し去る。これが、当院の補綴学的中核です。
歯は、全体との関係性の中で、初めて「その人の歯」となる
歯は、単体としては存在しません。歯は、顔貌の中、口元の中、表情の中、人格の中、そしてその人の人生の中にあって、初めて「その人の歯」として存在します。
あらゆる存在は、他のものとの関係の中でのみ成立する、歯科治療はこの関係性の構造の中で行われる臨床です。だからこそ、当院は、歯を「症例」としてのみ扱うことはしません。患者さんの顔貌・人格・人生・関係性、これらすべての中で、歯がどのように存在するべきかを共に考えます。
技術的な精度はその存在のための手段に過ぎません。本当に大切なのは、歯がその人の一部として自然に存在する状態を作ることです。
臨床のルーツ
院長の臨床のルーツは、1990年代に出会った一冊の本にあります。
Pameijer
『歯周組織と咬合を考慮したクラウン・ブリッジの臨床』
被せ物の治療を、表層の見た目ではなく、咬合(噛み合わせ)と歯周組織という二つの基盤から論じた、古典的名著。
この本は、被せ物を、単に「見た目を整える物」としてではなく、「口腔全体の機能の一部」として捉えるという思想を示しました。この思想は、院長の臨床の基盤となりました。
世界のトップレベルの臨床家からの学び
その後、院長は、世界トップレベルの臨床家のセミナーを、数多く受講してきました。
Gerard J. Chiche
審美補綴の体系的方法論を確立した、世界的権威。前歯部のクラウン形態、色調再現、咬合と審美の統合に関する体系的講演を通じて、現代の審美補綴の標準を形成した臨床家のひとり。
Jan Lindhe
現代歯周病学の創始者の一人。『Clinical Periodontology and Implant Dentistry』は、世界中の歯科医師・歯科衛生士にとって標準的な教科書として読み継がれている。
Morton Amsterdam
20世紀後半に「歯周補綴学」という領域を確立した臨床家。ペンシルベニア大学を拠点に、失われゆく歯列を、歯周治療と修復治療の統合によって救う方法論を体系化した。現代の歯周補綴学の祖として、世代を超えて多くの臨床家に影響を与え続けている。
John C. Kois
修復・咬合・審美治療を体系化した、現代世界における最も影響力のある臨床教育者の一人。シアトルの Kois Center を拠点に、エビデンスに基づくリスクアセスメントと治療計画の方法論を、世界中の歯科医に教育してきた。
Sascha A Jovanovic
インプラント治療、特に高度な骨造成と審美インプラント領域における世界的権威。ロサンゼルスに gIDE Dental Institute を設立し、世界中の歯科医に最先端のインプラント技術を教育している。
Pascal Magne
バイオミメティック修復学( 天然歯の構造と機能を忠実に模倣する治療哲学 )の提唱者。USC南カリフォルニア大学の審美歯科学教授。著書『Bonded Porcelain Restorations』は、現代接着修復学の標準テキストとして世界中で読まれている。
補綴学・歯科審美学・歯周病学・インプラント学の4領域それぞれにおいて、世界の最前線で臨床と教育を牽引してきた臨床家たちから学んだことが、当院の臨床基盤を形成しています。
Willi Geller 氏
院長の臨床において、もう一つの重要なターニングポイントは、Willi Geller 氏の存在を知ったことです。
Willi Geller
1980年代から、歯科技工の世界に、極めて重要な思想を持ち込んだ人物として、世界中の歯科医療関係者から尊敬を集めていた。
院長 田中良一は、山王病院歯科医長就任を契機に、Geller 氏が創設した国際的歯科技工士のグループ Oral Design メンバーのセラミストとの連携を開始しました。これは、当院の臨床のもう一つの重要な基盤です。
Geller 氏の思想は、単なる歯科技工のテクニックを超えた、職人の尊厳と、自然への徹底的な追従を核とした臨床哲学です。
Oral Design は、1982年に Willi Geller 氏によって設立された、国際的歯科技工士のグループです。現在、世界36カ国に、約130名の厳選されたメンバーが所属しています。
Oral Design への加入は、技術力だけでなく、Geller 氏が重視した「感性(sensible)」——自然への深い理解と、職人としての美意識——が問われます。技術と感性の両方が、一定の水準に達したと認められた技工士のみが、メンバーとして招かれます。
臨床を通じて
一人の患者さんの治療に、十分な時間をかける。一本の歯のために、世界のトップ水準の技工士と連携する。短期間で完了する治療では到達できない、長期にわたる仕上がりを追求する。今までの臨床を通じて、変わらずに持ち続けてきた姿勢です。
これからも、Pameijer の本との出会いから始まり、Chiche 教授・Lindhe 教授らから学び、Oral Design との連携を通じて深めてきた臨床を、日々の診療の中で実践し続けます。

