透明感のある歯とは、透明ではないこと

Written by 田中良一 表参道歯科アールズクリニック院長

歯に「透明感がある」と感じることと、歯が光を多く通すことは同じではありません。光をどれくらい通すかという「透過性」は、歯の見え方に関わる大切な性質ですが、透過性を高くすれば明るく澄んで見えるとは限りません。光を通しすぎると、口の中の暗さや、セラミックの下にある歯や土台の色が影響し、期待した明るさが得られないことがあります。

天然歯では、表面で反射する光と、歯の内部に入って散乱し、再び外へ出る光が重なって見えています。前歯をセラミックで修復するときも、光の通し方に加え、明るさや色合い、表面の艶、背景の色との関係を考えます。

「透明感」という言葉が表すもの

「肌の透明感」という言葉を考えると、文字どおり透けて見えることとの違いが分かりやすくなります。肌について透明感という場合には、くすみの少なさやみずみずしい艶、明るく見える印象なども含まれます。

歯についても、本稿では「透明感」を、白さの中に光の通る部分や色の奥行きがあり、濁りが少なく感じられる見え方として扱います。光の通り方や内部での散乱、明るさ、色調、表面の反射などを合わせて見たときの印象なので、一つの数値だけでは表せません。

「透明感」と透過性の違い

透過性とは、光を通す性質です。入ってきた光のうち、どの程度が通り抜けたかを測り、その割合を「透過率」で表します。

一部の光を通す歯や修復材料の「半透明性」を調べるときには、白い背景と黒い背景に置いた場合の色の違いなども指標にします。材料を通る光の量によって、背後の色が見え方に与える影響が変わるためです [1]。

天然歯の内部では、光の進む方向が変わる「散乱」が起こり、一部の光は吸収されます。透明なガラスとは違い、光がそのまま通り抜けるわけではありません。表面で反射する光、内部から戻る光、歯を通過する光の割合によって、歯の色や明るさ、透け方が変わります。そのため、透過性だけを高めても、望んでいた見え方になるとは限りません。

透過性と天然歯らしさ

修復に必要な透過性は、残っている歯や土台の色によって異なります。歯の色を生かしたい場合もあれば、変色した歯や金属の土台の色を隠したい場合もあるため、下の色を隠す「遮蔽性」も考慮して材料を選びます。

金属の骨組みに陶材を焼き付ける「メタルセラミクス」では、まず不透明な陶材で金属の色を隠し、その上に歯の色や光の通り方を表現する陶材を重ねます。内部に金属があるため、光の通り方には制約がありますが、金属を使った修復物がすべて平板な白さになるわけではありません。

金属を使わないセラミックでは、内部まで光を通す構造を作ることができます。ただし、光をよく通す材料ほど、その下にある歯や土台の色の影響を受けやすくなります。透過性の高低だけで、天然歯に近い見え方を再現できるか、その歯に適した材料かを判断することはできません [1][2]。

口腔内における光の振る舞い

セラミックの見え方は、一本の歯の中でも部位によって変わります。前歯の先端のように、内側の象牙質が少ない部分では、口の中の暗さが見え方に影響します。歯の中央部をセラミックで覆う場合には、その下にある歯や土台の色も関係します。

背後が暗い部分で光を通しすぎると、期待した明るさが得られず、灰色がかって見えることがあります。一方、光を強く遮ると、歯の内部に見られる色の変化や奥行きを感じにくくなることがあります。

光の通り方は、材料の成分や内部の結晶構造、厚みによっても変わります。同じ種類のセラミックであっても、厚みなどの条件が違えば透け方は同じではありません。一本の歯の中で、明るさを保ちたい部分と透け方を表現したい部分を確かめ、部位ごとに透過性と遮蔽性を調整します。

歯の「透明感」に関わる光学的な要素

歯が明るく澄んで見えるかどうかには、透過性のほかにも複数の性質が関わります。ここでは五つに分けて説明しますが、五つの性質だけで歯の見え方が決まるわけではありません。

明るさ

修復した歯の明るさは、周囲の天然歯と見比べて確認します。歯の明るさには、表面で反射する光と、内部で散乱したあとに目へ届く光が関わります。透け方を強くしても、必要な明るさが失われれば、明るく澄んだ印象は得られません。

内部の散乱とオパール効果

天然歯では、光が当たる方向や見る方向によって、色の見え方が変わることがあります。歯の表面を覆うエナメル質には、波長の短い青い光を散乱しやすい性質があるため、反射する光では青みが見え、透過した光では橙色などの暖色が現れることがあります。反射する光と透過する光で色が違って見える現象を「オパール効果」と呼びます。

オパール効果による色の変化は、材料を青く着色するだけでは表現できません。エナメル質の研究では、反射する光と透過する光の色の違いが測定されていますが、測定値は試料や測定装置の条件によって変わります [3]。

表面の艶

表面の艶や凹凸は、周囲の天然歯に合わせて調整します。歯の表面の形や細かな凹凸、滑らかさによって、反射する光の方向や広がりが変わり、表面が唾液で濡れていることも見え方に関わります。

艶を強くしたり凹凸を増やしたりするだけで、歯が明るく澄んで見えるとは限りません。周囲の歯の表面の状態と、光がどのように反射しているかを観察し、修復物の表面を仕上げます。

蛍光性

天然歯には、紫外線などを吸収し、目に見える光を発する「蛍光性」があります。蛍光を生じさせる光を「励起光」と呼び、照明に含まれる励起光の量によって、蛍光の見え方も変わります。
抜いた歯に太陽光を当て、紫外線を含む場合と取り除いた場合の色を比べた実験では、蛍光によって歯が白く明るく見える効果は認められませんでした [4]。通常の昼光を用いた条件での結果であり、蛍光性を歯の明るさと結びつける際には、照明の条件も考慮する必要があります。蛍光性があるからといって、暗い場所でも歯が内側から明るく見えるわけではありません。

色調とその分布

天然歯には黄みや赤みがあり、一本の歯の中でも色の濃さが変わります。黄みや赤みが見えること自体を、濁りと考える必要はありません。

修復物を製作するときは、どの色がどの位置や深さに、どの程度見えているかを、明るさや透け方と合わせて考えます。歯を白く整える場合にも、色の分布や濃さを調整し、希望する白さと色の奥行きを両立できるか検討します。

製作方法による光学特性の違い

セラミックの見え方には、使用する材料の性質と、その配置や厚みが関わります。製作には、ブロック状の材料から削り出す方法や、陶材を重ねて焼き上げる「築盛」などがあります。

削り出す材料にも、あらかじめ複数の色調を持たせたものがあります。削り出した材料でも内部で光は散乱し、材料によってオパール効果も認められます [2]。ただし、これは材料の試験片を比較した実験であり、口の中で削り出しと築盛の仕上がりを比較した研究ではありません。

築盛は、修復物を製作する歯科技工士が、色調や透過性、遮蔽性の異なる陶材を選び、重ねる位置と厚みを調整します。内部の明るさや基本となる色を作り、その外側に透け方や先端の特徴を表現する陶材を加えるなど、歯の部位に応じて陶材の組み合わせを変えられます。

ただし、陶材を二層、三層と重ねるだけで、天然歯に見られる細かな色の変化まで再現できるとは限りません。多色築盛では、どの場所に、どの性質の陶材を、どの程度の厚みで置くかを調整します。陶材の種類や色の数が多ければ、望む見え方や天然歯らしさが得られると決まるわけでもありません。

修復物に透明感を表現するために

「透明感のある歯にしたい」というご希望については、まず、どの程度の白さや明るさを望んでいるのかを確かめます。そのうえで、一本の歯のどの部分に透け方や色の奥行きを持たせるかを考えます。相談の際には、今の歯のどこが気になるのか、白さや先端の透け方をどう変えたいのかを歯科医師に伝えると、希望する見え方を具体的に話し合いやすくなります。

歯科医師と歯科技工士は、残っている歯や土台の色、周囲の天然歯の見え方を確認し、セラミックに確保できる厚みの中で、使用する陶材やその配置を検討します。歯科技工士は、診療室で観察した色や光の特徴をもとに、陶材の種類、位置、厚み、表面の仕上げを調整します。

歯の見え方は、材料の名前や透過性の高さだけでは決まりません。セラミックで歯を修復するときは、光の透け方と必要な明るさや色調を、一本の歯の中で両立させるように調整します。

歯の構造、形、色、表面性状を含む全体の関係については、別ページ「セラミック修復における天然歯らしさ」で説明しています。

関連ページ

執筆者

田中良一

表参道歯科アールズクリニック院長

東京医科歯科大学(現 東京科学大学)卒業、山王病院歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)を経て開業。審美修復をはじめ、歯周病やインプラント分野でも国内外で研鑽を積み、知識と技術を培ってきました。歯や歯ぐきの健康、かみ合わせを確かめながら、修復した歯が顔立ちや表情になじみ、ご本人が自分の口元として感じられることを大切にしています。

執筆者経歴ついてはこちら
error: Content is protected !!