前歯の審美歯科治療では、ホワイトニングや樹脂を用いた修復、クラウン(かぶせ物)などを使い、歯の色や形、欠け、すき間を整えます。治療方法は、変えたい内容に加え、残っている歯の量や厚み、材料を接着できる面、かみ合わせに応じて選びます。
周囲の天然歯になじませたい場合も、口元全体を明るくしたい場合も、ご本人の希望を治療の出発点にします。変えたい色や形と、今のまま残したいところを伺います。前歯の形や長さを変える場合は、必要に応じて模型上で形を検討します。その形を仮歯に移し、実際の口元でどう見えるか、無理なく話せるか、かみ合わせに問題がないかを確かめながら、仕上がりを決めていきます。
前歯の状態と希望に応じた治療方法
天然歯の色を変える治療と、材料を加えて歯の形を変える治療では、処置の内容も適用条件も異なります。歯や歯ぐきの状態、かみ合わせ、ご希望に応じて、次の方法から選びます。
| 整えたい部分 | 主な治療方法 | 選ぶ際の条件 |
| 天然歯の色 | ホワイトニング | 天然歯そのものを明るくしたい場合。ホワイトニングをしても、差し歯や詰め物の色は変わりません [1]。 |
| 歯の白い斑点 | 樹脂含浸療法 | 白斑の原因や深さに応じて選びます。歯に穴があいている場合は、修復が必要かも判断します [2] |
| 欠け・すき間・部分的な形 | すき間を閉じる場合は主にダイレクトボンディング。それ以外の前歯の樹脂修復には、主にダイレクトベニアを用います。 | 欠けた部分が小さくても、周囲の歯と色を合わせるために、歯の表側に広く樹脂を重ねることがあります。すき間を閉じる場合は、樹脂を加えた後の歯の幅や厚み、かみ合わせを確かめます。 |
| 歯全体の修復・差し歯の作り直し | 多色築盛ポーセレンクラウン | 歯全体を覆う必要がある場合や、既存のクラウンを作り直す場合。残った歯の状態と、材料に必要な厚みを確かめます [6] |
欠けた前歯の修復方法
欠けた前歯を修復するときは、残っている歯の量や厚み、材料を接着する面、以前の詰め物、噛んだときに力がかかる場所を調べます。当院では、欠けた前歯をコンポジットレジン(歯科用の樹脂)で修復する場合、主にダイレクトベニアを用います。歯の表側に樹脂を重ねて、色と形を整える方法です。わずかな欠けでも、もとの歯の色によっては、欠けたところだけを補うと境目が目立つことがあります。
歯が大きく失われ、部分的に補うだけでは修復物を支えにくい場合や、残った歯を覆って保護する必要がある場合には、クラウン(かぶせ物)で覆う方法を考えます [6]。欠けた部分の大きさだけで、治療方法が決まるわけではありません。
歯をできるだけ削りたくない方は、そのご希望をお伝えください。歯の状態を調べたうえで、どの部分を残せるか、部分的に補えるか、覆う必要があるならその理由をご説明します。
歯を削る範囲と神経への影響
前歯にクラウンをかぶせる場合でも、神経を残して治療できることがあります。歯をどこまで削るかは、むし歯や欠けの範囲、クラウンに必要な厚みを考えて決めます。神経を残せるかどうかは、痛みの経過や検査での歯の反応をもとに判断します。むし歯が深い場合は、むし歯を取り除いた際に歯髄(神経や血管を含む組織)の状態を確かめて、初めて判断できることもあります [7]。
処置中に計画の変更が必要と分かった場合は、理由と必要な処置、歯への負担、費用や期間への影響をご説明します。根管治療が必要な場合は、専門医への紹介も含めてご相談します。
天然歯を白くするホワイトニング
ホワイトニングは、歯を削らずに、薬剤で天然歯そのものの色を明るくする治療です。歯の表面についた着色汚れであれば、クリーニングで落とせることがあります。当院では、お口に合わせたトレーと薬剤をご自宅で使っていただくホームホワイトニングを行っています。
差し歯や詰め物の色は、ホワイトニングをしても変わりません。修復治療とあわせて歯全体を明るくしたい場合には、先にホワイトニングを行い、その後の歯の色に合わせて修復物を製作します [1]。歯の色と状態を確認してから、修復に使う色と処置の時期を決めます。
歯が白くなる程度には個人差があり、一時的に歯がしみることもあります。治療後も歯の色は変化するため、色の戻り方を見ながら、ホワイトニングを追加するかどうかをご相談します。

| 治療法 | ホームホワイトニング(自由診療) |
| 費用 | 税込 44,000円/スタートキット( ホワイトニングトレー、ホワイトニング材4本 ) |
| 追加薬剤 | 税込 11,000円/2本 |
| リスク | 知覚過敏が生じることがあります。 |
歯の白い斑点を目立ちにくくする樹脂含浸療法
前歯の白い斑点(白斑)が気になるときは、斑点のある部分を治療して目立ちにくくできる場合があります。まず白斑の原因や深さを調べ、樹脂含浸療法が適しているかを判断します。
樹脂含浸療法では、歯の表面を薬剤で処理したあと、細かな隙間が生じているエナメル質に流動性の高い樹脂を浸み込ませます。白く見える部分の光の通り方を変えることで、周囲との色の差を小さくすることを目指します[2]。
白斑の状態によって改善の程度は異なり、完全に目立たなくなるとは限りません。歯に穴があいている場合などは、樹脂を浸み込ませる処置だけで対応できるか、修復も必要かを判断します。

| 治療法 | 樹脂含浸療法(自由診療) |
| 費用 | 税込 55,000円 |
| 治療回数 | 1回 |
ダイレクトボンディング、ダイレクトベニア
ダイレクトボンディングでは、コンポジットレジン(樹脂に無機の微粒子を混ぜた材料)を歯に直接重ねて、色と形を整えます。前歯のすき間を閉じるときは、主にすき間に面した歯の側面に樹脂を足します。それ以外の前歯の樹脂修復には、歯の表側に広く樹脂を重ねるダイレクトベニアを主に用います。わずかな欠けでも、もとの歯の色によっては、欠けた部分だけを補うと境目が目立つためです。
歯と歯のすき間は、材料を加えることで、歯を削らずに閉じられる場合があります。材料を加えると横幅も増えるため、歯の長さが変わらなくても、横に大きく見えることがあります。元の歯の幅と長さ、隣の歯との関係を見ながら、材料を加える位置と量を決めます。
厚みが増して唇やかみ合わせに影響しないか、接着する面や噛んだときの接触に無理がないかも確かめます。横幅が気になる方は、治療前にお伝えください。必要に応じて模型上で形を作り、すき間を閉じたときの幅と長さの見え方をご説明します。
当院では、必要に応じて型を採り、模型の上で仕上がりの形をワックスで作ります。模型上の形を口の中に移すためのシリコーン製の枠を製作し、後日、その枠を使ってコンポジットレジンによる修復を行います。
治療の際には、ラバーダムという薄いシートで治療する歯を周囲から隔離し、唾液などが接着面に触れない状態で処置します。
コンポジットレジンは、使用するうちに着色や摩耗、欠けが生じることがあります。治療後は色や表面、かみ合わせの変化を調べ、研磨や補修が必要かを判断します[3]。

| 治療法 | 前歯のダイレクトボンディング・ダイレクトベニア(自由診療) |
| 費用 | 税込 88,000円 × 2 (ワックスアップなどの費用を含む) |
| 治療回数 | 2回 |
| リスク | 樹脂が欠けることがあります。 |
FAQ : 写真と同じくらいのすき間なら、私も樹脂で閉じられますか?
すき間の幅だけでは判断できません。同じ幅のすき間でも、もともと細長い前歯と横幅の広い前歯では、樹脂を足したあとの形が違って見えます。すき間を閉じたときの左右の前歯の形と、噛んだときに樹脂を足す部分に強い力がかからないかを確かめます。
歯全体を覆う多色築盛ポーセレンクラウン
クラウンは、残っている歯を覆い、歯の形や機能を補うかぶせ物です。以前に入れた差し歯を作り直す場合や、歯が失われた範囲が大きく、残っている歯全体を覆って修復する必要がある場合に選択肢となります[6]。
治療前には、残っている歯の量や厚み、ひびの状態、かみ合わせを調べ、クラウンを支えられる状態かを確認します。目標とする色や形を再現するには材料の厚みも必要になるため、歯を削る範囲と歯への負担についても、あらかじめご説明します。
当院の前歯のポーセレンクラウンは、oral designメンバーのセラミスト(セラミック専門の歯科技工士)、内海賢二氏がクリエイション陶材を用いて製作します。色や光の通し方が異なる陶材を手作業で重ね、天然歯の内部から表面へ続く色の重なりを再現する、多色築盛ポーセレンクラウンを基本としています。周囲の天然歯になじませたい場合も、より明るい口元にしたい場合も、ご希望に応じて色と形を決めていきます。
差し歯の色、歯ぐきとの境目、歯と歯の間の黒い隙間などが気になる方には、原因ごとの判断や、外してから分かることを、「セラミック・差し歯のやり直し」で詳しく説明しています。

| 治療法 | 多色築盛ポーセレンクラウン(自由診療) |
| 費用 | 税込 385,000円 × 2 (仮歯の費用を含む) |
| リスク | セラミックが欠けることがあります。 |
複数の治療方法の組み合わせ
複数の前歯を治療する場合は、一本ずつの歯の状態や変えたい内容に応じて、いくつかの治療方法を組み合わせることがあります。すべての歯に同じ方法を用いるとは限りません。
下の写真、向かって左の前歯はダイレクトボンディングで修復しました。向かって右の中切歯(中央の前歯)に入っていた古いクラウンは、多色築盛ポーセレンクラウンに作り替えました。

| 治療法 | ダイレクトボンディング + 多色築盛ポーセレンクラウン(自由診療) |
| 費用 | 別途見積もり |
| リスク | セラミックやコンポジットレジンが欠けることがあります。 |
ホワイトニングと修復の順序
前歯のダイレクトボンディングでは、修復に先立ってホワイトニングを行うことがあります。ホワイトニングした歯のように明度(明るさ)が高い色では、人の目は色相(色合い)や彩度(色の鮮やかさ)の微妙な違いを捉えにくくなります。天然歯の明度を先に上げるのは、コンポジットレジンとのわずかな色相・彩度の差を目立ちにくくし、色調をなじませやすくするためです。
セラミックによる修復でも、周囲の天然歯を明るくしたい場合には、先にホワイトニングを行う方法を考えます。差し歯や詰め物は、ホワイトニングをしても天然歯のように白くならないためです [1]。ホワイトニング後の歯の色と状態を確認したうえで、修復に使う色と処置の時期を決めます。
天然歯も明るくしたい方は、修復物の色を決める前にお伝えください。差し歯と天然歯が混在する場合は、どの歯をどの程度明るくしたいかを伺い、ホワイトニングで変えられる部分と、修復物の見直しが必要になる部分を分けてご説明します。
仮歯で確認する形と発音
歯の形や長さを変えるときには、模型上で作った形と、実際の口元での見え方を照らし合わせます。唇の力を抜いたときに前歯がどの程度見えるか、笑ったときに前歯の先端を結ぶ線と下唇がどのような関係になるか、歯ぐきがどの程度見えるかを確かめます。
顔に対する歯の中心の位置や傾き、ご本人が気にされている左右差も踏まえて、形を決めます。歯ぐきの縁から続く歯のふくらみは、見た目に加えて歯ぐきの健康にも関わるため、その部分の形も調べます。
クラウンで歯の形を変える場合には、必要に応じて仮歯を使います。仮歯を入れた状態で形や長さをご本人に確認していただき、実際に話したり噛んだりしたときの状態も確かめます。発音しにくい、舌や唇への当たり方が気になるといった場合には、仮歯の形を調整します。
発音のわずかな変化が仕事に関わる方には、実際に話したときに感じる違いについても具体的に伺います。あわせて、新しい口元をご本人がどのように受け止めているかも伺いながら、治療を進めます。歯や口元の状態によっては、仮歯を作り直しながら段階的に形を整えることもあります。仮歯で確認した形は記録し、最終的な修復物の製作に反映します。
模型・仮歯・最終的な修復物では、確認できる内容が異なります。
| 確認する段階 | 確認する内容 | 確認できないこと |
| 模型での検討 | 歯の幅や長さ、歯どうしの位置関係。 | 実際の口元での見え方や発音、噛み心地。 |
| 必要に応じた仮歯での確認 | 口元での形、発音、舌や唇への当たり、噛み心地。 | 最終的なセラミックの色、光の通り方、表面の質感。 |
| 完成したセラミックの試適(接着前) | 最終材料の色や形、光の通り方、周囲の歯との関係。 | 長く使ったあとの変化や、将来の欠け・変色。 |
仮歯の見た目や発音、舌や唇への当たり、噛み心地で気になる点は、最終的な修復物の製作に進む前にお伝えください。どこを変える必要があるか、院長が一緒に確認します。
前歯にかかる力とかみ合わせの確認
前歯の長さや裏側の形を変えると、下の歯が当たる位置や、顎を動かしたときの歯の接触も変わります。そのため、噛み合わせた位置に加え、顎を前や横へ動かしたときに前歯や犬歯がどのように接触し、奥歯がどのように当たるかも確かめます。
セラミックは硬い材料ですが、曲げる力に対して割れやすい性質があります [5][8]。見た目の形とともに、力が集中する接触がないか、必要な材料の厚みを確保できるかを考えます。欠けを繰り返している歯では、これまでの経過も伺い、歯に加わる力と、歯や修復物の状態を合わせて調べます。
色調の確認とポーセレンクラウンの製作
天然歯は、歯ぐき側から先端にかけて色が変化します。歯の見え方には、内部の色や光の通り方、表面の細かな凹凸に加え、紫外線を受けて可視光を放つ「蛍光」という性質も関わります。
一本だけを修復するときには、隣の天然歯の明るさや色の重なり、光の透け方、表面の質感、先端の輪郭を確認します。複数の歯を修復するときには、一本ずつの特徴に加え、歯列全体としてどの程度の明るさと、どのような形を目指すかも考えます。
当院と技工所では、どちらもVITA-LITEを光源として歯の色を読み取り、記録しています。採色時の照明条件をそろえるとともに、ブラックライトの下でも天然歯と修復物を比較し、蛍光による見え方を確かめます。
写真は規格化したストロボを使って撮影し、コンピューター上でもホワイトバランスを調整します。色調が複雑な症例では、技工所またはクリニックでセラミストが立ち会い、患者さんの歯を直接見ながら彩色を行います。写真や色番号だけでは伝えきれない特徴を、製作を担当する歯科技工士が確かめるためです。
院長とセラミストは、写真や診断資料、仮歯で確認した形を共有し、診療で決めた内容を製作に反映します。内海氏は、目標とする見え方に合わせて、重ねる陶材の色や厚みを調整します。
治療後の管理
治療後は、修復物の表面や境目、歯ぐき、かみ合わせの状態を定期的に調べます。たとえば、前歯を修復した樹脂の表面に着色があれば、磨き直すだけで目立たなくなることがあります。樹脂の一部が欠けたときは、欠けた原因と、残っている歯や樹脂の状態を確かめます。状態がよければ、修復物全体を作り直さず、欠けた部分に樹脂を足して補修できます[4]。作り直しを繰り返す負担を抑えられるよう、歯の状態に応じた管理を続けます。
前歯の治療をご希望の方へ
院長が、現在のお悩みやご希望、これまでに受けてきた治療について伺います。具体的な治療方法が決まっていなくても、気になっている歯や、どのように変えたいのかをお聞かせください。
当院では、同じ時間帯にほかの患者さんの予約を入れない完全貸切で診療しています。一人の患者さんのために時間を確保し、ご希望の聞き取り、歯や口元の状態の確認、治療計画のご説明を行います。
ご予約はお電話で承っています。診査から治療計画のご説明までの流れや、ご来院時にお持ちいただくものについては、「初診の流れ」をご確認ください。
初診の流れ参考文献・資料
- American Dental Association. Whitening.
- DMG. Effective treatment for white spots: Icon Vestibular.
- Lima VP, et al. Deterioration of anterior resin composite restorations in moderate to severe tooth wear patients: 3-year results. Clin Oral Investig. 2022;26:6925–6939.
- FDI World Dental Federation. Repair of Restorations. 2019.
- Khijmatgar S, et al. Fifteen-year recall period on zirconia-based single crowns and fixed dental prostheses. BDJ Open. 2024;10:54.
- American Dental Association. Crowns. MouthHealthy.
- American Association of Endodontists. AAE Position Statement – Vital Pulp Therapy. 2021.
- Jin J, Takahashi H, Iwasaki N. Effect of Test Method on Flexural Strength of Recent Dental Ceramics. Dent Mater J. 2004;23(4):490–496.
執筆者
田中良一
表参道歯科アールズクリニック院長
東京医科歯科大学(現 東京科学大学)卒業、山王病院歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)を経て開業。審美修復をはじめ、歯周病やインプラント分野でも国内外で研鑽を積み、知識と技術を培ってきました。歯や歯ぐきの健康、かみ合わせを確かめながら、修復した歯が顔立ちや表情になじみ、ご本人が自分の口元として感じられることを大切にしています。
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