ハリウッドスマイルとoral design

Written by 田中良一 表参道歯科アールズクリニック院長

前歯を白く整えたいという希望と、天然歯らしい質感を残したいという希望は、両立することがあります。口元の印象は、白さの程度だけで決まるものではありません。歯の中での色の変化や光の通り方、歯の形と顔立ちとの関係も、見え方に関わります。

ここでは、均一な白さと整った歯並びを際立たせる仕上がりを「ハリウッドスマイル」と呼びます。陶材を手作業で重ねて焼成する多色築盛のポーセレンを例に、希望する白さと天然歯らしい見え方をどのように考えるかを説明します。

映画撮影とベニアの歴史

ハリウッドの映画撮影と、歯の表面を薄い材料で覆うベニアには、歴史的なつながりがあります。

歯科医師チャールズ・ピンカスは、映画産業における審美歯科の発展について記した回想の中で、画面に映る口元を整えながら、発音や演技を妨げずに俳優の外見を変える方法を求められたと述べています。そこで使われたのが、歯の表面に装着する薄いポーセレンのベニアでした。撮影やインタビュー、人前に出るときに装着し、その後は取り外すものでした[1]。

歯の傾きや隙間によって、画面上で黒く見える部分を整えることも目的の一つでした。ピンカスは、歯の輪郭を変えて光の反射する方向を調整し、同じ位置にある歯を長く、短く、広く、狭く見せる工夫についても記しています。

こうした記録からは、歯の形と光による見え方が、当時の映画撮影でも細かく検討されていたことが分かります。ただし、当時のベニアの目的を、現在の均一な白さや「治療したことが分かる美しさ」とそのまま結びつけることはできません。

歯の白さと不透明さ

歯科で使う色見本には、明るく黄みの少ない色を示すブリーチシェードがあります。ブリーチシェードを選んだからといって、光を通さない不透明な歯になると決まるわけではありません。

明度は明るさを、彩度は色みの強さを、透明性は光をどの程度通すかを表します。それぞれは互いに関係しますが、同じ性質ではありません。歯の白さを考えるときには、明るさや黄みの少なさと、内部や先端で光がどの程度通って見えるかを分けて考える必要があります。

セラミック修復では、材料そのものの色に加えて、セラミックの厚みや、その内側にある歯や土台の色も仕上がりに関わります。ブリーチシェードのセラミックを調べた実験でも、下地の色を隠す程度は、材料の種類や厚みによって異なりました[2]。

内側の色が濃い場合には、その影響を抑えるための工夫が必要になります。一方、下地の色を生かせる場合には、材料が持つ光を通す性質を利用できます。どの程度の白さを、どのような光の通り方で作るかは、こうした条件を見ながら決めていきます。

歯全体を均一に明るく見せる白さと、歯ぐき側から先端に向かって色や透明性が変化する白さでは、口元の印象も異なります。白さを希望される場合には、その違いまで確認しておくと、仕上がりについての認識をそろえやすくなります。

顔立ちと個性に合わせた修復

歯の形を考えるときには、幅や長さだけを見て決めるわけではありません。唇の動きや、話すとき、笑うときの見え方、周囲の歯との関係も確認します。

わずかな左右差や表面の細かな特徴を取り入れることもありますが、不揃いにすれば自然に見えるとは限りません。その違いが、患者さんの口元の中でどのように見えるかを確かめます。

ウィリー・ゲラーが自身の審美補綴に対する考え方に与えた名称であるoral designも、一人ひとりの顔立ちや口元、個性との関係を考えた修復を重視しています[3]。

ゲラーは、天然歯より白い笑顔であっても、その人と調和していれば美しくなり得ると述べています。当院でも、この考え方を、白さの程度だけで判断せず、歯とその人との関係の中で仕上がりを考える姿勢として大切にしています[4]。

多色築盛で調整する白さと質感

多色築盛のポーセレンは、歯科技工士が性質の異なる陶材を選び、手作業で層を重ねて焼成する方法です。明るく整った白さを目指す場合にも、天然歯に見られる細かな色や光の通り方を表現する場合にも用います。

天然歯の見え方には、内側の象牙質と、その外側を覆うエナメル質が関わります。エナメル質には、反射した光では青みを、透過した光では橙色系の色を示すオパール効果があります[5]。また、天然歯には紫外線などを受けて可視光を放つ蛍光性があり、象牙質とエナメル質では、その強さや発光の仕方が異なります[6]。

天然歯に近い見え方を目指す多色築盛では、色や透明性の異なる陶材を組み合わせながら、こうした特徴に近づけていきます。歯ぐき側の色、象牙質による内部の色調、先端に見える象牙質の形、エナメル質に相当する外側の層、先端の白い帯などを、必要に応じて作り分けます。

歯全体の明るさをどの程度そろえるのか、部位ごとの色の変化や光の通り方をどこまで表現するのかによって、陶材の色や透明性、層の厚みや配置を調整します。明るい白さを希望する場合でも、こうした細かな表現を取り入れることはできます。

一方、均一に見える仕上がりであっても、陶材を一層だけで作ったことを意味するわけではありません。使用する陶材の種類や焼成回数は、再現する歯と製作方法によって変わります。その数の多さだけで、自然さや完成度を判断することはできません。

仕上がりを確認するときに見ること

仕上がりを考えるときには、どの程度明るくしたいのか、部位ごとの色の変化や光の通り方をどこまで表現したいのか、歯の形や並び方をどのように整えたいのかを分けて確認します。そのうえで、実際の口元で見たときに、ご本人の希望に近づいているかを確かめます。

白い歯を褒められることと、修復した歯だと気づかれることは、別のことです。目立つほど明るい白さを希望しながら、天然歯に見られるような質感も求めることはできます。反対に、周囲の歯と同じ色を選んでも、形や表面の状態が合わなければ違和感が残ることがあります。

治療したことが周囲に分かる仕上がりを、ご本人がどう感じるかも確認します。周囲からどう見えるかに加えて、ご本人がその口元をどのように受け止めるかも、治療の目標を考えるうえで大切だからです。

照明によって変わる歯の見え方

歯の色は、照らす光によって見え方が変わります。朝の窓辺、昼の屋外、夕方の室内、レストランの間接照明では、同じ歯でも少しずつ違って見えることがあります。

こうした変化は、天然歯にも修復物にも起こります。白く不透明な修復物であっても、照明が変われば見え方は変化します。確認したいのは、周囲の天然歯と修復物が、照明の変化によってどの程度同じように見え方を変えるかという点です。

ある照明では近い色に見える二つの物が、別の照明では違う色に見える現象を、メタメリズムと呼びます。天然歯と色見本を比較した研究でも、照明条件によって色の差が変わることが確認されています[7]。

材料が光の波長ごとにどの程度反射、吸収、透過するか、蛍光性がどのように現れるかによっても見え方は変わります。多色築盛は、こうした見え方を調整するための方法の一つですが、あらゆる照明の下で周囲の天然歯と同じように見えることを保証するものではありません。

そのため、診療室の一つの照明だけで色を決めず、異なる光の下での見え方も確認します。均一な白さを目指す場合にも、周囲の天然歯になじませる場合にも、日常生活の光の中でどう見えるかは共通して考える必要があります。

天然歯と修復物の経年変化

天然歯は、年月とともに変化します。加齢に伴う象牙質の変化や、表面の摩耗、着色などによって、色や形も少しずつ変わります。

年齢層を比較した研究では、高齢の群ほど歯の明るさが低く、黄みが強い傾向が認められています[8]。ただし、変化の程度には個人差があるため、この傾向だけから、特定の歯が何年後にどの色になるかを予測することはできません。

修復物にも経年的な変化があります。セラミッククラウンを追跡した臨床研究でも、一部のクラウンで表面の粗さや摩耗の変化が確認されています [9]。天然歯とセラミックでは変化の仕方が異なるため、装着時の色や形の関係がそのまま続くとは限りません。

周囲の天然歯の色が変われば、修復物との色の差が生じることがあります。周囲の歯が摩耗すれば、歯の長さや輪郭の関係が変わることもあります。こうした変化は、均一な白さを目指した修復にも、周囲の天然歯になじませた修復にも関わります。

現在の年齢や口元に合う色と質感を考えることは大切ですが、その時点で将来の変化まですべて予測できるわけではありません。装着時の仕上がりを確認し、治療後も周囲の歯や歯ぐきを含めて経過を見ていきます。

ご希望をもとに治療目標を考えます

当院では、かみ合わせの安定と歯周組織の健康を保てる範囲で、ご本人の希望を治療目標の出発点にしています。

ハリウッドスマイルのように白く整った口元を希望される場合も、顔立ちになじみ、治療したことが分かりにくい仕上がりを希望される場合も、それぞれのご希望を伺って治療を考えます。目指す美しさによって、製作にかける注意や手間を変えるということではありません。

具体的な色や形を決めるときには、歯をどの程度削る必要があるか、材料に必要な厚みを確保できるか、かみ合わせや清掃のしやすさを保てるかを確認します。その条件の中で、ご希望に近い仕上がりを検討します。

歯科医師とセラミストは、修復物として成立する色や形、構造を検討します。そのうえで、実際の口元をご本人にも確認していただき、希望する口元として受け止められるかを一緒に確かめながら進めます。

関連ページ

参考文献・資料

  1. Pincus CL. The development of dental esthetics in the motion picture industry. In: Goldstein RE, Chu SJ, Lee EA, Stappert CFJ, eds. Ronald E. Goldstein’s Esthetics in Dentistry. 3rd ed. Wiley; 2018. Appendix D: Pincus Principles, pp. D7–D8. 初版のために執筆された本人の回想の再録。
  2. Reybod S, Ezoji F, Ahmadizenouz G, Esmaeili B. Investigating the Ability to Mask Dental Discoloration by CAD/CAM Bleach Shade Ceramics in Different Thicknesses. Clinical and Experimental Dental Research. 2025;11(1):e70102.
  3. Oral Design. oral design. 公式サイト「Founder」
  4. Oral Design. Creation porcelain. 公式サイト「Founder」
  5. Lee YK, Yu B. Measurement of opalescence of tooth enamel. Journal of Dentistry. 2007;35(8):690–694.
  6. Garrido TM, et al. In vitro evaluation of composite resin fluorescence after natural aging. Journal of Clinical and Experimental Dentistry. 2020;12(5):e461–e467.
  7. Corcodel N, Helling S, Rammelsberg P, Hassel AJ. Metameric effect between natural teeth and the shade tabs of a shade guide. European Journal of Oral Sciences. 2010;118(3):311–316.
  8. Haralur SB. Effect of Age on Tooth Shade, Skin Color and Skin-Tooth Color Interrelationship in Saudi Arabian Subpopulation. Journal of International Oral Health. 2015;7(8):33–36.
  9. Esquivel-Upshaw J, Rose W, Oliveira E, Yang M, Clark AE, Anusavice K. Randomized, Controlled Clinical Trial of Bilayer Ceramic and Metal-Ceramic Crown Performance. Journal of Prosthodontics. 2013;22(3):166–173.

執筆者

田中良一

表参道歯科アールズクリニック院長

東京医科歯科大学(現 東京科学大学)卒業、山王病院歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)を経て開業。審美修復をはじめ、歯周病やインプラント分野でも国内外で研鑽を積み、知識と技術を培ってきました。歯や歯ぐきの健康、かみ合わせを確かめながら、修復した歯が顔立ちや表情になじみ、ご本人が自分の口元として感じられることを大切にしています。

執筆者経歴ついてはこちら
error: Content is protected !!