歯を失ったことは、結果です

歯を失う理由は、大きく二つに分かれます。

歯周病や虫歯という、細菌による理由。そしてもう一つが、噛む力の偏りや、歯ぎしりや、噛み合わせの干渉という、力による理由です。

なぜその歯を失ったのか。それを確かめないままインプラントを入れると、同じ理由で、インプラントも、その周りの歯も、再び壊れます。歯の寿命を決めているのは、噛み合わせと歯周組織の状態だからです。

そして、失われた場所は、そこで終わった問題ではありません。一本が抜けると、その歯が受け持っていた力を、残りの歯が肩代わりします。負担の増えた歯は、少しずつ傾き、動き、噛み合う相手を失った歯は伸びてきます。噛み合わせの高さが下がり、前歯が突き上げられる。そうして、健全だった歯まで、順に失われていきます。

足を痛めたときに、かばって歩くうちに、反対の膝や腰まで痛めることがあります。お口の中でも、同じことが起きています。失った一本は、残っている歯を壊す、次の原因に変わるのです。

ですから、抜けたところに一本入れる、という考え方では、長くは保ちません。その一本が倒れた背景には、お口や顎全体の問題が隠れているからです。

歯周補綴

歯周補綴(Periodontal Prosthesis)は、モートン・アムステルダムが確立した治療の領域です。欠損や歯周病を、その場所だけの問題ではなく、口全体の釣り合いの崩れとして捉えます。

この見方の中で、インプラントは、欠損を埋めるものではありません。歯周病などで失った歯の代わりを残った歯に負わせ続ければ、その歯も壊れていきます。そこにインプラントを適切に置いて、失われた奥歯の支えを回復する。弱った歯にかかりすぎている力を、肩代わりさせる。そういう装置として位置づけられます。

インプラントを入れる目的は、失った歯を取り戻すことではなく、残っている歯を守ることにあります。

性質の違う二つが、同じ列に並ぶ

いまでは一本の歯の欠損にも用いられるインプラントですが、この治療は、もともと、すべての歯を失った顎のために生まれました。すべての歯を失った顎で長い年月の予後が確かめられ、そののちに、部分的な欠損へと応用が広がっていきます。

この応用によって、インプラントにとって2つのことが起こりました。インプラントを取り巻く口の中の細菌の環境が変わったことと、噛み合わせの与え方が変わったことです。

すべての歯を失った顎では、歯周病の細菌が棲みつく場所である歯周ポケットが、歯とともに消えています。ところが、天然の歯が残っている口では、その歯のポケットが細菌の住処であり続けます。インプラントを埋めると、歯周ポケットから細菌が移り、周りに棲みつきます。だからこそ、埋入の前に歯ぐきの健康を整えておくことが必要なのです。

噛み合わせも同じです。すべてを失った顎では、噛み合わせをゼロから作れます。天然の歯が残っている場合は、残っている歯に合わせ、しかも天然の歯を守るようにしなければなりません。顎を横に動かしたとき、前歯や犬歯が導いて、奥歯が触れ合わないようにする。インプラントは横に揺さぶられる力に弱いので、この離れ方が、周りの骨を守ります。

そして、天然の歯とインプラントは、見た目には同じように並んでいても、成り立ちが違います。

天然の歯は、骨に直接くっついてはいません。歯根膜という薄い層を挟んで支えられています。この層は、噛む力を受け止めるクッションであり、同時に感覚の器官でもあります。強すぎる力がかかると、無意識のうちに顎が力を緩める機能が働いています。

インプラントは、骨と直接結合します。歯根膜がありません。ですから、力を和らげるクッションがなく、かかりすぎている力にご本人が気づきにくい。

歯ぐきとの境目も違います。天然の歯では、歯ぐきの繊維が歯の面に垂直に突き刺さり、固く結ばれています。インプラントの表面には、繊維が刺さりません。周りに平行に巻きついているだけです。さらに、歯根膜から来る血管がないため、その周りは血の巡りに乏しいため、いったん炎症が起きると、防ぐ働きが遅れ、深いところまで速く進みます。

天然歯とインプラントが同じ歯列に並ぶとき、噛み合わせをどう与え、それを長く安定させるかは、きわめて難しくなります。だからこそ、慎重な治療と、長い年月にわたる管理が欠かせません。

インプラント治療には順序があります

歯周補綴では、基本的に治療は次の順序で進みます。インプラントの手術が現れるのは、歯周補綴の治療順序の中の十三番目です。

( * は必要な場合のみ )

01プラークコントロール
02歯ぐきの炎症をなくす(歯周初期治療)
03残せない歯や残すと害になる歯を抜歯 *
04虫歯に侵された歯の部分を削り、仮に埋める
05おおまかな仮歯
06根管治療*
07おおまかに噛み合わせを整える
08矯正*
09精密に噛み合わせを整える
10歯ぐきの外科手術が必要かどうかの評価
11歯ぐきの外科処置*
12外科処置結果の評価
13インプラント手術
14精密な仮歯
15最終的な修復物
16メインテナンス

アムステルダム教授講義より改編

口の中の炎症が残ったまま手術をすれば、手術した場所が感染し、インプラントと骨が結びつくことを妨げます。そして、仮歯で噛み合わせの高さと前歯の導き方を確かめてからでなければ、インプラントを力学的に正しい位置に埋めることができません。位置を決めるのは骨の形ではなく、最終的にどう噛ませるかという計画です。

当院では、インプラント手術は、高森等(日本歯科大学病院口腔インプラント診療科名誉教授)が、当院にて執刀します。

CTの撮影と、大規模な骨の造成などを要する場合は、日本歯科大学病院口腔インプラント診療科に依頼します。治療の計画は高森等と院長 田中良一が共同で立案し、上部構造(かぶせ物)は院長が担当します。

インプラントが困難な場合

インプラントをお望みの方が本当に望んでおられるのは、インプラントという道具そのものではないはずです。しっかり噛めること。見た目が気にならないこと。これ以上、歯を失わないこと。私たちが診断でお示しするのは、その目的に対して、何が最善かという答えです。

歯周病が抑えられていない状態でインプラントを入れれば、インプラントの周りに炎症が起きる危険が高くなります。

強い歯ぎしりがあり、そこに大がかりな骨の造成が重なる場合も、負担は大きくなります。

将来にわたってご自身で清掃を続け、通院を続けることが難しいと見込まれる場合も同じです。

これらの場合、インプラントは理屈のうえで適していても、その方にとって最善の方法とは言えません。

診断の結果、当院でのインプラントが困難だと判断することがあります。その場合、日本歯科大学病院口腔インプラント診療科をご紹介します。

インプラントを入れて終わりではありません

インプラントには、インプラント周囲炎という、周りの歯ぐきと骨に起こる炎症の危険があります。報告される頻度は、診断の基準と対象とする集団によって大きく異なりますが、歯周病治療を受け、定期的なメインテナンスに通っている方に限ると、頻度は低く報告されています。主な危険因子は、歯周病の既往、清掃の不良、そしてメインテナンスの欠如です。

先に記した通り、インプラントの周りは、天然の歯の周りより防ぐ働きが弱い場所です。ですから、埋入の前に歯ぐきと骨を整えること、そして装着の後に定期的な管理を続けることを、私たちは治療の一部と考えています。生物学の面からも、噛み合わせという力の面からも、インテナンスを続けることが最も重要です。

治療は、もう二度と治療しなくてよい状態のために。インプラントにおいてそれは、埋めて終わりではなく、周りの組織の健康を保ち続けることを意味します。