
Written by 田中良一 表参道歯科アールズクリニック院長
天然の歯とインプラントでは、骨への支えられ方、歯ぐきとの結びつき、噛む力の感じ方が異なります。インプラントは失った歯の代わりにかぶせ物を支えますが、歯根膜など、天然歯に備わる組織まで再現する治療ではありません [1]。
見た目の近いかぶせ物が入っていても、歯ぐきの下で支えている構造は同じではありません。支え方の違いに加えて、歯ぐきの付着、血液の供給、感覚の情報がどこから伝わるかを分けて見ると、インプラントを使い続けるために何を確かめるのかが分かりやすくなります。
歯根膜を介する天然歯と骨に直接支えられるインプラント
天然歯の根と顎の骨との間には、「歯根膜」という薄い組織があります。歯根膜の線維は、根の表面を覆うセメント質と周囲の骨をつないで歯を支えています。健康な歯にも、力が加わるとわずかに動く余地があり、噛んだときの力は歯根膜を介して骨に伝わります [1]。
インプラントには歯根膜がなく、骨がインプラントの表面に直接接して支えます。この結合を「オッセオインテグレーション」と呼びます。天然歯のように歯根膜の変形に伴って動く構造ではないため、噛む力の伝わり方も異なります [1]。
天然歯を支える仕組みには、根の表面のセメント質、歯根膜、顎の骨が関わります。インプラントで骨との結合が得られても、インプラントの周囲にセメント質や歯根膜が新たにできるわけではありません。天然歯の根の代わりを担うことと、根の周りの組織まで同じ構造になることは区別する必要があります [1]。
噛む力を感じる仕組みの違い
歯根膜には、歯に加わる力を感じ取る神経の受容器もあります。食べ物に歯が触れたことや、力の大きさ・方向についての情報は、食べ物を歯の間に保持したり、噛み切ったりするときの細かな力の調節に関わっています。天然歯の周囲を麻酔した人を調べた研究でも、感覚の情報が少なくなると、前歯で食べ物を正確に分割する動作に影響が出ることが示されています [2]。
食べ物を保持するときには、落とさない程度の力を加え、その後に噛み切る力へ移ります。歯に加わる力を感じ取る働きは、このような連続した動作の調節に関わります。歯根膜は歯を支える組織であるとともに、噛む動作に必要な情報を伝える組織でもあります [2]。
インプラントには歯根膜の受容器がありませんが、噛んだ感覚までなくなるわけではありません。インプラントを介した刺激を感じ取る現象は「オッセオパーセプション」と呼ばれ、周囲組織の神経や脳の適応などとの関係が研究されています。天然歯と比べて刺激を感じ取る感度は低い傾向にありますが、その差は検査方法によって異なります [3]。
「インプラントでも噛んだことが分かる」という日常の感覚と、「天然歯と同じ細かな刺激を感じ分けられる」ということは同一ではありません。刺激を感じ取る経路が残っていても、歯根膜からの情報がなくなるため、天然歯と同じ仕組みで力を調節しているとはいえません。感覚の有無だけでなく、刺激をどの程度細かく捉えられるかが研究の対象になっています [3]。
歯ぐきとの結びつき方の違い
天然歯の周りでは、歯ぐきの表面を覆う上皮に加え、その下にある結合組織が歯との付着に関わっています。結合組織に含まれるコラーゲン線維の一部は、根の表面のセメント質に入り込み、歯ぐきと歯を結びつけています [1]。
インプラントの表面にはセメント質がないため、天然歯と同じように線維が入り込んで付着する構造はありません。周囲の線維は主に表面に沿う方向に走行し、上皮の付着と、その下の結合組織によって、インプラントの周囲に粘膜の封鎖が形成されます。付着の仕組みは天然歯と異なりますが、インプラントにも、口の中の環境から下にある組織を隔てる構造があります [1][4]。
ここでいう「封鎖」は、インプラントが口の中へ出ている部分の周囲を、粘膜が取り囲む構造を指します。骨の中でインプラントを支える部分と、口の中に接する粘膜の部分は、働きが異なります。骨との結合が維持されていることに加えて、粘膜に炎症がないかも確かめる必要があります [4][6]。
血液を供給する経路と血管分布の違い
天然歯の周囲には、歯根膜から歯ぐきへ向かう血管があります。インプラントには歯根膜がないため、この経路からの血液供給もありません。動物実験では、インプラント周囲の粘膜には主に骨膜側から血液が供給され、インプラント表面に接する結合組織の一部では、天然歯の対応する部位より血管が少ないことが確認されています [5]。
血管の分布は、同じインプラント周囲でも部位によって異なります。上皮の外側には血管網があり、免疫細胞も存在します。血管の少ない部位があるという組織学的な特徴だけから、一人ひとりの感染の起こりやすさや、炎症の進む速さまでは判断できません [1][5][6]。
歯根膜がなくなることで、その中を通っていた血管の経路もなくなります。しかし、インプラント周囲の粘膜全体に血管がないという意味ではありません。血管の少ない領域と、血管網が存在する領域を分けて理解することが、天然歯との違いを正確に捉えるうえで必要です [5]。
組織の違いとインプラント周囲炎の関係
インプラントの周囲でも、歯垢に含まれる細菌の集まりであるバイオフィルムに関連して炎症が起こります。炎症が周囲の粘膜にあり、治療後の初期の骨の変化を超える骨喪失を伴わない状態が「インプラント周囲粘膜炎」、炎症に伴って支える骨が次第に失われる状態が「インプラント周囲炎」です [6]。
周囲粘膜炎があるすべてのインプラントで、周囲炎へ進むわけではありません。発症には、歯周炎の病歴、日々の清掃状態、定期的なメインテナンスの有無などが関わります。周囲炎を発症したあとも、骨が失われる速さは患者さんや部位によって異なります [6]。
炎症が粘膜にとどまっている段階と、支える骨の喪失を伴う段階では、調べる所見と治療の内容が変わります。出血があるという所見だけで周囲炎と決めず、粘膜の状態と骨の変化を組み合わせて判断します。周囲粘膜炎を見つけた段階で歯垢の除去や清掃状態の改善に取り組むことも、その後の管理に関わります [6][7]。
噛む力と周囲炎との関係についても、歯根膜がないという事実だけで、噛む力が周囲炎による骨喪失の原因だとはいえません。咬合過負荷、つまり噛み合わせによる過大な負担が、周囲炎の発症や進行にどの程度関わるかは、なお研究が必要な論点です [7]。
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周囲の組織を保つための手入れと診査
インプラント周囲の健康を保つには、かぶせ物と粘膜の境目に歯垢が残りにくいことと、炎症や骨の変化を継続して調べることが必要です。歯ブラシや歯間清掃用具が届くかどうかには、インプラントの位置やかぶせ物の形も関わるため、清掃しやすい構造を治療計画の段階から考えます [7]。
周囲の粘膜の診査では、歯ぐきの溝に細い器具を軽い力で入れる「プロービング」によって、出血や膿の有無、溝の深さを調べます。測定値は粘膜の厚さや炎症、器具を入れる力にも左右されるため、深さの数字一つで健康かどうかを決めることはできません。使い始めたころの記録や、その後の検査結果と比較し、必要に応じてエックス線写真で骨の位置の変化も確かめます [1][6][7]。
同じ深さの測定値でも、以前からその深さで安定している部位と、以前より深くなって出血を伴う部位とでは、意味が異なります。比較する記録があれば、元々の組織の厚さや形による違いと、時間の経過によって生じた変化を分けて考えやすくなります [6][7]。
また、過去に骨が減ったことがあっても、現在は炎症がなく、周囲組織が健康な状態にある場合があります。骨の高さが低いという一時点の所見と、骨の喪失が進んでいることも区別します。健康かどうかは骨の量だけで決まらず、出血や腫れ、膿などの所見と、経時的な変化を合わせて判断します [6]。
噛めているという実感と、周囲の粘膜や骨が健康であることは、確認する内容が異なります。日常の手入れを続けながら、定期的な診査で粘膜、骨、かぶせ物の状態を確かめることが、インプラントを使い続けるうえでの基本になります [7]。
定期的な診査では、「汚れを落としたか」に加えて、「前回から粘膜や骨の状態が変わっていないか」を確かめます。自分で行う清掃と、診療室で記録を比較しながら行う診査には、それぞれの役割があります。インプラントの構造に合わせて手入れと確認を続けることが、組織の違いを日々の管理へ反映することになります [7]。
参考文献・資料
- Araújo MG, Lindhe J. Peri-implant health. Journal of Periodontology. 2018;89(Suppl 1):S249-S256.
- Grigoriadis J, Kumar A, Svensson P, Svensson KG, Trulsson M. Perturbed oral motor control due to anesthesia during intraoral manipulation of food. Scientific Reports. 2017;7:46691.
- Song D, Shujaat S, Politis C, Orhan K, Jacobs R. Osseoperception following dental implant treatment: A systematic review. Journal of Oral Rehabilitation. 2022;49(5):573-585.
- Berglundh T, et al. The soft tissue barrier at implants and teeth. Clinical Oral Implants Research. 1991;2(2):81-90.
- Berglundh T, Lindhe J, Jonsson K, Ericsson I. The topography of the vascular systems in the periodontal and peri-implant tissues in the dog. Journal of Clinical Periodontology. 1994;21(3):189-193.
- Berglundh T, et al. Peri-implant diseases and conditions: Consensus report of workgroup 4 of the 2017 World Workshop on the Classification of Periodontal and Peri-Implant Diseases and Conditions. Journal of Periodontology. 2018;89(Suppl 1):S313-S318.
- Herrera D, et al. Prevention and treatment of peri-implant diseases—The EFP S3 level clinical practice guideline. Journal of Clinical Periodontology. 2023;50(Suppl 26):4-76.

執筆者
田中良一
表参道歯科アールズクリニック院長
東京医科歯科大学(現 東京科学大学)卒業、山王病院歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)を経て開業。審美修復をはじめ、歯周病やインプラント分野でも国内外で研鑽を積み、知識と技術を培ってきました。歯や歯ぐきの健康、かみ合わせを確かめながら、修復した歯が顔立ちや表情になじみ、ご本人が自分の口元として感じられることを大切にしています。
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