歯を失ったところを治して、しっかり噛めるようにしたい。見た目を整えたい。残っている歯は、できるだけ残したい。

インプラントは、失った歯の代わりとなる人工の歯根を顎の骨に埋め、その上にかぶせ物を装着する治療です。噛むことや見た目の回復に加え、残っている歯との間で、どのように噛む力を支えるかを考えて用います。

当院では、歯周病の治療と、かぶせ物などによるかみ合わせの回復を組み合わせる「歯周補綴」の考え方に基づいて、インプラント治療を計画します。失った歯を補うことと、残っている歯を維持することを、一つの治療計画の中で検討します。

失った歯を補う方法を選ぶときは、残っている歯を治療後も維持できるか、被せ物やブリッジを支えられるかを検討します。歯周病のある方では、治療への反応も確かめて判断します。

残っている歯を支えとして維持できるかを踏まえて、ブリッジを検討します。インプラントは、歯だけでは必要な支えを得にくい場合や、残っている歯に担わせる負担を減らしたい場合などに検討します。手術が必要となるため、骨や歯ぐきの状態、全身の健康、治療後に清掃・管理を続けられるかも確認します。噛めるようにしたい、見た目を整えたいというご希望と、それぞれの方法の利点・負担を合わせて、治療計画をご説明します。

参考資料

EFP・歯周炎ステージIVの診療ガイドライン
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jcpe.13639

ご希望に応じて検討する内容

失った歯を補い、噛めるようにしたい

失った歯の場所と本数、残っている歯の状態から、噛む支えを回復する方法と範囲を検討します。インプラントを用いる場合は、最終的な歯の位置とかみ合わせを踏まえて、埋める位置と本数、かぶせ物の設計を決めます。残っている歯にも、どのように力が加わるかを確認します。

歯を失ったところの見た目を整えたい

かぶせ物の色や形、周囲の歯との並び、歯ぐきとの境目を検討します。とくに前歯では、歯を失った部分の骨や歯ぐきの状態が、歯の見える長さや境目の形に関わります。かぶせ物で整えられる範囲と、骨や歯ぐきへの処置を検討する範囲を分け、ご希望にどこまで応えられるかをご説明します。

歯周病があり、残っている歯をできるだけ残したい

歯を支える骨の状態や歯の動揺を調べ、歯周病治療への反応も見ながら、保存できる歯を判断します。歯を残せる見通しに加え、その歯をブリッジの支えとして使えるかも検討します。インプラントを組み合わせる場合は、残っている歯に担わせる役割も含めて計画します。

残っている歯の評価と治療方法の選択

歯を残せるかどうかは、歯周病だけでなく、むし歯や歯根の状態、残っている歯の量、かみ合わせなどを合わせて判断します。歯周病のある方では、炎症を抑える治療を行い、その後の状態を再評価します。動揺があるという理由だけで、直ちに抜歯やインプラントを決めるものではありません。

失った歯を補う方法には、ブリッジ、インプラント、取り外し式の義歯などがあります。固定式にしたいというご希望、支えになる歯の状態、手術の負担、治療後の清掃や管理を続けられるかを合わせて検討します [1]。

ブリッジを検討する条件

ブリッジは、残っている歯を支えにして、失った部分の歯を補います。支えとなる歯を治療後も維持でき、修復できることが前提です。歯周病治療後の状態、歯の位置と本数、すでにある修復物などから、支えとして使えるか、どの範囲を修復する必要があるかを判断します。

インプラントを検討する条件

インプラントは、顎の骨に噛む支えを設ける方法です。歯だけでは必要な支えを得にくい場合や、残っている歯に担わせる負担を減らしたい場合などに検討します。隣の歯をブリッジの支えにするために削ることを避けられる場合もあります。

一方で、手術が必要となり、埋める部分の骨や歯ぐき、全身の健康状態によっては、治療方法や計画の変更が必要です。インプラントを入れることで、残っている歯の保存が保証されるわけではありません。

取り外し式の義歯も含めた検討

固定式の修復が難しい場合や、手術を希望されない場合には、取り外し式の義歯も選択肢になります。失った歯の範囲、残っている歯の支え、装着感や清掃方法などを踏まえて、それぞれの方法で回復できることと負担を比較します。

骨や全身の状態から慎重に検討する場合

歯周病の炎症が続いている場合は、まずその改善と清掃状態の安定を図ります。骨を増やす処置が必要な場合は、回復できる範囲と手術の負担を検討します。持病や服用中のお薬、喫煙、歯ぎしり・食いしばり、治療後の通院や清掃についても確認します [2][3]。

インプラントが適しているかという判断と、当院で手術できるかという判断は分けて行います。治療自体は検討できても、骨の処置や全身管理のために大学病院での対応が必要になる場合があります。

歯周補綴で考える、かむ支えの回復

歯周補綴(Periodontal Prosthesis)は、モートン・アムステルダムが確立した治療の領域です。

歯周病では、歯ぐきの炎症だけでなく、歯を支える組織が失われます。炎症を抑えても、失われた支えや歯が、そのまま元に戻るわけではありません。歯の動揺や欠損によって噛みにくくなっている場合には、歯周病の治療に加えて、噛む支えを回復する治療が必要になります。

歯周補綴は、こうした状態に対して、歯周組織の健康と、歯を支える条件を確認しながら、かぶせ物やブリッジなどで機能を回復する治療です。インプラントも、その計画に組み込む選択肢の一つです。

たとえば、奥歯の支えを失い、残っている歯に負担が偏っている場合には、インプラントで奥歯の支えを回復し、力の分担を見直します。どの歯を残し、どこに支えを加えるかによって、かぶせ物の設計も変わります。

残っている歯の状態を調べることは、すべての歯を治療することを意味しません。必要な治療の範囲を判断するための診査です。

歯を失った原因を確認する理由

歯を失う原因には、歯周病、むし歯、歯の破折などがあります。歯ぎしりや噛む力の偏りが関わっていないかも確認します。歯を補った後も、もとの病気や清掃上の問題への対応は必要です。

歯を失った後に、隣の歯が傾いたり、向かい合う歯が伸び出したりしている場合には、その変化がかぶせ物の形やかみ合わせにどう影響するかを確認します。実際に起きている変化に応じて、治療の範囲を検討します。

天然歯とインプラントの違い

天然歯の根と骨の間には「歯根膜」という組織があり、歯を支え、噛む力を感知する働きがあります。インプラントには歯根膜がなく、骨と直接結合して支えられます。力が加わったときの動きや感覚が天然歯とは異なるため、噛みしめたときだけでなく、顎を動かしたときの歯の接触も含めて、かみ合わせを設計します [3]。

また、インプラント自体はむし歯になりませんが、周囲の組織に炎症が起こることがあります。天然歯とインプラントの両方について、歯ぐきの状態と清掃しやすさを確かめながら治療を進めます。

参考資料

EFP・インプラント周囲疾患の診療ガイドライン
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jcpe.13823

当院のインプラント治療の担当と連携

治療計画は、日本歯科大学名誉教授の高森等と、院長の田中良一が共同で立てます。インプラントの埋入手術は高森が当院で行い、その上に装着するかぶせ物である「上部構造」の修復は田中が担当します。

最終的な歯の位置やかみ合わせを踏まえた修復の計画と、骨や歯ぐきの条件を踏まえた手術の計画をすり合わせて進めます。

CT検査や広範囲の骨造成が必要な場合は、日本歯科大学附属病院の口腔インプラント診療科へご紹介します。当院での手術が難しい場合も、同科と連携して対応します。

費用は、診断と治療計画が定まったのちに、書面でお伝えします。

歯周補綴におけるインプラント治療の順序

はじめにご希望をうかがい、歯周病やむし歯、残っている歯の見通し、かみ合わせを診査します。インプラントを検討する場合は、CTなどで骨の状態も確認します。その結果を踏まえ、原則として日を改めて、治療方法と順序をご説明します。

下の表は、院長が受講したアムステルダム教授の講義をもとに改編した、歯周補綴の治療体系です。全員に16工程を行うものではありません。必要な処置とその順序は、歯や歯ぐきの状態、治療への反応、修復する範囲によって変わります。

01プラークコントロール
02歯ぐきの炎症をなくす(歯周初期治療)
03残せない歯や残すと害になる歯を抜歯 *
04虫歯に侵された歯の部分を削り、仮に埋める
05おおまかな仮歯
06根管治療*
07おおまかに噛み合わせを整える
08矯正*
09精密に噛み合わせを整える
10歯ぐきの外科手術が必要かどうかの評価
11歯ぐきの外科処置*
12外科処置結果の評価
13インプラント手術
14精密な仮歯
15最終的な修復物
16メインテナンス

* は必要な場合のみ アムステルダム教授講義より改編

この順序では、インプラント手術は十三番目に位置づけられています。手術に先立ち、歯周病や虫歯を治療し、残っている歯を評価して、かみ合わせを検討する。それらを踏まえてインプラントを用いる、という考え方を示しています。

この表は、すべての方に16項目の処置を一律に行うという意味ではありません。実際に必要な処置と進め方は、お口の状態に応じて決めます。

手術前に整えること

プラークコントロールは、ご自身による清掃と歯科医院での処置によって、歯垢を管理することです。歯周病やむし歯への対応、保存できる歯の評価を行い、炎症が抑えられたことを確認して、インプラント手術へ進みます。上の表で手術が13番目に置かれているのは、こうした準備を含めて歯周補綴を考えるためです。

広い範囲のかみ合わせを回復する場合には、仮歯を用いて、噛む高さや顎を動かしたときの歯の接触などを確認します。インプラントの位置は、その修復の計画と骨の条件を合わせて決めます。

仮歯から最終的な修復物へ進むときに確かめること

手術後は、骨や歯ぐきの治癒とインプラントの安定を確認しながら、修復を進めます。仮歯の段階では、見た目とかみ合わせに加え、歯ブラシや歯間ブラシなどが届く形になっているかを確かめます。

最終的な修復物へ進む前には、支えとなる歯やインプラントの見通しと、周囲の組織を清潔に維持できるかを再評価します。炎症が残る場合や清掃しにくい場合は、原因への処置や形の調整を行い、状態を確認します [1]。

参考資料

EFP・歯周炎ステージIVガイドラインのR8.3
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jcpe.13639

インプラントの適応を慎重に検討する場合

歯周病の炎症が十分に抑えられていない場合は、まずその治療が必要です。強い歯ぎしりがある場合、骨や歯ぐきを補う大がかりな処置が必要な場合には、期待できる回復と治療の負担を検討します。全身の健康状態や、治療後に清掃と通院を続けられるかも判断に関わります。

インプラント治療そのものが適さないと判断した場合は、その理由と、ほかの方法でどこまで回復を目指せるかをご説明します。院内では対応が難しく大学病院へ依頼する場合とは、区別してお伝えします。

治療に伴う主なリスクと限界

インプラントの手術後には、痛み、腫れ、出血などが生じることがあります。埋める場所や骨の状態によっては、神経の損傷によるしびれや、上顎洞という上顎の骨の中にある空洞への影響、感染などのリスクがあります。骨との結合が得られず、インプラントの除去や再治療が必要になることもあります [3]。

治療後には、かぶせ物の破損やねじの緩み、周囲の組織の炎症などが起こることがあります。前歯では、骨や歯ぐきの条件によって、希望する歯の長さや歯ぐきとの境目を再現することが難しい場合もあります。診査の結果に基づいて、ご自身に関係するリスクと回復できる範囲をご説明します。

治療後のメインテナンス

インプラントの周囲にプラーク( 歯垢 )がたまると、歯ぐきに炎症が起こり、周囲の骨が失われる「インプラント周囲炎」に進むことがあります。歯周病の既往、清掃不良、定期的な管理を受けていないことは、周囲炎のリスクに関わります。治療後も、残っている歯とインプラントの両方を継続して管理します [2]。

メインテナンスでは、歯垢の付着や歯ぐきの出血、歯やインプラントを支える組織の変化、かぶせ物の破損や緩み、かみ合わせを確認します。その状態に合わせて清掃方法や通院の間隔を検討し、必要な処置を行います。

定期的な管理は、問題を早く見つけ、必要な対応を続けるためのものです。治療した部分を長く使えるように、日々の清掃と歯科医院での管理を合わせて続けていきます。