
Written by 田中良一 表参道歯科アールズクリニック院長
インプラント周囲炎は、インプラントの周りにある歯ぐき(粘膜)に炎症が起こり、それに伴ってインプラントを支える骨が次第に失われていく病気です [1]。
インプラント周囲炎がどのくらい起こるのかを知るには、研究で示された割合だけでなく、その研究がどのような条件で行われたのかも一緒に見る必要があります。どの状態を周囲炎と診断したのか、どのような患者さんを調べたのか、治療から何年経過していたのかによって、報告される数字は変わるためです [2][3]。
また、「調査した時点ですでに周囲炎があった人の割合」と、「その後の数年間に新しく周囲炎を発症した人の割合」も意味が異なります。この違いを分けて読むことで、研究の数字が何を示しているのか、ご自身の治療を考える際にどこまで参考にできるのかが分かりやすくなります。
インプラント周囲炎と周囲粘膜炎の違い
インプラントの周囲に炎症があっても、治療後の初期に生じる骨の変化、いわゆる初期リモデリングを超える骨の喪失が認められない状態は、「インプラント周囲粘膜炎」と呼ばれます。
インプラント周囲粘膜炎がインプラント周囲炎に先行することはありますが、周囲粘膜炎になったすべてのインプラントが、周囲炎へ進むわけではありません [1][6]。
この二つを区別せずに割合を示すと、粘膜に炎症がある人と、骨の喪失まで生じている人が同じ数字の中に含まれてしまいます。研究の割合を読むときには、まずインプラント周囲粘膜炎と周囲炎のどちらを調べた数字なのかを確認します。
病気がある人の割合と新たに発症する人の割合
ある時点で患者さんを調べ、その時点でインプラント周囲炎がある人の割合を「有病率」といいます。
一方、観察を始めた時点では周囲炎がなかった人を追跡し、その後の一定期間に新たに発症した人の割合を「累積発症割合」といいます。どちらも「何%」という形で示されますが、今ある病気を数えた数字と、その後の新しい発症を調べた数字では意味が異なります。
さらに、患者さんの人数を基準にするのか、インプラントの本数を基準にするのかによっても割合は変わります。
「患者単位」は、少なくとも1本のインプラントに周囲炎がある人の割合です。「インプラント単位」は、調べたインプラント全体のうち、周囲炎がある本数の割合です。分母が違うため、患者単位で示された割合を、そのままインプラント1本ごとの発症確率として読むことはできません。
調査の条件によって異なる有病率
日本のメインテナンス通院患者における有病率
Ogataらの日本の研究では、歯周病専門医によるメインテナンスを受けており、使用開始から3年以上経過したインプラントがある267人を調べています。
その結果、インプラント周囲炎が認められた人は26人で9.7%、インプラント周囲粘膜炎が認められた人は89人で33.3%でした [5]。
ただし、この研究では、1人につき1本のインプラントを選んで集計しています。そのため、9.7%という数字を、口の中にあるすべてのインプラントを分母にした割合として読むことはできません。
また、この研究の対象は、歯周病専門医のもとでメインテナンスを受けている患者さんです。日本でインプラント治療を受けた患者さん全体を代表する数字ではありません [5]。
さらに、9.7%は調査した時点での有病率です。「インプラントを入れてから3年以内に、9.7%の人が新たに周囲炎を発症する」という意味でもありません。
診断基準による有病率の違い
スウェーデンで、治療から9年が経過した588人を調べたDerksらの研究では、検査時に出血または排膿があり、さらに0.5mmを超える骨吸収がある場合をインプラント周囲炎とすると、患者単位の有病率は45%でした [4]。
同じ患者集団でも、出血または排膿があり、骨吸収が2mmを超える症例だけに限ると14.5%でした。この14.5%は、論文の中で「中等度・重度」と定義された症例の割合です [4]。
45%と14.5%は、別の患者集団を調べた数字ではありません。同じ患者さんを調べても、どの状態から病気として数えるのかによって、有病率が大きく変わることを示しています。
また、14.5%は45%の中に含まれる割合であり、後に示された2017年ワールドワークショップの診断基準を適用した数字ではありません [4]。
日本の研究で示された9.7%と、スウェーデンの研究における14.5%や45%も、調査対象や診断基準などの条件が異なるため、単純には比較できません。2025年の研究レビューでも、診断基準や対象となった集団によるばらつきが大きいことが示されており、2017年の基準にそろえた別のレビューでも地域による違いが認められています [2][3]。
インプラント周囲炎の発症時期と骨の変化
後になってインプラント周囲炎が確認された症例について、過去の記録をさかのぼって調べると、インプラントを使い始めて比較的早い時期から、骨の喪失が始まっていた可能性が示されています [7]。
ただし、これは最終的に周囲炎が確認された症例を対象に、その経過を振り返った研究です。すべてのインプラントが、同じ時期に周囲炎を発症するという意味ではありません。
また、インプラント周囲炎では、骨吸収がいつも一定の速度で進むとは限らず、時間の経過とともに速くなる非線形の進行パターンも報告されています [6][7]。ただし、すべての患者さんやすべての部位が、同じ経過をたどるわけではありません。
長期間使用したあとに、新たに周囲炎が確認される場合もあります [8]。そのため、「何年目に発症した人が多かったのか」という話と、「一つの病変で骨の喪失がどのように進んだのか」という話は分けて考える必要があります。早期の骨吸収と長期観察中の発症を扱った研究については、後半で詳しく説明します。
歯周炎とメインテナンスとの関係
過去の歯周炎と現在の病状
過去に歯周炎にかかったことがある場合や、現在も活動性の歯周炎がある場合には、インプラント周囲炎との関連が報告されています [2][6]。
ただし、「以前に歯周炎があった」という病歴と、「現在も歯周炎が活動している」という状態は同じ条件ではありません。研究結果を読む際にも、この二つは分けて考える必要があります。
インプラント周囲粘膜炎があった患者の5年間の経過
Costaらは、観察開始時にすでに周囲粘膜炎があった80人を5年間追跡し、予防的メインテナンスを受けた群と、受けなかった群を比較しました。新たに周囲炎が認められた患者さんの割合は、次のとおりでした [9]。
周囲粘膜炎があった患者における5年間の周囲炎発症割合
| 観察期間中のメインテナンス | 人数 | 5年間の発症割合 |
| 受けた群 | 39人 | 18.0% |
| 受けなかった群 | 41人 | 43.9% |
この研究では、メインテナンスを受けなかった群の方が、インプラント周囲炎を発症した割合が高いという結果でした。
ただし、もともと健康なインプラントがある患者さん全体の発症確率を示した研究ではありません。対象となったのは、観察開始時点ですでに周囲粘膜炎があった患者さんです。
また、観察研究であるため、二つの群の差をすべてメインテナンスの有無だけによる効果と断定することもできません。メインテナンスを受けた群でも周囲炎を発症した患者さんはいるため、「メインテナンスを受けていれば発症しない」と読み替えることもできません [9]。
ご自身の経過を判断するための検査
ご自身のインプラントの状態を考えるときには、研究で示された一般的な割合だけでなく、現在の周囲粘膜と骨の状態を調べる必要があります。
診察では、歯ぐきの溝に細い器具を軽く入れて、出血や膿があるか、以前より溝が深くなっていないかを確認します。さらに、エックス線写真でインプラント周囲の骨の位置を比較します [1]。
インプラントを使い始めたころや、その後の検査記録が残っていれば、現在の骨の位置だけを見るのではなく、これまでにどのような変化が起きたのかを確認できます。
過去の記録がない場合には、溝の深さや骨の位置について別の基準を用いて判断します。骨の位置や溝の深さについて、一つの数字だけを見て周囲炎と診断するわけではありません [1]。
研究結果をご自身に当てはめて考える場合も、歯周炎の既往があるか、現在の周囲粘膜や骨がどのような状態か、インプラントを使い始めてから何年経っているか、メインテナンスを受けているかといった条件を、研究対象となった患者さんの条件と照らし合わせる必要があります [1][2][9]。
研究で示された数字は、ご自身の発症確率や進行の速さをそのまま表しているわけではありません。誰を、どのような条件で調べた数字なのかを確認し、ご自身の検査結果と合わせて経過を考えます。
研究の詳しい条件と診断基準
追跡期間と観察開始時の状態
将来どのくらいの割合で周囲炎が発症するのかを考えるときには、何年間追跡したのかだけでなく、観察を始めた時点で周囲組織が健康だったのか、すでに周囲粘膜炎があったのかを確認する必要があります。また、追跡の途中で観察を終えた人をどのように扱ったかによっても、結果の読み方は変わります。
2025年のAO/AAPのレビューでは、インプラントを使い始めてから5年、10年、20年以内という観察期間に分けて、発症割合が解析されています。
ただし、含まれた研究の間には大きなばらつきがあり、発症の定義や評価する時点がそろっていない研究も含まれていました。そのため、レビューで示された統合値を、すべての患者さんに共通する「20年間の発症確率」として使うことはできません [2]。
後にインプラント周囲炎が確認された症例の骨吸収の開始時期
Derksらは、9年時点の検査で中等度・重度のインプラント周囲炎が確認された62人、105本のインプラントについて、過去のエックス線記録から、骨吸収が始まった時期と進み方を統計モデルで推定しました [7]。
かぶせ物などの上部構造を装着したあと、0.5mmを超える骨吸収が生じていたと推定された割合は、次のとおりです。
後に中等度・重度の周囲炎が確認された症例における推定値
| 装着後の時点 | 罹患インプラント105本のうち | 対象患者62人のうち |
| 2年 | 52% | 70% |
| 3年 | 66% | 81% |
患者単位の割合は、少なくとも1本で該当する骨吸収が推定された人の割合です。この研究の分母は、後にインプラント周囲炎が確認された症例であり、インプラント治療を受けた患者さん全体や、すべてのインプラントではありません [7]。
この研究から読み取れるのは、最終的に周囲炎と診断された症例の多くで、骨吸収が比較的早い時期から始まっていた可能性です。
「すべてのインプラントの半数以上が、2〜3年で周囲炎になる」という意味ではありません。また、0.5mmを超える骨吸収だけで、インプラント周囲炎と診断できるわけでもありません [1][7]。
長期観察で新たにインプラント周囲炎が確認された時期
Pandolfiらの別の研究では、歯周炎の既往があり、支持療法のプログラムに登録されていた475人、1,991本のインプラントについて、使用開始後最大10年間の診療記録を解析しています。
患者単位の累積発症割合は24.4%で、新たに周囲炎が確認される頻度は、7年経過後にピークを示しました [8]。
これは、特定の患者集団で、いつ新しい周囲炎が確認されたかを調べた結果です。一つの病変で骨の破壊が7年後に最も大きくなるという意味ではありません。
また、先ほどの早期骨吸収を調べた研究とは、対象となる患者さんも研究方法も異なります。二つの研究結果をつなぎ合わせて、すべてのインプラントが共通してたどる経過として説明することはできません [7][8]。
過去の記録がある場合とない場合の診断基準
インプラント周囲炎は、骨の位置や歯ぐきの溝の深さについて、一つの数字だけを見て診断する病気ではありません。
2017年ワールドワークショップの臨床用の症例定義では、比較できる過去の検査記録がある場合と、ない場合で診断の考え方を分けています [1]。
過去の記録がある場合には、細い器具で歯ぐきの溝を軽く調べるプロービングで出血や膿が認められること、以前より溝が深くなっていること、初期リモデリングを超えて骨が失われていることを組み合わせて判断します [1]。
一方、過去の記録がない場合には、出血または排膿があり、プロービングの深さが6mm以上であることに加えて、骨の位置がインプラントの骨内部分の最も歯冠側、つまりかぶせ物側の位置から3mm以上先端側にあることを組み合わせて判断する基準が示されています [1]。
この「3mm」は、基準となる位置に対して、現在の骨がどこにあるかを示した数字です。「新たに3mmの骨が失われた」という意味ではありません。
また、過去の記録が残っている患者さんについて、骨が3mm失われるまで診断できないという基準でもありません。プロービングの深さを評価するときには、粘膜の縁が下がる退縮についても考慮します [1]。
なお、多くの人を調べて病気の頻度を把握する疫学調査には、調査のための症例定義も示されています。過去のエックス線記録がない場合には、同じ基準位置から3mm以上先端側にある骨の位置と、プロービング時の出血が、周囲炎の診断と整合するとされています。
臨床で一人の患者さんを診断するときの条件と、研究で病気の頻度を調べるために採用する条件は、常に同じとは限りません [1]。
発症割合と発症率の違い
このページでいう累積発症割合は、一定期間のあいだに新たに周囲炎を発症した人の割合です。
これとは別に、観察した時間を分母にして発症の頻度を示す「発症率」という指標があります。たとえば、1人を1年間観察した時間を1人年として計算する「人年あたりの発症率」があります。
研究の数字を比較するときには、何年間観察したのかだけでなく、患者数を分母にした割合なのか、観察時間を分母にした発症率なのかまで確認する必要があります。
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参考文献・資料
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- Galarraga-Vinueza ME, Pagni S, Finkelman M, Schoenbaum T, Chambrone L. Prevalence, incidence, systemic, behavioral, and patient-related risk factors and indicators for peri-implant diseases: An AO/AAP systematic review and meta-analysis. J Periodontol. 2025;96(6):587-633. doi:10.1002/JPER.24-0154.
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- Costa FO, Takenaka-Martinez S, Cota LOM, Ferreira SD, Silva GLM, Costa JE. Peri-implant disease in subjects with and without preventive maintenance: a 5-year follow-up. J Clin Periodontol. 2012;39(2):173-181. doi:10.1111/j.1600-051X.2011.01819.x.



執筆者
田中良一
表参道歯科アールズクリニック院長
東京医科歯科大学(現 東京科学大学)卒業、山王病院歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)を経て開業。審美修復をはじめ、歯周病やインプラント分野でも国内外で研鑽を積み、知識と技術を培ってきました。歯や歯ぐきの健康、かみ合わせを確かめながら、修復した歯が顔立ちや表情になじみ、ご本人が自分の口元として感じられることを大切にしています。
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