
Written by 田中良一 表参道歯科アールズクリニック院長
一般的に自由診療では、同じ名称の治療に「標準」「上位」などの価格差を設け、使用する材料や診療の手順、診療時間などを変えている場合があります。
当院では、医学的に成立する治療方法が複数あれば、それぞれの違いをご説明して選択肢として提示します。一方で、同じ治療の中に品質のランクを設けることはしていません。どちらも患者さんが選べるように見えますが、その選択が意味するものは異なると考えているからです。
治療方法の選択と品質のランクの違い
一つの症例に対して、複数の治療方法が医学的に成立することはあります。
歯質をできるだけ残すことを優先するのか、見た目の再現性を重視するのか、将来修理が必要になったときの対応のしやすさを考えるのかによって、選択する方法は変わります。それぞれの治療には異なる利点と不利益があり、患者さんが何を大切にしたいのかも判断に関わります。
この場合に提示しているのは、品質の上位と下位ではなく、性質や条件の異なる治療方法です。
一方で、同じ治療について、上位のプランでは必要と考える材料や手順を用い、下位のプランではその一部を省くのであれば、別の問題が生じます。省いても治療として妥当なのであれば、その材料や手順を本当に必要な条件として考えているのか。必要な条件なのであれば、価格によって外してよいのか。治療を提示する歯科医師には、その理由を説明する責任があります。
選択肢を提示する歯科医師の責任
患者さんがご自身で治療を選ぶことは大切です。ただ、歯科医師が専門家としての判断を示さず、材料や手順の違いをすべて患者さんに選んでもらうことが、そのまま自己決定の尊重になるとは考えていません。
患者さんに選択肢を提示する前に、歯科医師は診査と診断を行い、その症例に対してどの治療方法が医学的に成立するのかを判断します。歯科医師が治療方法を選択肢として提示した以上、「患者さんが選んだ」という理由だけで、その治療に対する責任が患者さんへ移るものではありません。
まず診査と診断をもとに、医学的に成立する方法を検討します。そのうえで、それぞれの方法の利点と不利益をご説明し、患者さんのご希望や価値観も伺いながら治療方法を選びます。これが、当院で考えている治療選択の進め方です。
費用に制約がある場合
費用は、治療方法を選ぶうえで現実的で大切な条件です。ただし、費用に制約がある場合でも、同じ治療の品質を下げることだけが対応方法ではありません。
治療する範囲を限定できないか、治療する時期を分けられないか、別の医学的に成立する方法を選べないか、すぐに治療せず経過をみることが可能かなどを、改めて検討します。
別の方法が医学的に成立するのであれば、それは同じ治療の廉価版ではなく、条件や特徴の異なる治療方法です。一方、別の方法では成立しない場合には、必要だと判断した材料や手順を費用のために省いたまま、同じ治療を行うことが妥当なのかを考える必要があります。
当院が同じ治療にランクを設けない理由
当院では、同じ治療について、価格に応じて品質を変えるランクを設けていません。その治療を行うと判断した場合には、必要だと考える診査、診療時間、材料、手順、専門家との連携を、その治療に必要な条件として組み込みます。
これは、すべての患者さんに最も高価な治療を勧めるという意味ではありません。価格が高い方法や、より複雑な方法が、すべての患者さんに適しているわけでもありません。医学的に成立する治療方法が複数あれば、それぞれの違いをご説明したうえで、選択肢として提示します。
治療方法には、複数の選択肢が成り立つことがあります。一方で、同じ治療を行うのであれば、歯科医師が必要だと判断した条件を価格によって外さない。それが、当院が同じ治療に品質のランクを設けない理由です。


執筆者
田中良一
表参道歯科アールズクリニック院長
東京医科歯科大学(現 東京科学大学)卒業、山王病院歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)を経て開業。審美修復をはじめ、歯周病やインプラント分野でも国内外で研鑽を積み、知識と技術を培ってきました。歯や歯ぐきの健康、かみ合わせを確かめながら、修復した歯が顔立ちや表情になじみ、ご本人が自分の口元として感じられることを大切にしています。
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