
Written by 田中良一 表参道歯科アールズクリニック院長
歯を1本失ったとき、固定式の治療方法として主に検討するのが、インプラントとブリッジです。
治療方法を選ぶ際には、「どちらが長く使えるか」も大切な判断材料になります。ただ、それだけでインプラントかブリッジかを決めることはできません。
インプラントとブリッジでは、治療する範囲が異なります。また、将来やり直しが必要になったとき、どこまで治療が広がる可能性があるかも違います。
さらに、同じ1本の欠損でも、中切歯、側切歯、犬歯、小臼歯、大臼歯では条件が同じではありません。前歯では歯肉を含めた見た目が大きく関係し、奥歯ではかみ合わせや支台歯の状態がより重要になります。
この記事では、まずインプラントとブリッジに共通する違いを整理し、そのうえで、失った歯の位置によって何が変わるのかを分けて説明します。
インプラントとブリッジの構造と治療範囲
インプラントでは、歯を失った部分の骨にインプラント体を入れ、その上に人工の歯を装着します。
欠損した部分を独立して治療できるため、両隣の歯が健康であれば、その歯を削る必要はありません。一方で、インプラントには外科処置が必要で、骨の量や形によっては、骨や歯肉を補う処置が必要になることもあります。
通常のブリッジは、失った歯の両隣を支えにして、3本分を一体にした人工の歯を装着する方法です。
ブリッジを支える両隣の歯を「支台歯」と呼びます。支台歯は、かぶせ物を装着できる形に削る必要があり、一度削った天然歯の組織は元には戻りません。
ただし、両隣の歯にもともと大きな詰め物やかぶせ物があり、その歯自体にも治療が必要な場合には、インプラントとブリッジを比較する意味が変わってきます。
隣の歯の状態と治療法の選択
インプラントと通常のブリッジのどちらを検討するかは、欠損部だけでなく、隣の歯の状態によって大きく変わります。
| 隣の歯の状態 | 通常のブリッジ | 単独のインプラント |
| 両隣の歯が健康 | 健康な2本を支台歯として治療する | 中切歯と犬歯を削らずに欠損部を補える |
| 両隣の歯にもかぶせ物が必要 | 治療が必要な歯を支台として利用できる場合がある | 欠損部と隣の歯をそれぞれ独立して治療できる |
| 将来1か所に問題が起きた場合 | 支台歯1本の問題でも、ブリッジ全体の処置が必要になる場合がある | 問題が限られていれば、その部分だけを治療できる場合がある |
両隣の歯が健康だからといって、必ずインプラントを選ぶわけではありません。反対に、すでにかぶせ物が入っているという理由だけで、その歯をブリッジの支えにできるとも限りません。
残っている歯質の量や歯根の状態、神経の治療の状態、歯周組織などを調べ、長期間にわたって支台歯として使えるかを判断します。
長期残存率と研究結果の解釈
インプラントやブリッジについて、「10年残存率」「15年残存率」といった数字を見ることがあります。
ここでいう「残存」とは、一定期間が経過したあとも、その装置を使えているという意味です。途中で修理をしていても「残っている」と判定されることがあるため、残存していることと、一度も問題が起こらずに使えたことは同じではありません。
インプラントについては、さらに注意が必要です。骨の中にあるインプラント本体と、その上に装着するかぶせ物は、それぞれ別に考える必要があるからです。
上顎前歯部の単独インプラント53本を14〜20年間追跡した研究では、インプラント本体の推定残存率は96.1%でしたが、最初に装着したかぶせ物の推定残存率は80.4%でした。追跡期間中には、10個のかぶせ物が交換されています [1]。
つまり、インプラント本体を残したまま、上のかぶせ物だけを作り直すことがあります。インプラント本体が残っているからといって、最初に行った治療がそのまま何十年も続いているとは限りません。
インプラントと3本ブリッジを最長15年間追跡した研究では、前歯部についてブリッジ45装置とインプラントのかぶせ物139個が解析され、インプラントの残存率が統計学的に有意に高いという結果でした。一方、臼歯部では統計学的な差は認められませんでした [2]。
| 部位 | ブリッジの解析対象 | インプラントの被せ物の解析対象 | 残存率の比較 |
| 前歯部 | 45装置 | 139個 | インプラントが統計学的に有意に高い |
| 前歯部 | 45装置 | 139個 | インプラントが統計学的に有意に高い |
前歯部ではインプラントの方が統計学的に高い結果でした。臼歯部では統計学的な差を認めませんでした。
ただし、この研究だけから、「前歯ならインプラントの方がよい」「奥歯なら両者は同じ」と結論づけることはできません。研究では治療方法が無作為に決められていたわけではなく、ブリッジにも一般的な両側支持のものだけでなく、別の形のブリッジが含まれていました。
研究の数字は治療方法を考えるうえで参考になりますが、実際の患者さんの歯や骨の状態とは分けて考える必要があります。
再治療の原因と治療範囲
インプラントにもブリッジにも、長く使っている間に問題が起こる可能性があります。治療方法を考える際には、問題が起こる可能性だけでなく、問題が起きたときにどこまで治療する必要があるかも確認します。
| 問題が起きた部分や状態 | 通常のブリッジ | 単独のインプラント |
| かぶせ物の損傷 | 大きく壊れれば、連結したブリッジ全体を交換することがある | インプラント本体が健全なら、被せ物だけを交換できる場合がある |
| 支えとなる組織の病気 | 支台歯のむし歯や根の病気では、ブリッジを外す必要が生じることがある | インプラント周囲炎では、周囲の歯肉や骨の治療が必要になる |
| 支えそのものを失った場合 | 支台歯を失うと欠損範囲が広がる | インプラントを除去すると、残った骨の状態が次の治療に影響する |
インプラントでは、問題がかぶせ物だけに限られていれば、隣の天然歯に処置を加えずに対応できることがあります。一方、ブリッジは複数の歯がつながっているため、支台歯の1本に問題が起きただけでも、ブリッジ全体の再治療が必要になることがあります。
これは、インプラントの方が破損しにくいという意味ではありません。問題が起きたときに影響する範囲が異なるということです。
前歯部のインプラントで考える歯肉と隣接歯の変化
中切歯、側切歯、犬歯をインプラントで補う場合には、奥歯とは異なる点も考える必要があります。
インプラントは骨と結合すると、天然歯のようには移動しません。一方、その隣にある天然歯は、成人になってからも長い年月の間に少しずつ位置が変わることがあります。
上顎前歯部の単独インプラントを14〜20年間追跡した研究では、隣接する天然歯に位置の変化が認められました [3]。その結果、インプラントのかぶせ物と天然歯との高さや位置関係が、治療直後とは違って見えることがあります。
前歯では、インプラント本体が問題なく残っていることと、治療直後と同じ口元の見え方が保たれていることは、分けて考える必要があります。
中切歯欠損
中切歯は、歯列の中央に左右1本ずつある前歯です。とくに上顎中切歯は口元の中央にあるため、1本だけを補う場合には、反対側の天然中切歯が明確な比較対象になります。
比較されるのは色だけではありません。歯の長さや幅、先端の位置、歯肉の高さ、歯と歯の間にある歯肉なども、左右の違いが目につきやすい部分です。
上顎中切歯を単独インプラントで補った研究では、インプラントを入れた位置によって、かぶせ物の長さや周囲の歯肉の形に違いが生じることが報告されています [8]。
つまり、中切歯では、インプラントが骨の中に入っていればそれで十分というわけではありません。インプラントをどの位置に入れるかが、その上に作る歯の形や、周囲の歯肉の見え方にも関係します。
通常のブリッジでは、欠損した中切歯の隣にある反対側の中切歯と側切歯を支台として使います。この2本が健康なのか、それともすでに補綴治療を必要としているのかによって、ブリッジを選ぶ意味は大きく変わります。
中切歯では、失った1本だけを見るのではなく、反対側の中切歯との関係まで含めて治療方法を考えます。
側切歯欠損
側切歯は、中央にある中切歯と犬歯の間にある前歯です。
とくに上顎側切歯は、笑ったときによく見える位置にあります。また、中切歯と犬歯の間にあるため、歯の大きさや形、歯肉の位置が周囲と合っているかも目につきやすい場所です。
通常の3本ブリッジでは、中切歯と犬歯を支台歯として使います。この2本が健康であれば、側切歯1本を補うために、中切歯と犬歯を削ることになります。
単独インプラントでは、中切歯と犬歯を削らずに補うことができます。ただし、欠損した部分の骨と歯肉が、インプラント治療を行える状態であることが必要です。
側切歯については、生まれつき側切歯がない患者さんを対象とした研究が比較的多くあります。
上顎側切歯が先天的にない36人、54本をインプラントで治療し、5年間追跡した研究では、インプラントとそのかぶせ物はいずれも維持されていました。一方、36人中12人はかぶせ物の交換を希望しており、歯と歯の間の歯肉の状態も評価に関係していました [4]。
この研究からも、インプラントが残っていることと、見た目を含めて治療直後と同じ状態が保たれていることは、別に考える必要があります。
また、生まれつき歯がない場合と、一度生えた歯を後から失った場合では、骨の形も同じではありません [5]。そのため、先天欠如を対象とした研究結果を、抜歯後の側切歯欠損へそのまま当てはめることはできません。
側切歯では、条件によって接着ブリッジを検討できる場合もあります。接着ブリッジは、隣の歯を全面的に削ってかぶせるのではなく、主として歯の裏側に残るエナメル質へ接着し、人工歯を支える方法です。
前歯部の片側1歯支持のジルコニア製接着ブリッジ108装置を平均約7.7年間観察した研究では、脱離した6装置はいずれも再接着されています [6]。
ただし、すべての側切歯欠損に使える方法ではありません。残っているエナメル質やかみ合わせなどの条件を確認して適応を判断します。
犬歯欠損
犬歯は、側切歯と第一小臼歯の間にある歯です。前歯から奥歯へ移る位置にあり、かみ合わせによっては、下あごを横に動かしたときの歯の接触にも大きく関係します。
犬歯を通常のブリッジで補う場合には、側切歯と第一小臼歯を支台として使います。つまり、前歯と奥歯の境目にある犬歯を補うために、その前後にある性質の異なる2本の歯を一体化することになります。
単独インプラントでは、犬歯部だけを独立して補います。
犬歯部のインプラントだけを長期間追跡した研究は、中切歯や側切歯ほど多くありません。側切歯部と犬歯部の単独インプラントを平均約11年間追跡した研究では、見た目や機能について大きな差は認められませんでしたが、歯周組織の一部の評価では犬歯部に不利な所見もみられました [9]。
この研究だけで、犬歯部の治療方法を決めることはできません。
また、犬歯を失ったからといって、横方向の力を必ず犬歯だけで受けるようにするとは限りません。犬歯だけで横方向の接触を受ける場合と、犬歯と奥歯が一緒に接触する場合については、研究でも結果が一方向ではありません [10][11]。
そのため犬歯欠損では、その患者さんの現在のかみ合わせを確認したうえで、治療方法を考えます。
小臼歯欠損
小臼歯は、犬歯の後ろ、大臼歯の手前にある歯で、第一小臼歯と第二小臼歯があります。
小臼歯には食事のたびに力が加わります。また、第一小臼歯は笑ったときに見えることもあるため、機能だけでなく見た目も関係します。
小臼歯の治療では、前後にある歯の状態がとくに重要です。
前後の歯が健康であれば、単独インプラントではその2本を削らずに欠損を補えます。一方、前後の歯がすでにクラウンを必要としている場合には、「クラウン、インプラント、クラウンとして3か所を別々に治療する方法」と、「前後の歯を支えとして3本を一体のブリッジにする方法」を比較することになります。
小臼歯部の単独インプラントについて、30人、63本を5年間追跡した研究では、すべてのインプラントが維持されていました [7]。
ただし、この研究はインプラントとブリッジを比較したものではなく、インプラントのかぶせ物に使用する材料を比較した研究です。そのため、この結果から、小臼歯ではインプラントの方がブリッジより優れていると結論づけることはできません。
小臼歯では、欠損した部分だけでなく、前後の歯をどこまで治療する必要があるか、どのような力が加わっているかも合わせて考えます。
大臼歯欠損
大臼歯は、小臼歯より後ろにある、かむ面の大きな歯です。ここでは第一大臼歯と第二大臼歯を扱い、親知らずである第三大臼歯は別に考えます。
大臼歯では、前歯のような左右の見た目よりも、かむ面の大きさ、上下の歯との接触、骨の状態、前後にどの歯が残っているかが、治療方法を考えるうえで大きく関係します。
第一大臼歯欠損
第一大臼歯は、第二小臼歯と第二大臼歯の間にあります。この2本を支台歯として使える状態であれば、一般的な3本ブリッジを作ることができます。
両隣の歯が健康であれば、第一大臼歯1本を補うために第二小臼歯と第二大臼歯を削ることになります。一方、どちらか、あるいは両方の歯にもクラウン治療が必要であれば、ブリッジを選ぶ意味は変わります。
第一大臼歯部の単独インプラントを追跡した研究では、比較的良好な結果が報告されています [12]。ただし、この研究はインプラントとブリッジを直接比較したものではないため、第一大臼歯ならインプラントの方がよいと結論づける根拠にはなりません。
第二大臼歯欠損
第二大臼歯では、第一大臼歯とは治療方法の比較そのものが変わることがあります。
一般的な3本ブリッジを作るためには、欠損した部分の前後に支台歯が必要です。第二大臼歯の後ろに支台として使える歯がなければ、この記事で比較してきた「両隣の歯を使う通常の3本ブリッジ」は作れません。
そのため、大臼歯をすべて同じ条件で「インプラントかブリッジか」と比較することはできません。
第二大臼歯部の単独インプラント521本を対象とした研究では、1〜5年間の累積残存率は95.1%でした [13]。一方、別の大臼歯部の研究では、失敗したインプラントが第二大臼歯部に集中していたという報告もあります [14]。
この二つの研究では対象となった患者さんや治療条件が異なるため、数字をそのまま比較することはできません。
第二大臼歯では、「何%の確率で何年もつか」という数字だけを見るのではなく、第一大臼歯か第二大臼歯か、前後にどの歯が残っているかによって、そもそも比較できる治療方法が変わることを考える必要があります。
長期管理と再治療を含めた治療計画
治療が終わった時点で問題がないことと、その状態を長期間維持できることは、分けて考える必要があります。
ブリッジでは、人工歯の下や支台歯との境目をご自身で清掃できることが必要です。インプラントでも、かぶせ物の周囲を清掃できることに加えて、定期的な診察で歯肉や骨の変化を確認していく必要があります [15]。
将来の再治療については、最初に選ぶ治療方法だけでなく、次のような点まで考えます。
- 修理するときに、どの部分まで外す必要があるか
- 天然歯やインプラント本体を残したまま治療できるか
- 支台歯やインプラント本体を失った場合、次にどの治療方法が選べるか
- 再治療にはどの程度の通院が必要になるか
- 外科処置を行った場合、どの程度の治癒期間が必要になるか
- 最初の治療だけでなく、将来想定される再治療の範囲と費用
10年後や20年後まで考えて治療方法を選ぶのは、その時期に必ず治療をやり直すと考えているからではありません。できるだけ長く使える条件を整えるとともに、将来問題が起きた場合にも、必要以上に歯や骨、歯肉を失わずに次の治療へ進めるようにするためです。
歯を1本失ったときの治療方法は、「インプラントとブリッジのどちらが長くもつか」という一つの数字だけでは決まりません。
どの歯を失ったのか、隣の歯は健康なのか、骨と歯肉はどのような状態なのか、どのような力が加わっているのか。そして、将来問題が起きたときに何を残せるのか。こうした条件を一つずつ確認したうえで、その方に合う治療方法を考えます。
隣の歯をできるだけ削りたくない、手術が不安などのご希望をお聞かせください。前歯の見た目が気になる方は、歯の長さや歯ぐきとの境目など、気になる部分もお伝えください。診査後に、適した方法、隣の歯への処置や手術の負担、見た目を変えられる範囲をご説明します。
関連ページ
参考文献・資料
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執筆者
田中良一
表参道歯科アールズクリニック院長
東京医科歯科大学(現 東京科学大学)卒業、山王病院歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)を経て開業。審美修復をはじめ、歯周病やインプラント分野でも国内外で研鑽を積み、知識と技術を培ってきました。歯や歯ぐきの健康、かみ合わせを確かめながら、修復した歯が顔立ちや表情になじみ、ご本人が自分の口元として感じられることを大切にしています。
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