
Written by 田中良一 表参道歯科アールズクリニック院長
治療した歯やインプラントを、できるだけ長く使い続けたいというご希望は、修復治療を受ける方に共通する大切な関心だと思います。治療が終わった後は、詰め物や被せ物の状態だけでなく、それを支える歯や歯ぐき、かみ合わせが変化していないかを確かめていく必要があります。
歯科医院での定期的な診察と、ご家庭での毎日の清掃には、それぞれ異なる役割があります。このページでは、何を確認し、その結果によってどのような対応が変わるのかを説明します。
メインテナンスの方針
当院では、初診から修復治療、治療後のメインテナンスまで院長が継続して担当します。以前の治療でどの歯にどのような処置を行ったかを踏まえ、歯や歯ぐき、修復物、かみ合わせの変化を確かめます。診察や処置は拡大視野下で行い、完全貸切の診療体制で必要な時間を確保しています。
修復物の欠けや変色がないことだけを、良好な経過の基準にはしていません。修復物が使えていても、その周囲にむし歯や炎症が生じていることがあります。反対に、小さな着色や表面の変化があっても、直ちに交換が必要とは限りません。現在の状態を確認し、経過観察、清掃方法の調整、部分的な処置、再治療のいずれが必要かを判断します。
こうした管理によって、すべての歯や修復物の寿命を保証できるわけではありません。変化を早い段階で把握し、そのときに選べる対応を検討できる状態を保つことが、治療後の管理の目的です。
天然歯と修復した歯、インプラントで異なる確認事項
天然歯では、むし歯の発生、歯周組織の炎症、摩耗や亀裂などを確認します。歯に詰め物や被せ物が入っている場合には、それらに加えて、歯と修復物の境目、修復物の破損や緩み、隣の歯との接触、清掃のしやすさを評価します。
インプラントでは、被せ物だけでなく、インプラント周囲の粘膜や骨、部品の接合状態も管理対象です。天然歯とインプラントでは周囲組織の構造が異なるため、同じ見方で評価することはできません。歯を支える組織の健康と、被せ物が問題なく機能しているかを分けて確認します [1]。
ダイレクトボンディングの接着面と周囲の歯を確認する理由
コンポジットレジンを直接接着した歯では、材料の表面の着色や艶の変化だけでなく、歯とレジンの境目に段差や隙間が生じていないかを確認します。境目の着色だけで内部のむし歯や接着不良が確定するわけではないため、変色の位置や広がり、歯の状態を併せて判断します。
奥歯では、噛む力を受ける部分の摩耗や欠け、歯に残っている咬頭や辺縁隆線の状態も大切です。修復したレジンが残っていても、周囲の天然歯に亀裂が生じたり、隣の歯との接触が変化したりする場合があります。食べ物が挟まるようになった場合には、接触部の形や歯ぐきの状態を調べます。
小さな欠けでは、状態によって部分的な補修を検討できます。一方、内部のむし歯や歯の亀裂が関係する場合には、補修だけでは対応できないことがあります。欠けた部分の大きさだけで処置を決めず、起きた変化の理由を確かめます [2]。
ダイレクトボンディングの接着条件、奥歯に残る歯質と咬合力、補修と再治療の判断は「奥歯のダイレクトボンディング」で詳しく説明しています。
セラミック修復物と支台歯、歯ぐきの長期管理
セラミックの被せ物では、陶材の欠けや亀裂、摩耗、歯との境目、歯肉の状態、かみ合わせを確認します。被せ物が割れていなくても、支えている天然歯にむし歯ができたり、歯ぐきが下がって境目が目立ったりする可能性があります。修復物の外観と、支台歯の健康は別々に評価する必要があります。
歯では、歯ぐきが下がると被せ物の縁が見えたり、隣の歯との間に黒い隙間が目立ったりすることがあります。見た目の変化が修復物の形によるのか、歯周組織の変化によるのかを区別しなければ、適切な対応を選べません。
奥歯のクラウンやオーバーレイでは、修復物が受ける力に加え、その周囲の歯がどのように力を受けているかも確認します。セラミックを交換すべきかどうかは、使用年数だけでは判断しません。具体的な経過と判断の条件は「セラミックのかぶせ物の寿命」で解説しています。
歯周組織の状態を調べる理由
歯ぐきの色や腫れだけでは、歯を支える組織の状態を十分に評価できません。診察では、歯肉の炎症や出血、歯周ポケットの深さ、清掃の状態などを必要に応じて確認します。以前の検査結果があれば比較し、変化が一時的なものか、進行する傾向があるかを検討します。
歯周病の治療を受けた方は、治療終了後も再発や進行の可能性があるため、歯周組織の状態に応じた継続管理が必要です [3]。歯周組織の状態が変わると、修復物の周囲が清掃しにくくなったり、以前のかみ合わせや歯の位置関係が変化したりすることもあります。
インプラント周囲の炎症と上部構造の確認
インプラントでは、歯ぐきに相当する周囲粘膜と、その下でインプラントを支える骨を確認します。インプラント周囲粘膜炎は主として周囲粘膜の炎症であり、インプラント周囲炎では炎症に加えて支持骨の喪失を伴います。痛みが目立たないこともあるため、出血や腫れ、清掃の状態、必要に応じた画像診査などを組み合わせて評価します [1]。
同時に、上に装着した被せ物の緩みや欠け、部品の緩み、噛んだときの接触にも注意します。周囲組織に炎症がないことと、上部構造に機械的な問題がないことは同じではありません。問題が認められた場合には、清掃状態、修復物の形、部品、かみ合わせなどを分けて確認します。
インプラント周囲炎がどの程度認められるかという研究結果は、診断基準や対象集団で異なります。その数値の意味については「インプラント周囲炎の有病率と発症割合」で詳しく説明しています。
歯ぎしり・食いしばりと修復物への負担
歯ぎしりや食いしばりでは、歯や修復物に加わる力の大きさだけでなく、力がかかる方向や繰り返しも問題になります。奥歯の咬頭や詰め物、セラミックの被せ物に欠けや摩耗が見られる場合には、どこが接触しているか、周囲の歯にも同じような変化がないかを調べます。
必要に応じて就寝時の装置などを検討しますが、装置の使用だけで歯ぎしりそのものがなくなるわけではなく、修復物の破損を完全に防ぐとも限りません。修復物の形、残存歯質、歯周組織の状態などと合わせて、対応を考えます。
ご家庭での歯磨きと歯間清掃
毎日の清掃では、歯の表面だけでなく、歯と歯ぐきの境目、歯と歯の間、修復物の周囲を清潔に保つことが大切です。一般的な基本として、フッ化物配合歯磨剤を用いた一日二回の歯磨きと、一日一回の歯間清掃が勧められています [4]。
歯と歯の間が狭い部分にはデンタルフロス、歯ぐきが下がって隙間が広い部分には適した大きさの歯間ブラシなど、形に応じて清掃用具を選びます。無理に太い歯間ブラシを通すと歯ぐきを傷つけることがあるため、使いやすさだけでなく、歯間の形と清掃状況を確認します。
クラウンの周囲やインプラントの被せ物の下などは、修復物の形によって清掃の方法が変わります。清掃しにくい部分がある場合には、患者さんが実際に使っている用具を確認し、その場所を無理なく清掃できる方法を検討します。電動歯ブラシや補助用具を使う場合も、道具の種類だけで十分な清掃ができるとは限りません。
飲食や生活習慣による影響
むし歯の予防では、清掃に加えて、糖分を含む飲食物を取る頻度にも注意が必要です。歯磨きが十分でも、糖分に触れる回数が多ければ、むし歯の危険性は変わります。口の乾燥や服用している薬剤、生活習慣によって清掃しやすさや口腔内の状態が変化する場合もあります [5]。
治療した部分に問題が起きたときは、修復物の材料だけを理由にせず、歯や歯周組織、日常生活での条件を併せて考えます。
年齢や生活の変化に合わせた管理
年齢を重ねると歯肉の位置や口の中の状態だけでなく、手指の動かしやすさ、生活時間、持病や服薬の状況も変わることがあります。以前は使いやすかった清掃用具が合わなくなる場合には、歯間の形や手の動かしやすさに応じて方法を見直します。
これまでの検査や修復の記録は、以前との変化を判断する材料になります。転居などで通院先を変える場合にも、どの歯にどのような治療を行ったかを整理して伝えることには意味があります。専門的な訪問診療や嚥下障害の診療を当院で提供するという趣旨ではありません。
メインテナンスの間隔と診察時の判断
定期診察の間隔は、以前のむし歯や歯周病の状態、残っている歯と修復物の数、インプラントの有無、清掃状況、生活上の変化によって検討します。すべての方を同じ間隔で診察することが適切とは限りません。
診察で変化が見つかった場合も、その場で直ちに作り直すとは限りません。前回と比べて変化しているか、清掃や調整で対応できるか、歯や周囲組織への処置が必要かを考えます。患者さんには、確認した変化と、経過を見る理由、処置を勧める理由を説明します。
一方、被せ物が外れた、詰め物が欠けた、噛んだときの当たり方が変わった、歯ぐきから出血が続くなどの場合には、次回の定期診察を待たずにご連絡ください。急な症状があるときの対応は、診察による確認を前提にご案内します。
関連する診療・解説
「奥歯のダイレクトボンディング」では、接着条件や残存歯質と咬合力、将来の補修と再治療を説明しています。
「セラミックのかぶせ物の寿命」では、修復物がどのような理由で再治療になるか、長期的な経過を考える際の注意点を扱います。
「インプラント周囲炎の有病率と発症割合」では、研究で報告される割合と診断基準の違いを説明しています。
「初診の流れ」では、新たな治療が必要かどうかを相談する際の進め方を説明しています。
参考文献・資料
- American College of Prosthodontists. Clinical practice guidelines for recall and maintenance of patients with tooth-borne and implant-borne dental restorations. 2016.
- FDI World Dental Federation. Repair of Restorations. 2019.
- European Federation of Periodontology. Treatment of stage I–III periodontitis—The EFP S3 level clinical practice guideline.
- American Dental Association. Home Oral Care.
- American Dental Association. Official ADA Dental Health Recommendations.



執筆者
田中良一
表参道歯科アールズクリニック院長
東京医科歯科大学(現 東京科学大学)卒業、山王病院歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)を経て開業。審美修復をはじめ、歯周病やインプラント分野でも国内外で研鑽を積み、知識と技術を培ってきました。歯や歯ぐきの健康、かみ合わせを確かめながら、修復した歯が顔立ちや表情になじみ、ご本人が自分の口元として感じられることを大切にしています。
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