天然歯の構造と生体模倣修復

Written by 田中良一 表参道歯科アールズクリニック院長

大きく欠けた歯を丈夫な材料で修復するとき、材料そのものが破折しにくいことと、修復した歯を長く使えることは分けて考える必要があります。修復物に問題がなくても、その修復物を支えている歯質が破折することがあるためです。

天然歯は、性質の異なる組織が組み合わさった構造によって、かむ力を受けています。天然歯の構造を手がかりに、残っている歯質と人工材料が一体として力を受けられるように修復を考えることが、生体模倣修復の力学的な側面です。

エナメル質・象牙質と境界部の働き

天然の歯は、全体が同じ性質を持つ硬い塊ではありません。性質の異なる組織が結びついて、一つの歯を構成しています。

歯冠の外側を覆うエナメル質は硬く、その内側にある象牙質を保護しています。一方、象牙質はエナメル質より変形しやすく、亀裂が広がることに抵抗する性質を持っています [1]。

ここでは、「硬さ」「剛性」「破壊靱性」を分けて考える必要があります。硬さは表面のへこみにくさ、剛性は力を受けたときの変形しにくさ、破壊靱性は亀裂が広がることへの抵抗を表します。ある材料が硬いからといって、この三つの性質すべてに優れているとは限りません。

エナメル質と象牙質が接する領域を、エナメル象牙境と呼びます。この境界とその周囲は、エナメル質に生じた亀裂が歯の深部へ進むことを抑える働きに関わっています。

ヒトの歯を使った実験では、亀裂がエナメル象牙境を越えた場合でも、そのすぐ内側の象牙質に、破断せず残った微細な組織が観察されています。その組織が亀裂の両側をつなぎ、亀裂がさらに広がることに抵抗している様子が確認されています [1]。

このように、歯が破折に耐える性質には、エナメル質や象牙質それぞれの材料特性だけでなく、それらがどのように結びついているかという構造も関わっています。

土台の材料と歯根破折

歯冠が大きく失われた歯では、クラウンを支えるための土台が必要になることがあります。根管治療をした歯で、残っている歯質だけでは土台を十分に保持できない場合には、歯根の内部へ「ポスト」と呼ばれる支柱を入れます。

ポストの主な役割は土台を保持することで、ポストを入れれば歯根そのものが強くなるわけではありません [2]。

金属製のポストは一般に象牙質より弾性係数が高く、同じ力を受けたときに変形しにくい材料です。こうした材料特性の違いは、歯根へ力がどのように伝わるかを考えるうえで関係します。ただし、材料の性質だけから、その歯が将来破折すると直接結論することはできません [2][3]。

歯根破折には、残っている歯質の厚みや形、亀裂の有無、かみ合わせなども関係します。クラウンで修復する場合には、土台の周囲に健全な歯質が残り、その歯質をクラウンが帯状に取り囲めることも大切な条件です。この構造によって歯の破折に抵抗しやすくなる働きを、フェルール効果と呼びます。ポストの材料を替えるだけで、残っている歯質の不足を補えるわけではありません [2]。

金属製ポストとグラスファイバー製ポストを比較した15年間の臨床試験では、金属製ポストの群で歯根破折が多く認められました。一方、修復の成功率と生存率については、材料による統計学的に明確な差は認められませんでした [3]。

この結果は、二つの材料が同じだと証明したものでも、材料の違いに意味がないことを示したものでもありません。材料そのものの性質と、実際に修復した歯を維持できるかという臨床結果は、分けて読む必要があります。

生体模倣修復の考え方

天然の歯の構造を修復に生かすときには、失われた部分をどの材料で補うかだけでなく、残っている歯質をどのように支え、人工材料とどのように結びつけるかを考えます。

セラミックやコンポジットレジンを歯質に接着し、歯質と修復物が一体として力を受けるようにすること。必要な部分を覆いながら、支持に使える歯質をできるだけ残すこと。生体模倣修復には、こうした考え方があり、現代の接着修復とも共通する部分があります [2][4]。

奥歯のかみ合わせ面にある山のような部分を、咬頭と呼びます。歯質が大きく失われ、残った咬頭を保護する必要がある場合には、咬頭を覆うオンレイやオーバーレイを検討します。歯の全周を覆うクラウンと比べると、条件によっては側面の歯質を多く残せることがあります [2]。

ただし、どの修復方法が成立するかは、残っている歯質の状態、材料に必要な厚み、接着する面を唾液や出血から隔離できるかといった条件によって変わります。咬頭を覆う必要がある歯では、歯の内側だけに収まるインレイを接着しても、必要な保護が得られない場合があります。

クラウンが適している場合も含め、歯質を残すことだけを目標にするのではなく、残った歯をどのように支えるかまで考えて修復方法を選ぶ必要があります [2]。

また、人工材料をいくつかの層に分けても、天然歯の組織構造そのものが再現されるわけではありません。接着面にできる樹脂の層を、天然歯のエナメル象牙境と同じものとして扱うこともできません。

天然歯の構造から修復の考え方を学ぶことと、人工材料によって天然歯の構造を再現できたと判断することは、分けて考える必要があります [1][4]。

理論・実験と臨床成績の区別

生体模倣修復として提唱されている手技には、象牙質を削った直後に接着処理を行って封鎖する方法や、繊維で補強した材料を使う方法などがあります

ただし、こうした手技をまとめて「優れている」と評価することも、「根拠がない」と評価することもできません。それぞれの手技が何を改善する目的で行われ、どのような条件で検証されているのかを個別に確認する必要があります [4]。

実験室で接着強度が高くなったことと、実際の口腔内で修復物や歯を長く維持できることも、同じ評価ではありません。臨床では、修復物の脱離や破折、むし歯、痛み、再治療など、患者さんの治療結果に直接関係する項目を追って評価する必要があります [4]。

天然歯の構造を手がかりに修復を考えることには意義があります。そのうえで、実際に使用する材料や手順については、それぞれの臨床成績と適用できる条件を確認しながら判断します。

すでに治療した歯と、これから修復する歯

すでに金属製の土台やクラウンが入っている歯を、材料の名前だけを理由にやり直す必要はありません。修復物を取り外す処置にも、歯質を失ったり、歯を傷めたりする可能性があるためです。現在の修復物と歯の状態を確認したうえで、そのまま経過を見るのか、再治療を行うのかを判断します。

一方、これから修復する歯では、どの歯質を残し、どの部分を覆い、どの材料をどのように接着・保持するかを治療前に検討できます。

当院では、残っている歯質を修復後もできるだけ支持に生かすことを考え、接着による部分的な修復が成立するかを検討しています。ただし、部分的な修復を選ぶこと自体を目的にはしていません。必要な部分を保護したうえで、残っている歯質と修復物を含む全体がどのように力を受けるかを考えます。

材料の名称や「生体模倣」という言葉だけで治療方法を決めず、残っている歯の状態と、それぞれの修復方法が成立する条件を確認して判断することが大切だと考えています。

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執筆者

田中良一

表参道歯科アールズクリニック院長

東京医科歯科大学(現 東京科学大学)卒業、山王病院歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)を経て開業。審美修復をはじめ、歯周病やインプラント分野でも国内外で研鑽を積み、知識と技術を培ってきました。歯や歯ぐきの健康、かみ合わせを確かめながら、修復した歯が顔立ちや表情になじみ、ご本人が自分の口元として感じられることを大切にしています。

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