美容歯科と審美歯科は、ほとんど同じ意味で使われていますが、基準の置き場所が異なります。美容は、外にある理想像を口元に映す医療です。審美は、その方の顔立ちや噛み合わせや歯ぐきの中に基準を探し、そこに調和する歯を見極めて回復する医療です。どちらを選ぶかは患者さんの自由です。ただ、どちらの目的であっても、噛み合わせと歯ぐきの健康という基本を省くことはできません。

「審美」という言葉

「審美」の「審」は、審査、審判の審。つまびらかにする、詳しく見て見極める、という字です。審美とは、美を見極めること。美を「作る」でも「足す」でもなく、何が美であるかを見極めるという言葉です。

「美容」は、容(かたち)を美しくすること。手を加えて整える、手と加工の言葉です。

西洋の言葉でも、似た対があります。エステティックの語源は、ギリシャ語の aisthētikos、感じ取る・知覚にかかわるという言葉です。コスメティックの語源は kosmētikos、整える・飾るという言葉です。日本語でも西洋語でも、この二つは最初から、見極める言葉と、飾る言葉として分かれていました。

「審美」という日本語は、明治の時代に生まれた訳語です。森鴎外が aesthetics に「審美学」の語を与え、明治25年に慶應義塾で、明治31年に東京美術学校で、審美学を講じました。それ以前には、西周が「善美学」などの訳を試みています。つまり審美とは、美容の言い換えとして生まれた言葉ではなく、美を考える学問の名として、日本語に入ってきた言葉です。

この区別は、いまも制度の中に残っています。アメリカには、American Academy of Esthetic Dentistry (1975年設立)と American Academy of Cosmetic Dentistry (1984年設立)という、二つの別々の学会があります。日本の学会の名も、「審美歯科学会」ではなく「日本歯科審美学会」です。審美歯科という診療の名の前に、歯科審美学という学問がある、という順序が、名前に表れています。

審美には、定義がある

審美歯科は飾りの言葉ではなく、学問の名前です。日本歯科審美学会は、歯科審美学をこう定義しています。

歯科審美学とは、顎口腔における形態美・色彩美・機能美の調和を図り、人々の幸福に貢献する歯科医療のための教育および学習に関する学問体系である。

形の美しさだけでなく、色の美しさ、そして機能の美しさ。この三つの調和、とあります。さらに学会は、その学びの要綱の第一項に「エステティックとコスメティックの概念」を置いています。審美と美容の区別は、私たちの思いつきではなく、学問がその根幹に据えてきた概念です。

当院が指針とするウィリー・ゲラーも、同じ方向を向いています。彼は、審美を構成する要素として、五つのパラメータを挙げました。健康、生命力、強さ、美しさ、幸福感。白さでも、左右対称でもありません。

二つの源流

この区別は、歴史の中にも実在します。

審美歯科の学問的な源流の一つは、意外に思われるかもしれませんが、総義歯、つまり、すべての歯を失った方の入れ歯の学問にあります。すべてを失った口には、手がかりになる歯が一本もありません。作り手は、その方の顔立ち、性別、個性、年齢から、「この人の歯は、どんな形と色をしていたはずか」を読み取るしかありません。美の基準を、外の理想像ではなく、その人自身の中に探す。20世紀の半ば、この学問から、性別・個性・年齢という要素で歯の形を読み解く方法論が生まれ、のちの審美歯科の考え方の骨格になりました。

一方、同じ二十世紀のハリウッドでは、俳優が撮影のあいだだけ歯に被せる、着脱式の化粧用の歯が生まれています。スクリーンの中で輝くための、演出としての歯。外の理想像を、顔に加える医療です。

その人の中の美を読み取る流れと、外の理想を加える流れ。二つの源流は、いまの審美歯科と美容歯科に、そのまま存在しています。

引き出す医療と、加える医療

審美歯科は、引き出す医療です。美容歯科は、加える医療です。

引き出す医療の基準は、あなたの中にあります。あなたの顔立ち、唇の動き、肌の色、噛み合わせ、歯ぐき。それらを審らかに診て、そこに調和する歯を見極め、回復します。

加える医療の基準は、外にあります。白い歯、整った歯並びという理想像を、口元に映す。それは医療の一つのあり方であり、それ自体が誤りなのではありません。ただ、二つは目的が違います。そして目的が違えば、診療の中身が変わります。

「いかにも治療しました」は、どこから来るのか

不自然な仕上がりは、偶然の失敗ではありません。形、素材、製法、そして噛み合わせと歯ぐきへの配慮。その一つひとつの選択から生まれます。

歯は、噛み合わせの力の中で生きており、歯ぐきの上に立っています。ですから、噛み合わせと歯ぐきの健康への配慮を省いた修復物は、装着した日がいちばん美しく、あとは傷んでいくだけです。これは、美容という目的そのものの罪ではありません。目的が審美であれ美容であれ、この土台を省けば、同じことが起きます。

削る量は、目標の形で決まります。修復は、最終の形からの逆算で立案されるからです。目標の形が、いまのご自身の歯から遠いほど、そこへ届かせるために削る量は増えます。外の理想像を短い期間で、という求めには、その分の代償があることを、先に知っておいていただきたいのです。削った歯は、戻りません。

当院のこと

私たちの診療は、修復歯科です。健やかな噛み合わせと歯ぐきの上に、顔立ちと調和する歯の形と色を回復すること。外から理想像を持ってきて加えるのではなく、あなたの中にある基準を見極めるところから始めます。

「歯を白くしたい」というご希望の方も、いらしてください。当院でも、歯を白くすることは行います。ただ、その白さを、あなたの顔立ちとの調和の中に追求します。

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表参道歯科アールズクリニック院長

田中良一

東京医科歯科大学(現 東京科学大学)歯学部卒
元 山王病院歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)

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