審美歯科と美容歯科の違い

Written by 田中良一 表参道歯科アールズクリニック院長

審美歯科と美容歯科の違いを考えるとき、一つの手がかりになるのが、「何を基準に、その歯を美しいと判断するのか」という点です。希望する色や形を先に定めて、そこへ近づけていくのか。その方の顔立ちや口元との関係も見ながら、色や形を考えていくのか。治療の目標をどこに置くかによって、美しさの捉え方は変わります。

実際には、「審美歯科」と「美容歯科」という名称の使われ方には重なる部分があります。このページでは、医院や治療方法を二つに分類するのではなく、「美容的な目標」と「審美的な目標」という二つの観点から、その違いを考えます。

「審美」と「美容」という言葉

「審美」の「審」には、詳しく調べ、見極めるという意味があります。審美とは、美を見極めることです。

一方、「美容」は、容、すなわち姿や形に手を加えて、美しく整えることを意味します。

英語にも、それぞれ異なる背景を持つ言葉があります。エステティックの語源はギリシャ語の aisthētikos で、感じ取ることや知覚に関わる言葉です。コスメティックの語源は kosmētikos で、整えることや飾ることに関わります。美をどのように感じ取るのかという問いと、外観をどのように整えるのかという働きかけ。語の成り立ちは、二つの考え方を分けて考える手がかりになります。

もちろん、語源だけで現在の歯科診療の内容が決まるわけではありません。実際の診療に結びつけて考えるには、歯科では何を美しさの対象としているのかを見る必要があります。

日本歯科審美学会は、形態美・色彩美・機能美の調和を図り、人々の幸福に貢献することを歯科審美学の目的に据えています。教授要綱では「歯科審美の概念(エステティックとコスメティック)」を学習項目とし、顔貌、心理、加齢なども扱っています。歯の外形や色だけで完結する学問として位置づけているわけではありません。

美しさの基準をどこに置くか

美容的な目標では、実現したい外観が判断の基準になります。好みの白さや歯の形、整った配列などを定め、現在の口元をそこへ近づけていきます。「今の口元を変えたい」「憧れている印象に近づきたい」という希望に応える考え方です。

審美的な目標では、希望する外観に加えて、その色や形が、その方の口元の中でどのように見えるかも判断の対象になります。同じ形の前歯でも、隣の歯の大きさ、唇から見える範囲、歯ぐきの輪郭が違えば、口元全体の印象は変わります。見本として整った歯と、その方の口元の中で違和感なく見える歯が、いつも同じとは限りません。

左右の前歯を同じ形にそろえることを目標にすれば、左右差は修正する対象になります。一方、その左右差が実際の口元でどう見えているのかまで考えると、残した方がよいのか、整えた方がよいのかを個別に検討することになります。

二つの違いは、白い歯を作るかどうか、セラミックを使うかどうかではありません。希望する外観を実現することに加えて、その目標自体を、顔立ちや周囲の歯、ご本人が仕上がりをどう受け止めるかという関係の中で検討するかどうかにあります。

総義歯と映画用ベニアで問われてきたこと

歯の美しさを、その歯を使う人との関係で考えることは、すべての歯を失った方の総義歯を作る診療でも論じられてきました。

1955年、FrushとFisherは、義歯を使う人の性別・個性・年齢を考慮して歯の形や配列を構成する「デントジェニックス」を提示しました。均一に整った義歯を作るだけでは、その人に合った外観になるとは限らないという問題意識です [1]。

ここで受け継ぎたいのは、当時の性別や年齢による分類を、そのまま現在の患者さんに当てはめることではありません。人工歯だけを取り出して美しさを評価するのではなく、その歯を使う人との関係の中で考えるという視点です。

一方、映画の制作現場では、画面上で求められる口元を作るという課題がありました。Charles Pincusは、1928年頃に映画会社のメイク部門から相談を受け、歯の表面に一時的に装着する薄いポーセレンのベニアを製作した経緯を記しています。撮影などのときに装着し、その後は取り外すもので、現在の接着性ベニア修復と同じ治療ではありません。

Pincusは、外観だけでなく、発音を妨げないことや、口の中の異物を意識して演技に支障が出ないことも条件として挙げています [2]。

総義歯では、失った歯をその人の口元に合わせて補うこと。映画用ベニアでは、演出上必要な外観を作ること。出発点は異なりますが、この二つをそのまま現在の審美歯科と美容歯科という二つの系譜に分けることはできません。歴史から読み取れるのは、歯の美しさを考えるときにも、「誰のための歯か」「何のための歯か」という問いがあったということです。

白さと口元との調和

当院が指針としている歯科技工士Willi Gellerは、審美について考える要素として、健康、生命力、強さ、美しさ、幸福感を挙げています。ただし、この五つだけに限定しているわけではなく、審美にはほかにも多くの要素があり得ると述べています。また、天然歯より白い歯であっても、その人と調和していれば美しくなり得ると話しています [3]。

この考え方に立てば、審美とは白さに一律の上限を設けることではありません。同じ白さでも、歯の中での色の変化、光の通り方、表面の質感、歯の形や配列によって、口元での見え方は変わります。白くしたいという希望と、その方の顔立ちや口元になじませたいという目標は、両立を検討できます。

美容的な目標と審美的な判断は、一つの治療の中でも重なります。見た目を変えたいという希望を出発点に、その変化がご本人の顔立ちや口元の中でどのように見えるかを検討することは、希望を否定することではありません。ご本人が望んでいる仕上がりを、より具体的にしていくための過程です。

治療目標と、歯の健康・機能との関係

目指す外観が変われば、治療する歯の範囲や、どの形を残すかも変わります。一方、外観についての好みとは別に、歯や歯周組織の健康、かみ合わせなど、治療として成立するために確認しなければならない条件があります。

歯科審美学が機能を扱うのは、見た目とは別に機能を付け加えるためではありません。歯の形や位置そのものが、かみ合わせや発音、唇との関係に影響するためです。日本歯科審美学会の教授要綱でも、形態と機能の関係を理解することが求められています。写真で整って見える形が、そのまま口の中でも適切に使える形になるとは限りません [4]。

歯を削る量も、目指す外観だけで決まるものではありません。現在の歯の位置や残っている歯質、使用する修復材料などによって変わります。自然に見える仕上がりを希望すれば削る量が少なくなる、印象を大きく変えれば必ず多く削る、と一律に決めることはできません。

希望する変化をどの方法で実現するのか、そのために歯へどのような処置が必要になるのか、別の方法や目標を選んだ場合には何が変わるのか。こうした検討は、美容的な目標であっても、審美的な目標であっても必要です。歯の健康に配慮するかどうかを、二つの違いとして扱うことはできません。

当院が目指す審美修復

当院では、まずご本人がどのような口元を望んでいるのかを伺い、その希望を出発点に治療を考えます。白さや形を変えたいという希望も、以前に治療した歯を周囲になじませたいという希望も、具体的に確認します。

そのうえで、どこを変えるとご希望に近づけるのか、どの部分は残した方が口元全体の中でなじむのかを検討します。現在の状態をそのまま残すことを目標にするわけでも、あらかじめ決めた理想形へすべての歯をそろえるわけでもありません。

このページで考えてきた審美歯科と美容歯科の違いは、「歯を美しくするかどうか」という違いではありません。「何を基準に、その方にとって美しい口元と判断するのか」という違いです。

当院の審美修復では、ご本人の希望を受け取りながら、歯の形や色だけでなく、周囲の歯や歯ぐき、唇、顔立ちとの関係を確認します。そして、治療後の口元をご本人が自分のものとして受け止められるかも、作り手の評価とは分けて確かめます。

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執筆者

田中良一

表参道歯科アールズクリニック院長

東京医科歯科大学(現 東京科学大学)卒業、山王病院歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)を経て開業。審美修復をはじめ、歯周病やインプラント分野でも国内外で研鑽を積み、知識と技術を培ってきました。歯や歯ぐきの健康、かみ合わせを確かめながら、修復した歯が顔立ちや表情になじみ、ご本人が自分の口元として感じられることを大切にしています。

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