
Written by 田中良一 表参道歯科アールズクリニック院長
前歯のセラミックが大きく見える。長さや厚みが気になる。以前より前に出て見える。こうした形を見直すときは、横幅、先端の長さ、表面の膨らみのうち、どの部分が気になる見え方につながっているのかを分けて考えます。
歯の実際の寸法が同じでも、表面の丸みや歯の向きによって、見た目の大きさは変わります。また、形を変えられる範囲は、内側にある歯や土台、セラミックに必要な厚み、かみ合わせによっても異なります。
ここでは、幅、長さ、厚みの違いをどのように見分け、それぞれが調整や作り直しの判断にどう関わるのかを説明します。
歯の幅と表面の丸み
左右の前歯の幅が同じでも、一方だけが幅広く見えることがあります。その見え方に関係するものの一つが、歯の表面の丸みです。
前歯の表面は、平らな一枚の面ではありません。正面を向く面から左右の側面へ、緩やかに回り込んでいます。この面が移り変わる部分を「隅角」と呼びます。
隅角の位置や丸みが変わると、正面から見える面の広さと、光が反射する位置が変わります。そのため、実際の横幅が同じでも、歯が広く見えたり細く見えたりします [1]。
たとえば、隅角が左右の端に寄って正面を向く面が広くなると、歯は幅広く見えます。反対に、側面へ回り込む部分が広くなると、正面から見える面は狭くなります。歯そのものの向きも、この見え方に関係します。
前歯の幅が気になる場合には、実際の横幅を変える必要があるのか、表面の丸みや隅角の位置を調整することで希望に近づけるのかを見極めます。「大きく見える」という感覚を寸法だけで判断すると、実際に変えるべき場所を捉えにくくなることがあります。
前歯の長さと歯ぐき・唇の位置
前歯が長く見える場合には、歯の先端が長いのか、歯ぐきが下がって見える歯の範囲が増えているのかによって、見直す場所が変わります。
歯ぐきの位置に左右差がある場合、歯の先端だけを短くしても、歯ぐき側の違いは残ります。さらに、先端の位置を変えることで、左右の歯の並び方まで変わることがあります。そのため、歯ぐきから先端までの長さと、先端そのものの位置は分けて考えます。
前歯の見え方は、唇の動きによっても変わります。口元の力を抜いているとき、話しているとき、笑ったときでは、唇から見える歯の量が同じではありません。笑顔の写真では気にならなくても、会話をしているときには長く感じることもあります。
どの場面での見え方を変えたいのかによって、先端の位置を考える手がかりも変わります [2]。長さを決める際には、歯ぐきの高さや唇の動きに加えて、発音や下の歯との接触も確認します。見えている歯を何ミリ短くするかだけで、適切な先端の位置を決めることはできません。
前方への厚みと歯・土台の位置
横から見たときに前歯が出っ張って見える場合には、セラミックの表面が膨らんでいるのか、その内側にある歯や土台そのものが前方に位置しているのかを確認します。原因によって、対応できる範囲が異なるためです。
かぶせ物は、残っている歯や土台を覆うように作ります。表面を内側へ寄せたい位置まで土台が張り出していると、セラミックを置くために必要な厚みを確保できないことがあります。外側の形を変えるには、その内側に材料を置ける空間が必要です [3]。
そのような場合には、土台の形を調整できるかも検討します。ただし、どこまでが土台の材料で、どこからがご自身の歯なのかを確認したうえで判断します。外側の形を整えるために、かぶせ物を支える歯へどこまで処置を加えてよいかを考える必要があるためです [3]。
また、かぶせ物の向きを変えても、歯根そのものの位置は変わりません。歯ぐきから出る部分と歯の先端が無理なくつながるか、下の歯との間に必要な空間を確保できるかによっても、かぶせ物だけで変えられる範囲は異なります。
形を調整できる範囲とセラミックの厚み
現在入っているかぶせ物を少し削り、形を小さくできる場合もあります。ただし、削ったあとにも、その材料や構造に必要な厚みを残さなければなりません。セラミックの強さは材料の種類と厚みによって異なるため、薄くしたあとの状態まで考えて判断します [4]。
セラミックの厚みは、色の見え方にも関係します。内側にある歯や土台の色が暗い場合には、その色の影響を抑えながら、表面に必要な色や光の通り方を表現できる厚みが必要です。外側を薄くすることで、希望する見え方を作りにくくなる場合もあります [3]。
表面を削って調整するのか、かぶせ物そのものを作り直すのかは、変えたい量だけでは決まりません。削ったあとに残るセラミックの厚みや内部構造、色の見え方、表面をどのように仕上げられるかまで含めて判断します。材料の実験結果だけをもとに、現在入っているかぶせ物を一律に何ミリ削れると決めることもできません。
作り直す場合には、内側の歯や土台の形、使用する材料の組み合わせから見直すことができます。その場合も、ご希望の外形に近づけることと、かぶせ物を支える歯をできるだけ残すことが両立できるかを検討します。
唇や舌への当たり方と発音・噛み合わせ
前歯が「厚い」と感じる場合には、正面側の膨らみが唇に当たっているのか、裏側が舌に触れているのかを分けて考えます。見た目で気になる場所と、口の中で触れて気になる場所が同じとは限りません。
唇を閉じるときに気になるのか、特定の言葉を話すときに違和感があるのか。どのような動作で気になるかを伺うことが、場所を見極める手がかりになります。
前歯と舌の間にできる空間は、「サ」「ス」などを発音するときに空気が通る経路の一部です。前歯の傾きによって気流や音が変化し得ることは、数値解析でも示されています [5]。ただし、歯の傾きを変えれば必ず発音が改善するという結果ではありません。歯の形と発音を一緒に確認する理由の一つとして捉えます。
話しにくさがある場合には、実際に気になる言葉を発音していただきながら、歯の先端や裏側の形、上下の前歯の位置関係を調べます [2]。
上の前歯の裏側や先端は、下の歯との接触にも関わります。たとえば、前方への出っ張りを減らすために先端を内側へ寄せると、下の前歯との間隔も変わります。そのため、噛み合わせた位置だけでなく、顎を前や横へ動かしたときの接触も確認しながら、形を変えられる範囲を検討します [2]。
仮歯で確認する内容
前歯の形を変えて作り直す場合には、模型上で検討した形を仮歯に反映し、実際の口の中で確認します。
仮歯は、治療中の歯を一時的に覆うだけのものではありません。最終的なセラミックへ進む前に、前歯の位置や形、使い心地を確かめるためにも使います。写真や模型を使って、仮歯で確認した位置を最終的な修復物へ伝える方法も示されています [6]。
最初に幅が気になっていたのであれば、隣の歯と並んだときにどう見えるかを確認します。長さが気になっていたのであれば、唇から見える量を確かめます。厚みについては、横からの見え方だけでなく、唇や舌への当たり方も確認します。
言葉だけでは思い描きにくかった形も、実際に仮歯が口の中に入ると、ご希望を具体的に伝えやすくなることがあります。「もう少し小さく」という表現から、「この先端を少し短くしたい」「横から見た膨らみをもう少し控えたい」と、場所を示しながら相談できるようになります。
その際には、歯科医師が形を整っていると判断することと、ご本人がその見え方をどう感じるかを分けて確認します。見た目だけでなく、会話や食事のときに気になることがないかも確かめます [2][6]。
最終的なセラミックへの反映
仮歯で調整した内容は、写真や模型などを使って歯科技工士と共有し、最終的なセラミックの製作へ引き継ぎます [6]。
ただし、仮歯とセラミックでは、材料の色や光の反射の仕方が異なります。仮歯で形を確認できたからといって、完成したセラミックの見え方まですべて同じになるわけではありません。そのため、最終的なかぶせ物でも、最初に気になっていた部分へ戻って確認します [3][6]。
前歯の形や大きさについてご相談いただく際に、患者さんご自身で原因まで説明していただく必要はありません。「ここが気になる」「この角度から見ると大きく感じる」とお話しいただければ、その違和感が幅、長さ、丸み、位置、厚みのどこに関係しているのかを調べるのは歯科医師の役割です。
そのうえで、どこをどの程度変えられるのか、その変更にはどのような処置が必要になるのかをご説明します。言葉で伺ったご希望を実際の形にし、ご本人にも確認していただきながら、最終的なセラミックへ反映していきます。
参考文献・資料
- Wen C, Ye H, Chen H, Zhou Y, Huang M, Sun Y. : Biometry of width between labial transitional line angles in anterior teeth: an observational study. J Adv Prosthodont. 2022;14(1):1–11.
- Spear FS. : Too much tooth, not enough tooth: making decisions about anterior tooth position. J Am Dent Assoc. 2010;141(1):93–96.
- Cardoso JA, Almeida PJ, Fischer A, Phaxay SL. : Clinical decisions for anterior restorations: the concept of restorative volume.. J Esthet Restor Dent. 2012;24(6):367–383.
- Nordahl N, Vult von Steyern P, Larsson C. : Fracture strength of ceramic monolithic crown systems of different thickness. J Oral Sci. 2015;57(3):255–261.
- Lu H, Yoshinaga T, Li C, Nozaki K, Iida A, Tsubokura M. : Numerical investigation of effects of incisor angle on production of sibilant /s/.Sci Rep. 2021;11:16720.
- Blatter VL. : Using photography to determine maxillary incisal edge position. Inside Dentistry/CDEWorld.



執筆者
田中良一
表参道歯科アールズクリニック院長
東京医科歯科大学(現 東京科学大学)卒業、山王病院歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)を経て開業。審美修復をはじめ、歯周病やインプラント分野でも国内外で研鑽を積み、知識と技術を培ってきました。歯や歯ぐきの健康、かみ合わせを確かめながら、修復した歯が顔立ちや表情になじみ、ご本人が自分の口元として感じられることを大切にしています。
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