歯ぐきの見え方

Written by 田中良一
表参道歯科アールズクリニック院長

歯ぐきの色が黒く見える、以前より歯が長く見える、歯と歯の間に黒い隙間ができた、笑ったときに歯ぐきが大きく見える。いずれも見た目に関するご相談ですが、原因はそれぞれ異なります。歯肉の変色には、審美的な問題として処置を考える前に、病気の有無を確かめる必要がある場合もあります。

歯や歯ぐきの見た目を整える治療の診療方針

まず、どの部分を、どのように変えたいかを伺います。診察では、歯肉そのものの色や位置、歯の形、すでに入っている修復物、かみ合わせ、唇の動きなどを区別して確認します。その結果をもとに、当院の修復治療で対応できる範囲と、専門医療機関での診査や処置が必要な範囲を説明します。

歯肉のメラニン色素沈着を取り除く審美的な処置は、当院では行っていません。メラニン色素の除去をご希望の場合は、その処置に対応する医療機関へご相談ください。

歯ぐきの見え方については、修復治療で変えられる部分と、歯ぐき自体への処置が必要な部分を分けてご説明します。

歯肉が黒く見える原因

歯肉の色には個人差があり、もともとのメラニン色素の量によって褐色や黒褐色に見える場合があります。一方、一部分だけが青黒い場合には、以前の歯科治療で金属の微粒子が歯肉内に入り込んだ「メタルタトゥー(アマルガムタトゥー)」の可能性もあります。炎症、薬剤、全身疾患などが色調に関係する場合もあるため、見た目だけで原因を決めることはできません [1]。

歯肉が暗く見えても、歯肉そのものに色素が沈着しているとは限りません。被せ物と歯肉の境目に段差がある、歯肉が下がって歯根や被せ物の縁が見えている、被せ物の内側にある歯の色が影響しているなど、修復物と周囲組織との関係によって暗く見えることがあります。歯肉内の色素沈着と、修復物の境目の問題は、治療する対象が異なります。

歯肉の変色で口腔外科などの診査が必要な場合

以前はなかった色素斑が現れた、範囲が広がる、色や形が変わってきた、出血や潰瘍を伴うといった場合は、審美的な処置を考える前に診査が必要です。色素斑の現れた時期と変化、境界、表面の状態、周囲の粘膜、既往歴や服薬内容、以前の歯科治療との位置関係が判断材料になります [1][2]。

歯肉に発生する癌の多くは扁平上皮癌で、黒い斑点よりも、治りにくい潰瘍、赤色・白色の病変、しこり、出血などとして現れることがあります。一方、口腔悪性黒色腫は黒褐色の色素斑や腫瘤として現れることがあり、とくに上顎歯肉や硬口蓋にも発生します。色素が目立たない場合もあり、痛みの有無だけでは判断できません [1][3]。

色素斑を見ただけで良性と断定することはできません。悪性病変を疑う所見や原因が明らかでない変化がある場合は、口腔外科などへの紹介を検討します。確定診断には、専門医による病理組織検査が必要になる場合があります。変化が続く病変は、着色を取る処置や修復物の交換で経過をみるのではなく、診断を優先します [2]。

新しくできた色素斑や、色・大きさの変化、出血、治りにくい傷がある場合は、痛みがなくても早めに歯科医院や口腔外科を受診してください [1][2]。

歯肉の着色に対する処置と修復治療の役割

生理的なメラニン色素沈着は、病気ではなく、必ずしも処置を必要としません。審美的な理由で歯肉表層の色を変える方法はありますが、当院ではその除去処置を行いません。金属由来の色素斑についても、金属製の被せ物を交換すれば歯肉の着色まで消えるというものではありません [1]。

以前の被せ物の形や縁、支台となる歯の色などに原因がある場合は、現在の修復物と歯の状態を調べ、再修復によって変えられる範囲を検討します。歯肉自体に病変が疑われる場合は、歯の修復より先に原因を確認します。

歯ぐきが下がって歯が長く見える場合

歯肉退縮は、歯ぐきの縁が歯根の方向へ移動し、以前は覆われていた歯の根元が露出する状態です。歯が長く見えるほか、根元がしみる、歯と歯の境目が目立つ、清掃しにくいと感じる場合もあります。歯周組織の炎症や歯を支える骨の状態、歯の位置、歯肉の厚み、清掃時の刺激などを確認する必要があります [4]。

露出した歯根の色や形をコンポジットレジンで整えることと、歯肉そのものの位置を変えることは別の処置です。修復で歯の表面の形や色を変えられても、失われた歯肉の高さを戻せるとは限りません。歯肉を移植して露出した歯根を覆う治療もありますが、どの程度の被覆が期待できるかは、歯と歯の間の組織や骨の状態によって変わります [4]。

すでに入っている被せ物と歯肉退縮が関係している場合は、被せ物の縁が見えているだけなのか、周囲の歯肉に炎症や清掃上の問題があるのかを分けて調べます。被せ物をやり直す場合にも、歯肉の状態が今後変化する可能性を踏まえて、見た目と清掃のしやすさを検討します。

歯と歯の間にできる黒い隙間(ブラックトライアングル)

歯と歯の間は、通常「歯間乳頭」と呼ばれる三角形の歯肉で満たされています。この歯肉が歯と歯の接する部分まで届かないと、黒い三角形の隙間が見えます。歯間乳頭を支える骨の高さが変わった場合だけでなく、歯の形が細長い場合や、歯と歯の接触する位置が先端寄りにある場合も、隙間が目立ちやすくなります [5]。

Tarnowらの研究では、天然歯の接触部と歯槽骨頂の距離が歯間乳頭の存在と関係していました。ただし、その研究結果を「何ミリなら必ず埋まる」という個別症例の保証に用いることはできません。歯肉の高さだけではなく、歯の形や接触部の位置を一緒に考える理由を示す資料です [5]。

コンポジットレジンやセラミックで接触部の位置や歯の輪郭を変えることで、黒い隙間が目立ちにくくなる場合があります。一方、隙間を埋めるために歯を大きくすると、前歯が幅広く見えたり、歯間部の清掃がしにくくなったりすることがあります。骨や歯肉が大きく失われている場合は、修復物の形だけで対応できる範囲に限界があります。

笑ったときに歯ぐきが大きく見える場合

笑ったときに見える歯肉の量は、歯冠の長さ、歯肉の縁の位置、上唇の長さと動き、前歯の位置、上顎骨の形などに左右されます。前歯が短く見える場合にも、本来の歯冠が歯肉に覆われている状態と、歯そのものの長さや摩耗による状態は区別する必要があります [6]。

歯肉が歯冠を覆う位置にある場合には、歯周組織の状態を確認したうえで歯冠長延長術などが検討されることがあります。一方、笑った際の上唇の移動量や骨格との関係が主な原因であれば、歯肉の形だけを変えても希望する見え方には近づけません。原因に応じて治療を選ぶ必要があります [6]。

前歯の被せ物が短く見える、左右の長さが揃っていないといった場合は、修復物の形で調整できる部分もあります。ただし歯肉の縁を無理に変更すると、清掃や歯周組織の健康に影響する可能性があります。必要な場合には専門領域での評価を含め、歯と歯肉、唇との関係から治療の範囲を考えます。

初診でのご相談

ご相談では、気になる部分と、いつから変化したか、どのような見た目を希望するかをお聞かせください。

  • 歯ぐきが下がって歯が長く見える方:気になる歯と、しみる・磨きにくいなどの症状があるかをお伝えください。
  • 歯と歯の間の黒い隙間が気になる方:隙間の場所、矯正や歯周病の治療前後での変化、食べ物の詰まりなどをお伝えください。
  • 歯ぐきの露出が気になる方:笑ったときや会話中など、どの場面の、どの見え方を変えたいかをお伝えください。

以前の差し歯の治療や矯正を受けた時期、服用中のお薬も、分かる範囲でお知らせください。診査後に、修復治療で対応できる範囲と、専門的な診査・処置が必要な範囲、治療の負担と限界をご説明します。具体的な治療方法や費用は、診査の結果を踏まえてお伝えします。

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執筆者

田中良一

表参道歯科アールズクリニック院長

東京医科歯科大学(現 東京科学大学)卒業、山王病院歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)を経て開業。審美修復をはじめ、歯周病やインプラント分野でも国内外で研鑽を積み、知識と技術を培ってきました。歯や歯ぐきの健康、かみ合わせを確かめながら、修復した歯が顔立ちや表情になじみ、ご本人が自分の口元として感じられることを大切にしています。

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