
Written by 田中良一 表参道歯科アールズクリニック院長
セラミックの色や形を変える場合でも、内側にある土台まで必ず交換するわけではありません。歯や土台の状態によっては、現在の土台を残したまま、かぶせ物だけを作り直せることがあります。
ただし、土台が外れずについているという理由だけで、残せるとは判断できません。土台を支えている歯の状態、根の治療をやり直す必要があるか、新しいかぶせ物でどのような色や形を目指すのかを確認し、土台を残すか交換するかを決めます。
かぶせ物・土台・歯根の構造と役割
歯が大きく失われている場合には、失われた部分を材料で補い、かぶせ物を支えられる形を作ります。この部分が土台で、専門的には「コア」と呼びます。
さらに土台を保持する必要がある場合には、根管治療を受けた歯の根の中に「ポスト」と呼ばれる支柱を設けます。金属製の土台とポストを一体で作る方法もあれば、ファイバーポストと樹脂を組み合わせる方法もあります。土台が入っている歯のすべてに、根の奥まで伸びるポストが使われているわけではありません [1]。
そのため、「土台を交換する」といっても、歯の上部にある材料だけを取り除くのか、根の中に入っているポストまで外すのかによって、処置の内容は異なります。
ポストは主に土台を保持するために使うもので、ポストを入れることで歯根そのものが強くなるわけではありません。土台やポストの材料だけでなく、その周囲にご自身の歯がどれだけ残っているかも、新しいかぶせ物を支えるうえで大切な条件になります [1]。
今の土台を残せるかどうかの確認
まず確認するのは、土台がしっかり固定されているか、その土台を支える歯に問題がないかという点です。土台が緩んでいる、周囲にむし歯がある、歯にひびが疑われるといった場合には、かぶせ物だけを新しくしてよいかを改めて検討します。
土台が動いている場合も、単に固定が緩んでいるのか、歯の破折が関係しているのかによって対応は変わります。そのため、土台の状態と、その下にある歯の状態を分けて確認します。
次に、新しいかぶせ物との関係を考えます。希望する形を作るために土台の位置や高さが適切か、セラミックに必要な厚みを確保できるか、歯との境目を適切に作れるかを確認します。
前歯の出っ張りを減らしたい場合、内側の土台が前方へ張り出していると、その土台を残したまま外側の形を内側へ寄せられる範囲には限りがあります。一方、現在の土台で希望する形を作ることができ、歯の状態や根の治療にも問題がなければ、その土台を残して使うことを検討できます。
このとき、土台そのものの形と、ご自身の歯がどのように残っているかは分けて確認します。土台を大きく作り直しても、すでに失われた歯の構造が元に戻るわけではありません。土台の周囲に残っている健全な歯の量や形が、新しいかぶせ物を支える条件になります [1]。
土台を残せる条件がそろっていれば、取り外す処置を行わずに新しいかぶせ物の治療へ進めます。ただ、処置を少なくすることだけを優先するのではなく、現在の土台を残した状態で、ご希望の治療が成立するかまで確認して判断します。
根管治療をやり直す場合の土台の扱い
かぶせ物の色や形を変えることと、根の治療をやり直すことは別の判断です。見た目を変えたいという理由だけで、根管治療まで必要になるわけではありません。
一方、過去に根管治療を受けた歯でも、根管内に感染が残っている場合や、新たなむし歯、かぶせ物の緩みなどを通じて細菌が入り込んだ場合には、再治療が必要になることがあります [2]。
根管をもう一度清掃するには、治療器具が根管まで届く通路を確保しなければなりません。土台やポストがその通路を塞いでいる場合には、それらを取り外してから根管治療を行います。米国歯内療法学会も、再根管治療では根管へ到達するために、かぶせ物や土台、ポストの取り外しが必要になる場合が多いと説明しています [2]。
この場合に土台を外す目的は、根管の中にある問題を治療することです。どの根管に治療が必要なのかを確認し、どの部分まで取り外す必要があるかを検討します。
なお、根管を通じた再治療が難しい場合には、歯根の先端側から行う外科的な治療が選択肢になることもあります。ただし、すべての歯に適した方法ではないため、歯の状態に応じて検討します [2]。
土台の色と新しいセラミックの見え方
前歯のセラミックをやり直すときには、土台の色も確認します。光を通すセラミックでは、その下にある歯や土台の色が、完成した歯の見え方に影響することがあるためです。
二ケイ酸リチウムのセラミックを、色の異なる樹脂の下地に重ねた実験では、下地の色、セラミックの厚み、光の透過性によって、最終的に見える色が変わることが示されています [3]。
ただし、この研究は、セラミックの色の見え方に影響する条件を調べたもので、金属の土台を残した治療と、交換した治療の結果を比較した研究ではありません。そのため、下地の色が仕上がりに影響するという結果から、すべての金属製の土台を交換すべきだと結論することはできません [3]。
暗い色の土台が入っている場合には、その色の影響を抑えながら、隣の歯に合う明るさや光の通り方を表現できるかを考えます。現在の土台を残したまま、セラミックの種類や厚みを調整して対応できる場合もあれば、土台の色や形を変えることで、希望する仕上がりに近づけやすくなる場合もあります。
白い土台へ替えることも、色を整える方法の一つです。ただし、土台を白くしただけで隣の天然歯と同じように見えるとは限りません。その上にどのようなセラミックを、どの程度の厚みで使うのかまで合わせて考えます。
土台を交換するかどうかは、希望する色を現在の土台のまま表現できるか、そして土台を取り外すことで歯にどの程度の負担がかかるかを合わせて判断します。
土台を取り外す際の歯への負担
土台やポストを取り外す際には、歯の一部を削ることや、歯根を傷める可能性があります。ただし、どの土台やポストでも同じ程度の負担がかかるわけではありません。ポストの形や長さ、固定に使われている材料、周囲の歯根の状態によって、取り外す方法や難しさは異なります [4][5]。
専門診療施設の診療記録を調べた研究では、処置前に歯根破折を疑う症状や所見がなかった1,600歯のうち、ポストを取り外す際に歯根が破折したのは1歯でした
[4]。ただし、これは対象となった歯や処置の条件が限られた研究の結果であり、個々の歯で起こる危険性をそのまま示す数字ではありません。
ファイバーポストについても、取り外すときの歯への負担を考える必要があります。抜去歯を使った実験では、ファイバーポストを除去する際に、歯根を構成する象牙質が失われることが確認されています [5]。
そのため、土台やポストを外すことで何を治療・改善できるのかと、取り外すことで生じる歯への負担を比べて判断します。根管治療を行うために必要な取り外しと、問題なく使えている土台を材質だけ変えるために取り外すことでは、処置の意味が異なります。
かぶせ物を外したあとに分かること
治療を始める前に診察や画像検査で状態を調べますが、かぶせ物に覆われている部分を、治療前にすべて直接確認できるわけではありません。
土台を残す予定で治療を始めても、かぶせ物を外したあとに土台の緩みや周囲の歯の問題が分かれば、予定していた処置を変更することがあります。また、かぶせ物を外す際に、土台やポストが一緒に外れる場合があることも報告されています [4]。
そのため、治療前には、現在の土台を残せると考えている理由とともに、どのような状態が見つかった場合に処置を変更するのかもご説明します。治療前に分かることと、かぶせ物を外して初めて判断できることを分けておく必要があります。
土台は、古いからという理由だけで交換するものではありません。現在の土台をそのまま使えるのか、外さなければ治療できない問題があるのか、希望する色や形にどのように影響するのかを確認し、取り外す際の歯への負担も含めて判断します。
土台の交換が不安な方は、そのことを診察でお伝えください。診査後の説明では、今の土台を残せるか、交換が必要なら何のために外すのか、取り外す際に歯へどのような負担がかかるかをご確認ください。かぶせ物を外してから判断が変わる可能性についてもご説明します。
参考文献・資料
- European Society of Endodontology. Mannocci F, Bhuva B, Roig M, Zarow M, Bitter K. European Society of Endodontology position statement: The restoration of root filled teeth.
- American Association of Endodontists. Endodontic Retreatment Explained.
- Saláta J, et al. Quantitative examination of factors influencing the colour reproduction ability of lithium disilicate glass-ceramics.
- Abbott PV. Incidence of root fractures and methods used for post removal.
- Krug R, et al. Removal of fiber posts using conventional versus guided endodontics: a comparative study of dentin loss and complications.



執筆者
田中良一
表参道歯科アールズクリニック院長
東京医科歯科大学(現 東京科学大学)卒業、山王病院歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)を経て開業。審美修復をはじめ、歯周病やインプラント分野でも国内外で研鑽を積み、知識と技術を培ってきました。歯や歯ぐきの健康、かみ合わせを確かめながら、修復した歯が顔立ちや表情になじみ、ご本人が自分の口元として感じられることを大切にしています。
執筆者経歴ついてはこちら