根管治療の判断と再治療の進め方

表参道歯科アールズクリニックが入居するビル入り口の花

Written by 田中良一 表参道歯科アールズクリニック院長

歯の神経をできるだけ残したい、根管治療を受けているのになかなか終わらない、以前治療した歯の根に再び問題があると言われた。こうしたご相談では、痛みの有無だけで治療方法を決めることはできません。歯の内部にある歯髄と、根の先の周囲組織で何が起きているかを確かめ、さらに治療後にその歯を修復して使えるかまで考える必要があります。

歯髄と根の先に起こる変化

歯の中心には、血管や神経を含む歯髄があります。歯髄は象牙質に囲まれた歯の内部から根の先まで続き、神経や血管は根の先の小さな開口部を通って出入りしています。むし歯が深くなると、細菌やその産生物によって歯髄に炎症が生じることがあります。冷たいものがしみる、何もしていなくても痛むなど、症状は一様ではありません。

感染などによって歯髄の生活反応が失われ、根管内に細菌が増えると、根の先の周囲組織にも炎症が及ぶことがあります。これを根尖性歯周炎と呼びます。画像で根の先の骨が黒く見える場合がありますが、画像だけで炎症の活動性や歯の保存の可否を断定することはできません。診察所見や経過と合わせて判断します[1]。

歯の神経を残すか根管治療を行うかの判断

深いむし歯があることと、歯髄をすべて取り除く必要があることは同じではありません。冷温刺激に対する反応、痛みが続く時間や起こり方、歯をたたいたときの反応、画像所見、う蝕の深さなどを合わせて、歯髄の状態を推定します。検査には限界があり、実際にむし歯を除去した際の状態を見て判断が変わることもあります[1、2]。

歯髄の生活機能を保つ処置には、歯髄を露出させないようう蝕を除去する方法、露出した歯髄を保護する覆髄、炎症のある部分の歯髄を一部または全部除去して根の歯髄を残す断髄などがあります。適応は炎症の程度、出血などの所見、感染を抑えられる条件、その後の封鎖と修復の見通しによって変わります。近年は従来なら根管治療を検討した成熟永久歯でも生活歯髄療法が選択肢になる場合がありますが、すべての歯で保存できるという意味ではありません[1、2]。

反対に、歯髄が壊死して根管内に感染が広がっている場合などは、根管内を清掃・消毒する根管治療を検討します。歯髄を残すこと自体を目的にして、感染や症状の変化を見逃さないことも必要です。処置後は症状と歯髄・根尖周囲組織の経過を確認します。

根管治療の目的と治療が長引く場合の評価

根管治療は、根管内の感染源を減らすために、内部の形に応じて清掃・消毒し、必要な封鎖を行う処置です。根管は単純な一本の管ではなく、曲がりや枝分かれ、細かな交通路などがあり、器具や洗浄液が届きにくい領域もあります。処置回数だけで適切に進んでいるかを判定できないのは、このような解剖学的な条件や治療開始時の感染の状態が異なるためです[1、3]。

治療が長引いている場合には、これまでどのような処置を受けたか、痛みや腫れはいつからどう変化したか、根の先の状態はどうかを確認します。根管の形、以前の治療で用いた材料、歯の亀裂、被せ物の適合やむし歯なども検討対象です。痛みの原因が根管内の感染とは限らないため、症状だけを根拠に繰り返し根管を処置することは避ける必要があります。

当院では、他院で治療を受けた歯も通常の初診として診察し、専門医への紹介を含めて今後の進め方を検討します。過去のエックス線画像や治療記録がお手元にあれば参考になります。

以前に根管治療を受けた歯に再び問題が起こる理由

根管治療を終えた歯でも、以前の感染が十分に改善していない場合や、しばらく経って新たな感染が起こる場合があります。根管が狭い、強く曲がっている、見つけにくい根管があるといった条件では、初回治療で処置できない部分が残ることがあります[3]。

また、被せ物や詰め物の境目に新たなむし歯ができたり、修復物が外れたり亀裂が生じたりすると、唾液中の細菌が内部へ入り込むことがあります。根管内の処置を終えた後に、歯の上部をどのように封鎖して使ってきたかも、再治療を考える際の重要な情報です[3]。

以前の治療が不適切だったと直ちに断定することはできません。初回治療時の病態、歯の形、当時の記録、その後の変化を区別して検討します。

根管治療のやり直しで生じる負担と限界

再治療では、根管内に以前詰めた材料を取り除き、必要に応じて未処置の根管や感染が疑われる部分を調べます。器具を根管へ届かせるため、被せ物、土台、根の中の支柱を外す必要が生じる場合もあります。こうした処置には、残っている歯をさらに削る負担や、歯根に亀裂・穿孔が生じる危険が伴います[3]。

根管の再治療が技術的にできることと、その後も歯を長く使えることは別に考えなければなりません。亀裂がどこまで及んでいるか、歯の根元に修復物を支える歯質が残っているか、歯周組織とかみ合わせがどうなっているかによって、最終修復の見通しが変わります。根の治療だけ成功しても、被せ物を安定して装着できない場合があります。

通常の再治療が難しい場合には、専門医による外科的歯内療法などを検討することもあります。ただし、すべての歯を保存できるわけではなく、方法の選択には歯根や周囲組織の状態の評価が必要です[3]。

根管治療中の防湿と拡大視野

根管内を清掃する際に唾液が入り込むと、新たな細菌の混入につながります。ラバーダムというシートで治療する歯を周囲から隔てるのは、この汚染を減らすためです。薬液や小さな器具が口の中へ入り込むのを防ぐ意味もあります。根管の入口や細かな構造の確認には、拡大鏡や顕微鏡などによる拡大視野が役立ちます[4]。

ただし、ラバーダムや拡大器具を使用するだけで治療結果が決まるわけではありません。根管の構造に応じた処置、洗浄と封鎖、最終修復までの一連の条件を考える必要があります。

根管治療とその後の修復を一つの計画で考える理由

根管治療後の歯は、むし歯や以前の処置で歯質を失っていることがあります。特に奥歯では、噛む力を受ける部分がどのように残っているかが、修復方法を決める条件になります。根管充填の後には、再び内部へ細菌が入り込まないよう歯の上部を封鎖し、歯の状態に応じてクラウンやオーバーレイなどで修復する必要があります[3、5]。

歯の中に支柱を入れることは、失われた歯質を元に戻すことではありません。支柱の必要性は残っている歯の形や最終的な被せ物との関係で検討します。以前の土台を取り外すかどうかも、再治療の必要性と除去時の歯根への負担を合わせて判断します。

根管治療を専門医が担当する場合にも、最終的な修復方法を先に見通し、必要な情報を共有することが大切です。当院が担当する修復・補綴治療と、紹介先の処置の順序について、診察後にご説明します。

初診での相談と治療の見通し

初診では、歯を残したいというご希望、これまでの治療内容、いつから何が気になっているかを伺います。必要な診査を行い、歯髄を残す処置の適応、根管治療や再治療の必要性、専門医への紹介、その後の修復方法を順に検討します。歯への負担、治療の限界、期間・費用については診断後に説明します。

顔の腫れが広がる、発熱を伴う、飲み込みにくいなどの症状がある場合は、予約日を待たず速やかに歯科・医療機関に相談してください。息苦しさなどがある場合には緊急の医療対応が必要です。

関連する診療・解説

治療した歯をやり直したい (/retreatment-consultation/)

セラミックのやり直しと土台の交換 (/retreatment-core/)

セラミック・差し歯のやり直し (/retreatment/)

接着歯学とMI修復歯科 (/minimal-intervention/)

治療の進め方 (/procedure/)

初診の流れ (/firstvisit/)

関連ページ

執筆者

田中良一

表参道歯科アールズクリニック院長

東京医科歯科大学(現 東京科学大学)卒業、山王病院歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)を経て開業。審美修復をはじめ、歯周病やインプラント分野でも国内外で研鑽を積み、知識と技術を培ってきました。歯や歯ぐきの健康、かみ合わせを確かめながら、修復した歯が顔立ちや表情になじみ、ご本人が自分の口元として感じられることを大切にしています。

執筆者経歴ついてはこちら