
Written by 田中良一 表参道歯科アールズクリニック院長
「差し歯の色が気になる」とご相談いただくことがあります。ここでは、一般に「差し歯」と呼ばれることもある、歯に装着したかぶせ物(セラミック)の色について説明します。
セラミック・差し歯だけが周囲より白く見えたり、隣の歯より灰色に見えたりすることがあります。 室内では気にならなくても、屋外では色の違いが目立つこともあります。
やり直しを考える際には、まず、現在のどの部分が気になるのか、どのような色にしたいのかを伺います。周囲の天然歯になじませたい場合と、口元全体を今より明るくしたい場合とでは、目標とする色や、治療を検討する歯の範囲も変わります。
そのうえで、黄みや赤み、明るさ、光の通り方、表面の反射などを確かめ、色の差が生じている理由を調べます。同じ「色が合わない」という悩みでも、原因によって見直す内容は異なります。
差し歯の色を合わせるには、天然歯の特徴を読み取りセラミスト(セラミックを製作する歯科技工士)へ伝える必要があります。 さらに、天然歯の特徴を再現する材料と構造も検討する必要があります。
シェードガイドで確認できる範囲
歯の色を合わせる際には、「シェードガイド」と呼ばれる既製の色見本を使います。 歯科医師はA1・A2・A3などの人工歯を天然歯の横に並べ、近い色を選びます。 歯の色は、目で比較する方法のほかに測色機器や写真でも評価できます [1]。
歯科医師と歯科技工士は、シェード番号を使って色の基準を共有します。 シェード番号だけで、一本の歯にある特徴をすべて表すことはできません。
天然歯では、内部の象牙質と表面を覆う半透明のエナメル質などが重なって見えます。 歯の内部構造は部位によって異なるため、色や光の通り方も一様ではありません。 全体がA2に近い歯でも、歯ぐき側から先端までを一つの色では表せません [2][6]。
そのため、歯科医師は基準となるシェード番号に加えて、部位ごとの色の濃さや透明性も記録し、歯の特徴を歯科技工士へ伝えます。
色相・彩度・明度を分けて確認する
歯の色は、黄みや赤みなどの色相と鮮やかさを示す彩度、明るさを示す明度で説明できます。
セラミックが周囲より白く見える場合は、周囲の歯より明度が高い可能性があります。 セラミックが暗く見える場合には、周囲の歯より明度が低い可能性があります。 黄みや赤みを近づけても、明るさに差が残れば周囲の歯となじまないことがあります。
色合わせでは明度を確認しますが、違和感には明度以外の要素も関わります。 色相や彩度に加えて、透明性などの違いも分けて確認します [2]。
見かけの明るさは、修復材料自体の色だけで決まるわけではありません。 歯の膨らみや表面の凹凸と艶によって、光が反射する方向や広がりも変わります。 患者さんが色の違いと感じる部分に、形や表面性状の差が関わることもあります [2]。
光源と歯の乾燥による見え方の変化
ある照明で同じ色に見える二つの対象が、別の照明では違って見えることがあります。 照明によって二つの色の見え方が変わる現象を、「条件等色(メタメリズム)」と呼びます。
天然歯とセラミックでは、光を吸収・散乱・透過させる性質が同じではありません。 光の性質が異なるため、診療室で合って見えても自然光では違って見えることがあります。 歯科医師が照明条件を整え、異なる光源で確認すると色合わせの判断に役立ちます。[2]
天然歯には、紫外線などを吸収して可視光を放つ「蛍光性」という性質があります。 修復材料にも蛍光性を持つものがありますが、発光の強さや性質は天然歯と同じとは限りません。 色合わせでは蛍光性も考慮しますが、屋外の色差を蛍光性だけでは説明できません。[3]
当院と技工所では、VITA-LITEを光源として、歯の色を読み取り記録しています。採色時の照明条件をそろえるとともに、ブラックライトの下でも天然歯と修復物を比較し、蛍光による見え方を確認します。
色を記録するときに天然歯の乾燥にも注意する必要があります。 天然歯は乾燥すると、通常より白く明るく見えることがあるためです。 歯科医師が乾燥した歯を基準に選ぶと、通常の状態に戻った後で色差が生じる可能性があります。 色の記録は、処置によって歯が乾燥する前に行うことが基本です [4]。
セラミックの内側にある色と厚み
光を通すセラミックでは、内側にある歯や土台の色も外からの見え方に関わります。 以下では、かぶせ物を内側から支える歯や土台を「下地」と呼びます。
同じ色のセラミックでも、下地が明るい歯か変色した歯や金属かで見え方が同じとは限りません。 下地の影響は、セラミックの種類や透明性、厚みやセメントによって変わります。 二ケイ酸リチウムセラミックの実験研究でも、下地による色への影響が報告されています [5]。同じ研究では、材料の種類と厚み、セメントによる色への影響も報告されています [5]。
下地の色を隠すことと、天然歯に近い光の通り方を再現することは別に検討します。 光を通しやすい材料は下地の影響を受けやすく、下地を透けにくくすると光の通り方も変わります。
暗く見える差し歯をやり直す場合も、明るい色の材料に替えるだけで合うとは限りません。 歯科医師は下地をどこまで遮るかを確認し、修復物に確保できる厚みも検討します。 確保できる厚みと遮蔽の範囲で、周囲の歯に近い明るさや透明性を再現できる構造を検討します。
歯科医師から歯科技工士へ伝える情報
かぶせ物を製作する歯科技工士が、患者さんの歯を直接見られるとは限りません。 歯科医師は診療室で読み取った特徴を、製作に使える情報として歯科技工士へ伝えます。
シェード番号に加え、色見本と歯を同じ画面に収めた写真や、部位ごとの色の記録を共有します。ただし、写真の枚数を増やせば正確に伝わるわけではありません。照明や撮影条件が異なると、同じ歯でも写真に記録される色が変わります。周囲の天然歯の特徴とともに、下地の色や、セラミックに確保できる厚みも伝えます。
当院の前歯の多色築盛ポーセレンクラウンは、oral design メンバーのセラミスト、内海賢二氏が製作します。 内海氏はCreation陶材を使い、色や光の通し方が異なる陶材を重ねて製作します。 院長は患者さんの希望と周囲の歯の特徴を、製作に必要な情報として内海氏へ伝えます。 内海氏は陶材の組み合わせと配置、厚みを調整しながら色や透明性を再現します。
色調が複雑な症例では、セラミストが技工所またはクリニックで患者さんの歯を直接確認します。写真や色番号だけでは伝えきれない特徴を実際に観察し、その内容を彩色に反映します。 当院では、治療後の口元をご本人がどう受け止めるかも確認しながら進めます。
差し歯をやり直す際に確認すること
セラミックをやり直す際は、現在の歯のどこが気になるのかを、周囲の歯と比べながら具体的に確認します。白さや黄み、先端の暗さに加えて、いつも違って見えるのか、特定の照明で気になるのかも伺います。 確認した違いを、色・透明性や形・表面反射、下地の条件に照らし合わせます。
装着したときから違っていたのか、あとから目立つようになったのかも確認します。気になり始めた時期や、それまでに受けた治療を伺い、周囲の天然歯も含めて変化を調べます。
確認した違いを、色や光の通り方、形や表面反射、下地の条件に照らし合わせます。明るさの差が主な問題なのか、暗い下地が透けているのか、表面の反射が異なるのかによって、見直す内容は変わります。
診察後には、希望する色に近づけるために何を変える必要があるか、現在の歯や土台の条件ではどこまで対応できるかをご説明します。
試適での色の確認
完成したセラミックは、最終的に装着する前に、口の中で合わせる「試適」を行います。この段階で、周囲の歯と並んだときの色や見え方を、患者さんご本人にも確認していただきます。
歯科医師が色を評価するとともに、最初に気になっていた部分や、希望していた明るさについても確認します。違いが気になる場合は、その部分を伺い、見直す内容を検討します。
ご相談のときに伝えていただきたいこと
ご相談の際は、どの歯のどの部分が、周りの歯とどう違って見えるのかをお聞かせください。室内と屋外など、色の違いが気になる場面や、気になり始めた時期も、分かる範囲でお伝えください。専門用語で説明する必要はありません。
周囲の歯になじませたいのか、口元全体を明るくしたいのか、希望する仕上がりも伺います。歯の状態を診察したうえで、色を合わせるために何を見直す必要があるかをご説明します。
診察や治療計画の説明までの進め方は、「初診の流れ」をご覧ください。
初診の流れ文献
- Joiner A. Tooth colour: a review of the literature. J Dent. 2004;32 Suppl 1:3–12.
- Sikri VK. Color: Implications in dentistry. J Conserv Dent. 2010;13(4):249–255.
- Volpato CAM, Pereira MRC, Silva FS. Fluorescence of natural teeth and restorative materials, methods for analysis and quantification: A literature review. J Esthet Restor Dent. 2018;30(5):397–407.
- Burki Z, Watkins S, Wilson R, Fenlon M. A randomised controlled trial to investigate the effects of dehydration on tooth colour. J Dent. 2013;41(3):250–257.
- Pires LA, et al. Effects of the type and thickness of ceramic, substrate, and cement on the optical color of a lithium disilicate ceramic. J Prosthet Dent. 2017;117(1):144–149.
- Hasegawa A, Ikeda I, Kawaguchi S. Color and translucency of in vivo natural central incisors. J Prosthet Dent. 2000;83(4):418–423. doi:10.1016/S0022-3913(00)70036-9.




執筆者
田中良一
表参道歯科アールズクリニック院長
東京医科歯科大学(現 東京科学大学)卒業、山王病院歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)を経て開業。審美修復をはじめ、歯周病やインプラント分野でも国内外で研鑽を積み、知識と技術を培ってきました。歯や歯ぐきの健康、かみ合わせを確かめながら、修復した歯が顔立ちや表情になじみ、ご本人が自分の口元として感じられることを大切にしています。
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