
Written by 田中良一 表参道歯科アールズクリニック院長
「自然な仕上がりにしてください」。前歯の修復治療をお引き受けするとき、よく伺うご希望です。
そのご希望を具体的な形にするには、歯の白さだけでなく、色の変化や光の通り方、形、表面の状態がどのように関係して見えるのかを考える必要があります。
天然歯の見え方には、エナメル質と象牙質の構造、一本の歯の中にある色調の変化、歯冠の形、表面の凹凸、摩耗などが関わっています。歯の形が変われば光の反射も変わり、表面の状態が変われば光沢も変わります。色や形を一つずつ合わせるだけでは、一本の歯として自然に見えるとは限りません。
ここでは、歯の構造、色調、形、表面性状、光の関係が天然歯に見られるように成り立っていることを、「天然歯らしさ」として考えます。
また、天然歯に近い歯を作ることと、その方の口元になじむ歯を作ることは分けて考える必要があります。まず一本の歯がどのように見えるのかを整理し、そのうえで口元全体との関係を考えていきます。
エナメル質と象牙質がつくる天然歯の見え方
通常、口の中に見えている歯冠は、主に性質の異なる二つの硬い組織からできています。外側を覆っているのがエナメル質で、その内側に象牙質があります。
象牙質は黄みなどの色を持ち、その歯の基本となる色調に大きく関わります。エナメル質は象牙質の外側を覆い、入ってきた光の一部を通しながら、散乱させたり反射させたりします。
歯に入った光の一部はエナメル質を通って象牙質に届き、内部で散乱したあと、再び外へ出てきます。私たちが見ている天然歯の色は、表面で反射した光と、内部で吸収・散乱された光が重なって生じています [1]。
エナメル質と象牙質の厚みや割合は、一本の歯の中でも同じではありません。一般に歯ぐきに近い部分では象牙質の色が現れやすく、先端ではエナメル質を通る光や、背後にある口の中の暗さも見え方に影響します。その程度は、歯の構造や摩耗の状態によって異なります。
歯の中を光がどのように通るかも、こうした構造によって変わります。単に光を多く通す材料を選べば、天然歯と同じように見えるということではありません。
天然歯にみられる色調と明度の変化
歯科では、A2やA3などの記号を使って歯の色を表すことがあります。色を比較するときの基準として役立ちますが、一本の天然歯にある色の分布をすべて表せるわけではありません。
歯ぐきに近い歯頸部、歯の中央部、先端にあたる切端部では、それぞれ見え方が異なります。隣り合う歯同士でも、必ずしも同じ色調ではありません。
色を考えるときには、黄みや赤みなどの「色相」、色の強さを表す「彩度」、明るさを表す「明度」を分けて見ます。色みが近くても、一本だけ明るければ白く目立ち、暗ければ周囲より沈んで見えることがあります。そのため、色みだけでなく、明るさや色の強さも確認します [1]。
天然歯には、近紫外線などを吸収して可視光を放つ「蛍光性」もあり、とくに象牙質の影響が大きいことが知られています。蛍光性も、照明に含まれる光の成分が変わったときの見え方に関わります[1]。
中央にある中切歯、その隣の側切歯、さらに外側の犬歯も、必ずしも同じ色調ではありません。周囲の天然歯に合わせて修復するときには、一本ずつの色と、前歯全体の色の関係を見ていきます。
前歯を明るく整えたい場合にも、目標とする白さの中で、歯ぐき側から先端に向かう色の変化や、隣り合う歯との関係を考えることができます。白くしたいという希望と、天然歯に見られるような質感を求めることは両立します。
形態と光の反射による見え方の変化
実際の口元では、歯の形と色を切り離して見ることはできません。同じ色調の材料を使っていても、表面の膨らみや面の向きが変われば、光を反射する位置や強さが変わります。
前歯の唇側には、正面を向く面から隣の歯側を向く面へ移り変わる部分があります。この境界を「隅角」と呼びます。正面から光が当たると、左右の隅角に挟まれた部分は光を返しやすく、その外側では反射の仕方が変わります。
隅角の位置が変わると、歯そのものの幅が同じでも、広く見えたり細く見えたりします。天然歯に近い形を再現するには、歯の外形や長さだけでなく、面がどこで切り替わるかも確認する必要があります [2]。
光の反射は、照らす方向や見る角度によっても変わります。そのため正面から見た輪郭だけで判断せず、角度を変えたときに歯がどう見えるかも確認します。
天然歯の形態にみられる左右差と個体差
天然歯では、左右の歯で幅や輪郭、傾き、摩耗の程度が異なることがあります。一方で、左右にある同じ種類の歯には、よく似た形や寸法もみられます。前歯の隅角間の幅を調べた研究でも、多くの歯種で左右の対称性が確認されています [3]。
そのため、天然歯には左右差があるという理由だけで、修復した歯を意図的に不揃いにする必要はありません。まず正中や左右の中切歯の釣り合いを見たうえで、側切歯や犬歯との違いや、その方の歯列にみられる特徴を考えます。
上の前歯の先端が描く線も、歯の長さや形、位置、摩耗によって変わります。曲線を描く歯列もあれば、比較的平らに見える歯列もあります。一つの並び方だけを天然歯の基準にすることはできません。
歯同士が接触するところから先端側に開く空間は、「切縁の鼓形空隙」と呼ばれます。歯ぐき側にできる隙間とは異なり、その大きさや形も、一本ずつの歯の輪郭と前歯全体のつながりに関わります。
天然歯の形を考えるときには、左右に共通する規則性と、その方にみられる個体差の両方を歯列の中で見ていきます。
表面性状と光沢が天然歯の質感に与える影響
天然歯の表面には、歯冠全体の大きな膨らみに加えて、浅い溝や隆線、さらに細かな凹凸があります。こうした表面の状態を「表面性状」と呼びます。
表面の凹凸が変わると、光が反射する方向も変わります。同じ照明と角度で見た場合、滑らかな面では一定の方向へ光がまとまって反射しやすく、細かな凹凸がある面では複数の方向へ光が分かれて反射します。この違いが、光沢や表面の質感として見えます [1]。
修復物に表面性状を付ける目的は、単に歯の模様を再現することではありません。表面性状は、明るさの印象や立体感、光沢にも関わるため、色や形とあわせて調整します。
周囲の歯が穏やかな光沢なのに、修復した一本だけが強く光を反射すると、色が近くても違いが目立つことがあります。表面を粗くすること自体を目的にせず、周囲の歯に残っている凹凸や光沢を観察して合わせます。
加齢による変化
天然歯の外観は、年月とともに変化します。歯同士の接触による摩耗や、酸による歯質の溶解などによって歯がすり減ると、表面の凹凸や切端の形、色の見え方も変わります。内側の象牙質にも変化が生じるため、若い歯と年齢を重ねた歯では、色調や表面の見え方が異なることがあります [4]。
こうした変化の現れ方には個人差があります。年齢だけを基準に、その方にふさわしい歯の色や形を決めることはできません。また、摩耗や亀裂の中には治療上の評価が必要なものもあり、自然に生じた変化だから、そのまま残してよいとは限りません。
一本の歯を周囲に合わせる場合には、隣の歯にどの程度の摩耗があり、表面がどのような状態になっているかを参考にします。一方、白さや形を若々しく整えたいというご希望があれば、その希望を出発点に、治療する範囲と周囲に残る歯との関係を検討します。
加齢による特徴を観察するのは、年齢を重ねた状態をそのまま再現するためではありません。どの特徴を変えたいのか、どの特徴を周囲と合わせる必要があるのかを判断するためです。
天然歯の個体差を修復物に再現するということ
天然歯には、白い斑点や細かな亀裂、色調の濃淡など、さまざまな特徴があります。しかし、天然歯に見られる特徴をすべて修復物へ加えれば、天然歯らしく見えるわけではありません。
表面にある色の変化と、歯の内部から見えている変化では、光との関わり方が異なります。同じような色に見えていても、その位置や深さが違えば、見る角度や照明を変えたときの見え方も変わります。
そのため、天然歯の特徴を表面の模様として写すだけでなく、その特徴がどこに、どの程度の広がりと深さで見えているのかを観察します。天然歯の内部構造や外形から生じている見え方を、人工材料の中でどのように表現するかを考えます。
また、どの特徴を再現するかは、ご本人の希望も含めて判断します。白斑や着色そのものが気になっているのであれば、それを残すことを前提にはしません。亀裂のように見える色の線を陶材の中に表現することと、修復物そのものに亀裂を作ることも別です。
天然歯らしさを表現するために、傷みや不規則性を意図的に増やす必要はありません。周囲の歯に合わせるために必要な特徴と、ご本人が変えたい特徴を分けて考えます。
修復物が人工的に見える主な要因
修復した歯が人工的に見える原因は、一つではありません。周囲の天然歯と比べて、色調や明度、形、表面性状、光沢などの関係に差があると、その違いが目につくことがあります。
天然歯と修復物は、いつも同じ照明や角度で見られるわけではありません。正面と斜めでは光の反射が変わり、照明が変われば色の見え方も変化します。
光の各成分を反射する性質が異なる二つの物が、ある照明の下では同じ色に見える現象を、「条件等色」または「メタメリズム」と呼びます。照明を変えると二つの色が一致しなくなることがあり、天然歯と修復物の色合わせでも確認が必要です [1]。
そのため、診療室の一つの照明だけで色が合って見えることを目標にするのではなく、光や見る角度が変わったときにも、周囲の歯との違いができるだけ小さくなるように考えます。
前歯一本の修復が難しい理由
前歯を一本だけ修復する場合には、合わせる基準となる天然歯がすでに隣にあります。
隣の歯にある色調や明度、形、表面性状、摩耗の程度、切端の形を観察し、それらとの関係の中で一本の修復物を作ります。
複数の前歯を同時に修復する場合は、修復物同士の色や形を調整できます。一方、一本だけを修復する場合には、すでに存在する天然歯に合わせるため、小さな違いも目につきやすくなります。
だからといって、修復する一本に合わせるために、健康な隣の歯まで治療する必要があるという意味ではありません。残っている天然歯を基準として、修復する一本をどこまで合わせられるかを検討します。
また、天然歯は一つの照明条件だけで見られるものではありません。正面と斜めでは反射が異なり、明るい場所と影の中でも見え方が変わります。診療室では合って見えていても、別の場所では修復物だけが違って見えることもあります。
前歯一本の修復では、単に一つの色を合わせるだけでなく、周囲の天然歯と同じ環境に置いたときに、色、形、光沢、反射の違いができるだけ小さくなることを目指します。
天然歯を再現するための観察と記録
天然歯の情報を記録する際は、色見本の記号に加えて、一本の歯をいくつかの領域に分けて観察します。
- 歯ぐきに近い部分の色調
- 中央部の明るさと色の強さ
- 先端の透明感や内部に見える構造
- 白斑、色調の濃淡、亀裂に見える線
- 表面の溝や隆線、光沢
- 光を強く反射する面の位置
必要に応じて、こうした特徴を写真や記録に残し、修復物を製作する歯科技工士へ伝えます。色、形、表面の情報を関連づけて共有することで、診療室での観察を実際の製作につなげます。
色調の観察は、歯を長く乾燥させる前に行います。天然歯は乾燥すると白く明るく見え、普段の湿った状態とは違う色を記録する可能性があるためです。臨床試験でも、乾燥によって歯の色が変化することが確認されています [5]。
多色築盛ポーセレンによる見え方の再現
天然歯の見え方に近づけるには、表面の色だけでなく、歯の内部で光がどのように通り、散乱し、吸収されるかも考える必要があります。
多色築盛ポーセレンでは、色調や光の通し方が異なる陶材を、必要な位置に重ねて製作します。
- 下地の影響を調整する層
- 象牙質に相当する色調と明るさをつくる層
- 内部の色調変化を表現する部分
- その外側を覆う、エナメル質に相当する層
こうした陶材の重なりは、天然歯の組織そのものを複製するものではありません。性質の異なる人工材料を組み合わせ、天然歯に見られる色と光の分布に近づけるための方法です。
陶材を一律の厚さで重ねるのではなく、観察した天然歯の見え方に応じて、それぞれの位置や厚みを変えます。陶材の層の厚さによって色の見え方が変わることは、試験片を用いた研究でも確認されています [6]。
陶材は、築盛した状態のまま完成するわけではありません。焼成すると収縮するため、焼成後の形や厚みを確認し、必要であれば陶材を加えて再び焼成します。その後、歯の形を整え、表面の凹凸や光沢も調整します。
また、修復物の下にある歯やフレームの色、陶材に使える厚みなどによって、表現できる範囲も変わります。陶材の層を多く重ねれば自然になるとは限らず、色調、形、表面性状が一本の歯としてつながって見えることが必要です。
天然歯とセラミックの違いと再現の限界
セラミックを使って天然歯に近い見え方を作ることはできますが、天然歯の組織そのものを再現しているわけではありません。エナメル質に相当する部分に使う陶材も、その組成や微細な構造まで天然のエナメル質と同じではありません。
そのため、ある照明や角度ではよく似て見えても、光源や見る角度を変えたときに、天然歯とセラミックが同じように見えるとは限りません。
天然歯は乾燥しても見え方が変化しますが、その性質をセラミックにそのまま当てはめることはできません。両者を比較するときには、天然歯の湿り方や照明など、観察する条件にも注意します。
長く使用したときの摩耗や表面の変化も、天然歯とセラミックが同じ経過をたどるとは限りません。治療時に周囲の歯となじんで見えていても、その状態が変わらず続くと約束することはできないため、治療後も周囲の歯との関係を確認していきます。
人工材料と天然歯の違いを理解したうえで、実際に口の中へ入れたときの見え方を確かめながら、周囲の天然歯との違和感をできるだけ小さくすることを目指します。
審美修復において天然歯らしさを追求する理由
当院が天然歯らしさを重視するのは、修復した一本だけが口元の中で目立たず、顔立ちの中に無理なく収まる状態を目指しているためです。
そのためには、色調や表面の見え方を天然歯に近づけるだけでなく、歯の大きさや形、位置を、歯列や歯ぐき、唇、顔立ちとの関係の中で考える必要があります。
さらに、歯科医師や歯科技工士から見て周囲になじんでいることと、ご本人が自分の口元として受け止められることも同じとは限りません。天然歯の外観をどこまで再現できているか、口元全体の中でどう見えるか、ご本人がその変化をどう感じるかは、それぞれ確認します。
天然歯らしさは、当院が修復治療で目指す状態を支える要素の一つです。白さや形を整えたいというご希望を伺い、歯や歯ぐきの健康とかみ合わせを確認しながら、その方の口元に合う修復を考えていきます。
参考文献・資料
- Sikri VK. Color: Implications in dentistry. J Conserv Dent. 2010;13(4):249-255. doi:10.4103/0972-0707.73381.
- Kallala R, Gassara Y, Azouzi I, et al. Facial Line Angles: A Key to Tooth-like Rehabilitation. Case Rep Dent. 2022;2022:4917536. doi:10.1155/2022/4917536.
- Wen C, Ye H, Chen H, Zhou Y, Huang M, Sun Y. Biometry of width between labial transitional line angles in anterior teeth: an observational study. J Adv Prosthodont. 2022;14(1):1-11. doi:10.4047/jap.2022.14.1.1.
- Chan AKY, Tsang YC, Lai EH-H, Chu CH. Tooth Wear in Older Adults: A Review of Clinical Studies. Geriatrics (Basel). 2024;9(1):12. doi:10.3390/geriatrics9010012.
- Burki Z, Watkins S, Wilson R, Fenlon M. A randomised controlled trial to investigate the effects of dehydration on tooth colour. J Dent. 2013;41(3):250-257. doi:10.1016/j.jdent.2012.11.009.
- Xu B. Effects of dentin and enamel porcelain layer thickness on the color of various ceramic restorations. J Esthet Restor Dent. 2021;33(7):1051-1058. doi:10.1111/jerd.12802.




執筆者
田中良一
表参道歯科アールズクリニック院長
東京医科歯科大学(現 東京科学大学)卒業、山王病院歯科医長(審美歯科・歯周補綴担当)を経て開業。審美修復をはじめ、歯周病やインプラント分野でも国内外で研鑽を積み、知識と技術を培ってきました。歯や歯ぐきの健康、かみ合わせを確かめながら、修復した歯が顔立ちや表情になじみ、ご本人が自分の口元として感じられることを大切にしています。
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